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焚き火と大歓迎

遅筆申し訳ありません。


 パチパチ、と薪が爆ぜる音が聞こえてくる。


 しんと静まり返った暗い道が仄かに照らされて、野宿に縁の無かった僕にはひどく新鮮に映った。

 寝ていたら焚き火が燃え広がって灰になってました、なんて洒落にならない、ガーネットは十分自然鎮火するように火力を調整して焚き火に赤を灯してくれたようだ。


「ふぁ……」


「……精霊王様、眠いナら、寝ル」


「うん……大丈夫だよ。そういうアクアマリンこそ、眠いんじゃないのかい?」



 エメラルドの死骸から離れて日没の前に一区切り付けようと頑張り続け、やっとの思いで辿り着いた小さな洞穴。洞穴の前で焚き火をし、洞穴の中は就寝スペースとして現在お世話になっている。


 ……でも、慣れないのにやっぱり楽しいなぁ。高校生で野宿に憧れていた、のかな僕は。

 男の子ですからで済めば可愛い話だが、僕の場合少し違っていた、ような気もする。動機はよく覚えていないのが本音だ。


 火で目立って魔物が寄ってくる云々をガーネットに聞いてみたが、どうやらこの一帯の魔物は火を嫌う傾向にあるらしい。エメラルドしかり、自然系の属性を持つ魔物に富んでいるせい、なんだとか。


「……我ナら大丈夫。慣れテる」


「何で慣れたんだい……?」


 ちょっとした疑問を種に談笑を続ける。真っ暗な中に焚き火の赤が爆ぜて、何処からか梟のような声も響いてくる。さながらキャンプだ。

 最も、そんなに易しい事態でないのが事実なのだけれど。


「……!」


 ふぅ、と一息ついた所で、アクアマリンの目がキラリと光った。

 なんだ?と思う暇もなく、焚き火の側に刺してあった……こう、割と生な肉が引っこ抜かれる。


「……ふふっ」


 アクアマリンのまともな笑い声初めて聞いた気がする……!


「……精霊王様、焼けた」


 微妙に語弊のある言い方をしながらアクアマリンが差し出したのは、言わずもがな、ガーデンバードの手羽先っぽい何かだった。ほんのり焦げて香りも良く、元の世界ならばちょっとした豪勢な食事として採用出来そうな。それにしては作り方が野生的(サバイバル)すぎるのだけれど。


「うん、ありがとう」


 串も十分熱い、火傷しないように根元を摘んで受け取る。

 アクアマリンも手に取った所で、アクアマリンが十字を切った。ああ、サンライト、ムーンライト……のやつかぁ、と真似た途端。


「……純粋輝石(ダイアモンド)混瑞輝石(アレキサンドライト)、愛しき我らが精霊王よ」


「えっ」


 大袈裟に違う訳でもないけれど、結構違った。アクアマリンの無表情を見ても何も読めないが、精霊たちの「いただきます」と人間の「いただきます」は違うらしい。


純粋輝石(ダイアモンド)混瑞輝石(アレキサンドライト)、愛しき我らが精霊王よ……」


 とりあえず真似する。自分が「精霊王」の立場でもあるためか違和感が激しいが。

 ダイアモンド、アレキサンドライト。今まで会った精霊達の名前の羅列から考えて、精霊王なのは間違いない。先代か、若しくは精霊達の営みに貢献した精霊王か。

 ぼーっと考えていると、ガーネットの声で注釈が飛んで来た。


「歴代精霊王様の名前です。ダイアモンド様は初代、アレキサンドライト様は……先代の」


 初代と先代の名前を言うのが習わしなのか、と注釈を反芻する。しかし、ダイアモンドにアレキサンドライト…….なんというか、いかにも「すごい精霊です」という名前だ。

 振り向くと、ガーネットが後ろ手に何かを隠しながらやって来た。心成しか、ガーネットの背後に光が咲き乱れているような気もする。


「ねぇ、ガーネット。後ろの(それ)は……」


 少し果物を取りに行ってきます、と残して探索に行ったのは知っているけれど、アーヴァローネの果物は光るのだろうか。

 ガーネットが、緩く笑った。


「はい。精霊王様の気配を察知した、この辺りの精霊を纏める者が……お出迎えにと寄越したようです」


 ガーネットが、後ろ手に隠した何かを解放した瞬間。


「うわっ!?」


 赤、緑、黄色、銀色、青、紫____。

 ふわふわと揺らめく大量の光が、此方に向かって突っ込んできた。蛍のような淡い、様々な色の光____下位の精霊は実態を持たないのか、質量を感じた訳では無かったけれど。

 ふわり、ふわり。宵闇に虹を振り撒いたかのように優しい彩色。


「実態はないみたいだけれど……け、結構驚くねこれ……」


 あわあわと光に揉まれながら思わず苦笑が溢れる。

 嫌なわけではないけど、視界が遮られてちょっとパニックになりそうだね……。


「下位の精霊は実態を持ちませんから。意思こそ持てど、それを表に出す事も少ない精霊です。上位や、精霊王様ともなれば人型となりますが」


「へぇ……わっ、ちょっと口!!」


 実態は無いからって口に(せいれい)が入って来て平然と「元気ですねぇ」とか言ってられる程精霊慣れしてないんだよ僕は!?


 みゃーぎゃーやっている僕を見兼ねたのか、アクアマリンが無表情で言い放つ。


「……離れル」


 冷えた声だった。

 絶対的な上下関係に物を言わせた凍てつく命令が、僕の身体に引っ付いていた精霊達を引っぺがす。

 はぁ、と一息吐いてから、果物を抱えたまま精霊達を睨んでいるガーネットに向き直る。流石にちょっと怖い。


「ありがとうガーネット。美味しそうだね」


 効果音を醸し出すかとばかりにガーネットの表情が柔らかくなる。持参したらしいバスケットには、よく解らない形状の果物含めかなり沢山の果実が詰め込まれていた。


「精霊王様のお口に合うかは解りませんが……おい、アクアマリン」


 焚き火の側で船を漕ぎ出していたアクアマリンにも声が掛かる。

 アクアマリン含め、三人で囲んだバスケットの中身をガーネットが説明してくれた。


「同じ系統の果物に分けて集めてあります。比較的甘い物は、この……フレアとウォー、ポイズ。それから、甘酸っぱい部類ですがトーハ」


 物凄く刺激的な名前と外見の果物を四つ、ガーネットが持ち上げて説明した。確かに、バスケットのおおよそ右端を中心にそれらの果物が集められているらしい。

 ……ウォー、って「戦争」って意味だよね?

 ポイズって「ン」付けたら毒だよね?


 悩みに悩む僕を捨て置いてガーネットの言葉は進む。


「辛い、苦い。要は刺激的な味の物は……此方に」


 非常に端折られた説明と一緒に指差された左端には、少なくともまだまともな外見をした果物が……数え切れない程度に。この森に刺激的な果物が多いのか、ガーネットが刺激的な物好きなのかはさておき。

 それでは、なんてガーネットの声を合図に、僕らが十字を切った時だった。


『何やら、高位の気配を感じるとは思いましたが……納得いきますね。精霊王様……貴方様がおいでになっていました故か』



 優美な声が、緩く響いた。


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