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変顔+リンドウ=ゴリランドウ



「……はぁ?」



 いや、予感は出来ていた。出来ていたのだが、「世界を構成している存在の王」という激しい重圧に混乱した頭が、底冷えした声を絞り出した。

 出した当人の僕が驚いてしまう程の冷えた声をリンドウがどう解釈したのか知らないが、どうもあまり良い方には解釈してくれなかったらしい。



「な、なんだい不満気だね……シベストリアが決めた事さ。あたいに文句言わないでおくれよ」



 そんな声を出すお前の方が間違っている、と言いたげに僕を見ながら怯えたようにずりずりと後ずさっていくリンドウの真意はともかく。

 文句を言われる事に慣れていないのかもしれないけれど、少なくとも神の使いよりは一般な存在に対してその避け方はどうなのだろうか。


 とうとう僕から10m程離れた場所に腰を据えてしまったリンドウに、何とも吐き出し難い虚無感が生まれた。

 ……別に怒った訳じゃないんだけどなぁ。


「……そんなに怯える事は無いんじゃないのかい?」



 少なくともリンドウが怯える必要がある程僕は恐ろしい存在ではないはずだ。

 そういう意味を込めて呟いてみると、リンドウの肩が「びっくぅ」と効果音を伴いそうな勢いで跳ねた。肩壊れるよ?



「……。……う゛っうん! 続けるよ」


「うん」



 充分な間はリンドウに落ち着き、と羞恥を与えたらしく、リンドウの強がりな咳払いが聞こえた。

 ……無理に「凛々しい女」的な声を保たなくても、外見で押し通せると思う僕は間違っているのだろうか。



「シベストリアがどうして精霊王にあんたを転生させたのか知らないけど、結論から言わせてもらうよ」


 びしっ、と効果音を伴いそうな勢いで僕を指差すリンドウ。

 別にそれだけなら強調の意味を為すだろうが、何を強調したいのか、リンドウが上唇と鼻がくっつきそうなくらい口を開ける。


 ……あーあ、まるでゴリラじゃないか。折角の美人が勿体無い。

 心は読まれている筈だが、アーヴァローネにはゴリラ自体が存在しないのだろうか。普通の女性なら憤慨するだろう僕の思考にリンドウは突っ込んでこない。

 ……もうゴリランドウで良いね。



「あんたはこのアーヴァローネで精霊王として生きていく他に、道は無いって事さ!」



 一撃必殺の一言を言い放ったような空気になっているけれど、精一杯溜めた割には比較的どうでもいい事を言うねゴリランドウ。

 長い沈黙。

 仕方ないから、ゴリランドウが羞恥心で悶え出す前に口を開いた。



「うん、解ったありがとう末永く幸せにね」


「解った、幸せにするわ」



 話を斜めですら無い方向に逸らして事実確認から進展して貰いたい。ので、とりあえず全く関係の無い事を口に出して軌道修正を試みた。

 ゴリランドウも上手くノッてくれたようで、普通にありがたい。何度も軌道修正の逸らし言葉を考えるのは精神衛生的に来る物がある。


 よしよし、と一人頷いていたら。



「……いや待ちなさいよ何か突っ込み無い訳!?」



「……。リンドウって、マゾなのかい?」


「いや違うけど!?」



 何だ、せっかく傷が浅い内に話を正しい方向に導いてあげようとしたのに。


 こういう言い方をしてしまうと、ゴリランドウは所謂「マゾヒスト」の部類に入る事になってしまう。残念ながら僕は、気の強そうな外見とのギャップに喜ぶような人間では無い。ので、否定の言葉にちょっとした安堵を覚えた。



 ゴリラは知らないのにマゾヒストは知っているという謎の設定。



 …………。

 改めて考えてみるとちょっと無理があるよね、その設定。


 「やかましい設定言うな」的な視線を注がれている事に気付いた瞬間に心から消え去った思考だと信じたい。


 色々と聞きたい事はある、見捨てられては真面目に困るので、少し質問したい事を纏めてみる事にしようか。

 質問がある、という事は流石に読心してくれているらしく、ゴリランドウは黙ったまま腕を組んでいる。

 えーと、まずは魔法の使い方、とかだろうか。精霊王の仕事的な物があるのか、というのも気になる事ではあるけれど、青鏡世界の女神から「アーヴァローネは剣と魔法の異世界だ」と聞いている。



 つまりは恐らく、魔物がいるって事だ。


 仮にもゴリランドウは神の使い、僕とずっと一緒にいてカーナビの役割を果たしてくれる訳では無いだろう。その状態でこんな所に放り出され、挙げ句魔物に襲われましたなんて洒落にならない。

 よし、とゴリランドウを見た途端、ゴリランドウの耳に付いている黒い、何だろう……恐らくインカムの部類に入る機械が淡い光を放った。

 よく聞いてみると、ピピピピ、と安っぽい音を響かせてもいる。電話か。



「はーい……シベストリア様!?」


 シベストリア……?

 アーヴァローネに僕を転生させた張本神とも言える、神。ひいてはゴリランドウを此方に遣わせた神。

 その神から電話(?)って、何かやらかしたんだろうか、ゴリランドウ。


 スピーカーか何かになっているのか、インカムから声が響いてくる。

 エコーが掛かっているような声質だけれど、それでも解るくらい澄んだ、綺麗な声だ。



『――リンドウ。この時間には呼び出しますから、以前の転生者の時のように何時間も放って置いて適当なタイミングで叩き起こした挙げ句ろくに説明をしない、なんて事態にしないように、とわたくしは言った筈ですね?』


「ひ、ひゃい……」



 あれだけ気の強い女性を保っていた瞳が、みるみる涙目に変わっていく。

 側で、ただ零れる女神の声を聞いているだけの僕すら、シベストリアに、ゴリランドウに何か言う事は叶わない。


 やがて女神の声が、微かに笑いを紡いだ。



『リンドウ――まさか、今回の転生者もそんな風にはしていないでしょうね? きちんと説明をし、良いスタートを切る事が出来るように、しているのですよね?』


「も、勿論ですシベストリア様……今すぐ……貴女の元へ戻ったって良いくらいで」


『ふふ……頼もしい限り。流石はわたくしの使いです。あなたを信頼しているから、わたくしはあなたの心を読まぬようにしているのですよ、リンドウ。早速その期待に応えてくれるとは、優秀です』



 リンドウのかつての転生者に対する応対が暴露されていく中、割と聞き捨てならない発言が聞こえた。

 ……僕、何にも説明受けてないよね? 女神の威圧感で言葉継げないけど、何にも説明受けてないよ?



 シベストリア様……僕が側にいるって気付いてないのかな。



 一瞬の間を置き、声しか聞こえないというのにペコペコと頭を下げる気の強い女性(笑)ゴリランドウの足元に、輝く魔法陣が広がった。

 神の呼び出しらしい。未だシベストリア様と電話が繋がっているのか、ゴリランドウは此方を見ようともしない。


 ついでに僕は何も言えない。主に溢れる女神の威圧感で。


「あっ」



 僕が思わず声を漏らしたその瞬間、魔法陣が消えた。

 ゴリランドウも消えた。



 虚しく響き渡る知らない鳥の声。ギャアー……。



「…………どうしろと?」





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