何故?
…………落ち着け。落ち着け僕。思考停止なんてしていない。落ち着いて考えろ。
神に気に入られて転生する者?
神に気に入られて、転生する?
結論から言って、理解は全く不可能だった。僕を責めないでほしい。言われてる事が突拍子も無いからだ。
「……。……どういう事ですか?!」
「……落ち着け。妾はあやつのように説明をすっぽかしたりはせぬ」
誰だよあやつって。
小さな突っ込みは精一杯努力して飲み込み、女性が説明してくれるのを待つ事にする。
やはり読心術に優れているのか、僕の心が落ち着いたというタイミングで女性の唇が開いた。
「……運命によってお主は死んだ。そのまま、本来ならば地球に転生させるつもりだったのじゃが――シベストリアという女神に待ったをかけられての」
「シベストリア、様」
「……何じゃ、お主らの世界でいう所の、剣と魔法の世界――アーヴァローネという世界の神じゃ」
恐ろしいくらいテンプレ異世界だね。
そう思った瞬間、読心術女性の顔が若干「ゴキに転生させてやろうか」的な凶悪な光を孕んだ気がしたので、余計な事を考えるのはやめておく。
テンプレ異世界転生ありがたいです。
女神様ありがとう。
「……あやつは、こう……母性というのか。異世界で理不尽な運命で死する者にやたら目を掛ける癖があっての」
「……」
様々な世界の人がアーヴァローネに転生していそうな気がする。
母性が強い女神様、何とも「まさに女神です」的な容貌が浮かんできそうな単語だ。
「……かといって、理不尽な死を迎えた全ての魂をアーヴァローネに迎えていては管理が大変じゃ。じゃからシベストリアは、百年に一度だけ、理不尽な死を迎えた魂をアーヴァローネに転生させておる」
「……今回が僕だった、って事ですか?」
「……そうじゃ」
……異世界の女神様から見ると、理不尽な死に方だったらしい。こういうのは、本人はなかなか気付けないものだ。僕も例外じゃない。
理不尽、かぁ……。
シベストリア様に目を掛けられたのが良かったのか悪かったのか解らないけれど、一度死して再び異世界で生きられる、というのは、世間一般から見れば喜ばしい事なのだろう。
説明している内に女性の表情に滲み始めた疲弊の色は、今現在かなり濃くなっている。
こういう説明が仕事の人なのかと思っていたけれど、案外違うのかもしれない。……慣れない事をすると疲れるのは結構解る。
こういう説明が仕事の人なのかと、の辺りで女性の柳眉がむっとした色を示した。
「……良いか。転生させる時は、転生者がもといた世界の神が転生先の世界の説明や転生の儀式を済ませねばならんのじゃ」
「………………あっ」
目の前の女性はどうやら、跪く必要性のある方だったらしい。慌てて土下座しそうになる僕を、女性は「構わん」の一言で立たせた。
紛れもなく神の威圧を感じた。
冗談や夢の可能性は、ずいぶん前に脳裏に刻まれた朱と痛覚に否定されたばかりだ。
疲弊しているらしい女性――恐らく女神と呼ぶべき存在は、相変わらずの無表情で僕をちらりと一瞥する。
死後最大の決断をさせる瞳。
「――で、どうするのじゃ? それなりの優遇はあると聞いておるが。ついでにこれを拒んだ場合、お主が転生するのは地球のどぶねずみじゃが」
「アーヴァローネに転生します」
女性が呆れたような視線を向けているような気がするが、知った事ではない。優遇はあるらしい転生とどぶねずみ転生と選べと言われてどぶねずみを選択する趣味は僕には無いのだ。
現金な回答で何が悪い。
「……解った。シベストリアも喜ぶじゃろう」
「……そう、ですかね」
「――あやつは人間を否定するような女神ではない」
僕を安心させようとしてくれたのか、ただ事実を告げただけなのか。
……両方、だったりしないかな。我が儘だろうか。
「……では、転生の儀式を執り行う。じっとしておれ」
「……」
僕の我が儘な心に気付いていないとは思えないけれど、もはや崩せない無表情の女性は何も言わない。
逆らう理由もなくじっとしている僕に初めて真正面から向けられた視線。心が跳ねる程美しい金色。
「――第二の命を送る者に、女神の祝福よあれ。命を迎える世界に、慈愛の輝きよあれ。ここにひとたびの祝福を以て、汝の次なる生に幸あれ」
足元に金色の魔法陣が現れる。
目を閉じてしまいそうになるくらい目映い光が全身を覆う。
視界が、薄れていく。
「さらば新たなる転生者よ。――そして、光よあれ」
意識が、途切れていく。




