予想外と想定外
周囲の全てを呪詛するような、濁った瞳。
ガーネットとアクアマリンの様子。敵意。警戒心。どれを取ったって叩き出される結論は、目の前の相手が一筋縄で引き下がってはくれなさそうな事。
「……aaaa……aaaaGYaaaaaa!!!」
「……喧しい同胞が来たものだな」
「……寝言ヲほざく同胞なンテ、黙っテ欲しい」
声と断定する事すら怪しい奇怪音を発する精霊――エメラルドは、ガーネットとアクアマリンの言葉に耳すら貸さない。
……否、貸せる耳があったならこんな事にはならないだろう。
きっと、堕ちる必要だってなかっただろう。
貸せる耳がなかったから、エメラルドは堕ちた。そして今、僕らの前に立ちはだかっている。
「……エメラルド……名前は聞いた事がある。植物を操る精霊のようだが……アクアマリン、お前は相性が悪いな」
「……喧しい。我一人でモ倒せル」
「普通ここで言い合いするかい……?」
目の前にシリアスな空気を大量に含んだエメラルドがいるにも関わらず普段通りのテンションを保てるこの二人の精神は一体どうなっているのだろうか。
……ある種の才能に思える。
「……アクアマリン。精霊王様の守りを頼む。植物に水を与えても栄養にしかならない――私が片付ける」
「……一分デ、片付けテ」
ガーネットは確か、炎の精霊だ。
エメラルド、なんて名前から想像出来る通り、草を操り、花を咲かせ、緑の木々に囲まれる精霊だとすれば、ガーネットは大層相性が良い。アクアマリンは大層相性が悪い。
……こんな事口に出したら睨まれそうだね。
素早い動きで此方に近寄って来たアクアマリンの背後……というよりはアクアマリンの方が身長が低いせいで僕が保護者のようになっているが……に情けなく隠されながら、ガーネットとエメラルドの対峙を見守る。
あくまでもエメラルドを先頭にしているだけで、精霊の数自体はかなり多い。
……本来ならば、一人で相手をすると聞かされた時点で止めなければならない。でなければ、私刑になりかねない。それほどの数だ。
なのに。
ガーネットは、淡く笑んだ。
「司るは炎、砕くは根元なる悪しき者____」
「聖火乱舞」
いきなり大技が飛び出したらしい。
ガーネットが使う魔法を全て把握していない僕が断定出来る事ではないのだが、発射された聖なる炎と、アクアマリンの「唖然としています」って感じの表情を見れば、普通初っぱなからぶちかます魔法ではない事くらいは悟れた。
うぞうぞと、まるで蛇か蔦で構成されたようなエメラルドの人影。
あれを悪魔とするなら、ガーネットの放った技はさしずめ、天使の聖火。
ばぎぃいいい、と異音が響き渡る。
「GYAAAAAAA――――!!!」
撒き散った異音を恨むような悲鳴が重なる。
ガーネットの指先から放たれた瞬間に開き、花を模した炎となってエメラルドに着火した炎の紅が見える。
……時間を掛けずに倒す、から逆算してあの攻撃を放ったのか若干怪しいような気がしてきた。
「……ガーネット、精霊王様の前だト、見栄っ張りニナル」
「……へ、へぇ……」
延々と煙を燻らせる炎を無表情に見詰めているアクアマリンの言葉は、ガーネットをフォローしたかったのだろうか。「前だト」がやたら強調されている。
……普段はあんな戦い方では無いのだろう。多分。
「――アクアマリン! 障壁を張れ!!」
「え……」
「……守る。我らノ魂まデ、全てヲ____」
「清碧流」
赤と灰色に覆われた視界の間を縫いとって、ガーネットの怒声が響いた。
無慈悲な翠緑の散弾が、飛来する。
眼前で水に弾き飛ばされた緑の散弾は、その激しさを物語るようにバウンドしながら地面に落ちた。
激しい攻撃で視界を覆ったのは、ダメージを与え、尚且つ相手の視界を塞ごうとしたのかもしれない。灰色の中を潜る緑の凶器が見えたなら、少なくとも自分が回避や攻撃をするには困らない。
警戒を示して障壁を張ったまま、アクアマリンの鋭利な声が飛んだ。
「ガーネット、どウイう事」
此方から見えているアクアマリンの表情は無表情だ。
声には、確かな怒気と、警戒と、僅かな疑問が混じっていた。
ガーネットの唇に答えが浮かぶより先に、晴れ渡る空から吹き落ちた風が、エメラルドに被さる煙のヴェールを剥ぎ取る。
何故、ガーネットの攻撃を食らいながら倒れず、反撃してみせたのか。
その秘密も、剥ぎ取ってみせた。
「AAAAAA――――ギヒヒヒェヒェッ」
悲鳴の演技はもう必要ないと判断したのだろうか。
長く尾を引く悲鳴はやがて、精霊というより魔物か化け物のような気味の悪い声に成り果てる。
簡単に炎が効かない訳だ。
「……只の植物じゃなかった、って事かい?」
「……あレジャあ、ガーネットも我も、相性ガ悪い」
人影は。
エメラルドの体表は。
――水をたっぷりと含んだ、水草と苔に覆われていたのだから。
水から出てきた訳でもないのに、ぼたぼたと水を垂れ流す水草と苔。
それらはエメラルドの髪となり、腕となり、更には身体となり――防御壁となる。
乾燥するのを待つ訳にもいかない。そもそも、断続的に追加されるエメラルドの水草を乾かす事は難しい。
だからといって、ガーネットの炎やアクアマリンの水でごり押し、なんてどれだけ時間が掛かるか。
何せ、エメラルドの身体を覆い尽くす水草が絶えず水を流すせいなのか、植物の精霊というより水の精霊といった方がしっくり来てしまう姿になっている。
垂れ流す水までは操作出来ないのだろうが、水草と苔には限界がないようだ。見ている前でべちゃべちゃぐちゃぐちゃと溢れてくる。
……有り体に言って。
「「「気っ持ち悪っ!!」」」
僕ら三人の声がハモった。
そのレベルで気持ち悪いのだ。いろいろ。
「……」
気持ち悪いエメラルドを無言で見ながら、ガーネットが「ぽい」と炎の玉を投げた。
べちゃべちゃと屯する苔に炎の玉が触れる。
エメラルドの腕から産み出された水だらけの苔に押し潰されて、消えてしまった。
「「「気っ持ち悪っ!!!」」」
先程もああやって防いだのかー、とかのんびり感心していられる場合ではなかった。
精神衛生的に悪すぎるだろう、あれは。誰だあんな風にデザインした奴は。
とにかく。
ガーネットの放った「聖火乱舞」のおかげか、エメラルドに付き従っていた精霊は大半が討伐されているが……流石に阿呆かと言いたくなるような相性の悪い精霊と戦うのは分が悪い。
かといって、素直に通してくれる訳でもないだろう。
何か、考えろ。
思考までコントロール出来ない程じゃないんだ。
……あっ。
「アクアマリン――」
「……何」
義理堅いのか何なのか、膠着状態のガーネットとエメラルドを尻目に、障壁に意識を注ぐアクアマリンに声を掛けた。
なけなしの発想に、確信を得るために。
「あいつの身体の水草から水分を奪えるかい? 無理なら――僕の言霊であいつを服従させられる可能性を教えてくれ!」
慣れない戦闘シーンです。
苔や水草は燃えるのか…?
違和感があれば指摘して下されば幸いです。




