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剣と忠誠心



「…………何だか、気が引けます」


「……うーん、まぁ仕方ないよ。アクアマリンの言う通り、見られた可能性が無いとは断言出来ないから」



 ガーネットの吃驚発言から数分後。

 とりあえず先程の発言には突っ込まないように理性をフル稼働させつつ、アクアマリンと少女……宿屋の馬獣人の少女の様子を眺めているのが今の僕らの現状だ。

 僕がアクアマリンを服従状態にした時、少女が気絶していたのは確認したけれど……もしかしたら見られていて、なんて可能性は否定しきれない。獣人がどうか知らないけれど、人は理解の範疇を越えた現象には特別興味を示し、記憶してしまうかもしれないのだ。だからこその処置。



「……全部、忘れル。流れル水に浚ワれるミタいに。【幻河ノ記憶(メモリア・ブレイク)】」



 アクアマリンの小さな詠唱が空気に流され、ふっと消える。沈黙した空間に青い光が散るのを見ながら、針のように胸に沈殿した罪悪感を呑み込んだ。



 処置として記憶を消す事を提案した時、どうやら炎の精霊であるらしいガーネットは記憶処置の手段を持ち合わせていない事実から、アクアマリンに任せる事になったのだ。本来、記憶や感情に働き掛けるのは闇の精霊らしいのだけれど……コントロールなんて言葉が辞書に無い僕が闇の精霊の力を使うよりは、やや大雑把な処置でも記憶に働き掛ける事が出来るアクアマリンの方が適任と満場一致の結論が出た。何だか虚しいのは気のせいだと思いたい。



「……アクアマリン、済んだのか?」


「……うン、精霊王様」


「お前な……」



 ここまで来るとむしろケンカップルとかいう部類に見えなくも無いが、何故か「済んだのか?」と質問したガーネットでは無く僕に返事を返してくるアクアマリンの表情は相変わらず無表情。雰囲気皆無だ。

 リア充爆発しろじゃないけど、もしカップルなら絵に描いたようなケンカップルだよね……。


「……まぁ良い……精霊王様、この後の事なのですが……」



 アクアマリンの謎反応を遂に諦めたらしいガーネットの瞳が僕を映す。夕焼けをそのまま切り取って貼り付けたような瞳。炎の揺らめき。

 暫く瞳を見てから、前世より高い目線のまま腕を組んでみる。



「……この後、かぁ。少し早いけど、補給品買ってバナ…アキバシの森に移動した方が早いと思う」

 バナナ、と言い掛けた瞬間に飛んできたガーネットの冷気溢れる視線に強制的にアキバシと言い換えさせられたのは一度水に流しつつ、とりあえずの案を出しておく。

 いくらトライアスロン開催まで時間があるとは言っても、早めにアキバシの森に行くに越した事は無いだろう。前世を借りるなら、「善は急げ」だ。この場合、間違っても「急がば回れ」は適用出来ない。

 僕の出した提案を暫く噛んで含めるように考えていたガーネットは、長い体感時間の後に一回きり頷いた。



「そうですね。記憶を消したとはいえ、少々騒ぎになるかもしれません。宿の当ても、また探すのは大変でしょうから」


「うん。確かにね」



 主に金銭的にというのが少々悲報でもある所だが、宿に泊まり直して補給品買って、なんて余計な回り道を兼ねるよりは普通に補給品を買ってアキバシの森に直行した方が早い。

 アクアマリンも納得なのか、口出しはしないながら賛同を示す頷きを繰り返していた。



「んー、それなら……あと買う必要がある補給品って、何があるんだい?」


「そうですね……服と、食料……は向こうで調達出来るか。それから、魔法が発動しなかった時に備えて、一応剣も買っておきましょうか」


「……服、我が買っタ。一応、非常食のガーデンバードもあル」


「…………」



 ガーデンバード、と聞いた瞬間に込み上げた罪悪感と、何気無くイケるガーデンバードの味は「忘れた事」と蓋をして記憶の隅に追いやっておいた。

 大至急思考を切り替えろとの脳からの命令を受けて僕の思考は既に「剣」に切り替わっている。ガーデンバードなんて聞いていない。よし。

 僕の格闘なんて露知らず、ガーネットは何かを思い出すように、やたら様になる物憂げな表情を浮かべて腕を組んだ。



「剣……精霊王様に相応しい、名剣……そうですね、配下の精霊を駆って聖剣か神剣辺りを……」


「待て待て待て待て」



 扱える訳が無いよね、聖剣神剣って。

 忘れ掛けていたのだが、ガーネットの忠義心は忠義を通り越して心酔だ。自分で心酔だなんて言いたくは無いのだけれど、剣ド素人の僕が扱える訳も無い剣の名前をずらずら並べあげる辺りが根拠である。


 思わず突っ込み代わりの連続音を口から発した僕を、鳩が豆鉄砲でも食らったような間抜けな疑問の表情で見ているガーネット。さて、どう説得したものかな。



「……ガーネット、精霊王様、魔法も剣モ、初心者……聖剣や神剣なンテ、扱えル訳無い……」

 すばりと言うのが適切な対処法だったらしい。やはり直接言われると心が悲鳴をあげるのだが、だからと言ってガーネットの言う事を鵜呑みにしたら魔法云々の前に剣の扱いで時間を潰してしまいそうだ。

 今回ばかりは感謝すべきアクアマリンの無慈悲ドストレート発言を頷いて肯定する僕を見逃さない程、ガーネットも駄目になってはいないだろう。

 ほら、納得した顔をして……。



「何を言っているんだアクアマリン。我らが精霊王様は本来、神に等しき存在なのだぞ? あれしきの剣、扱えない等と嘯くな、精霊王様に失礼だ」


 駄目になってたね。手遅れだ、あれ。ついでにこの場合、一番失礼なのガーネットだからね?

 ガーネットの無自覚プレッシャーが善意……というか、信仰心から来ているのは解るのだが、流石にあまり頂けない発言だった。実は精霊王は生まれたて転生したてでも聖剣や神剣を「はっはっはっ! こんなの屁でも無いぜ!」と扱える、剣技チートなのが通例、とかなら納得出来るが。生憎僕は魔法チート予備軍であって、剣技チートでは無い。と思う。

 そのまま魔法チートに思考が逸れ始めた僕と、何者も打ち消せないチート信仰心で「いかに精霊王が絶大な存在か」を延々と語り出したガーネットを見比べたアクアマリンの手が震えている事には直ぐに気付けなかった。よって。


「……ガーネット、我の話、聞ク……精霊王様、ガーネット、止めル……!」


「だから精霊王様は──いだっ」


「な、何故僕まで……」



 二人揃ってアクアマリンお手製のハイパー平手打ちを食らってしまった。




***


「……で、いい加減真面目に選ぼう。ガーネット、神剣とか聖剣が無いか店主さんに迫るのそろそろ止めよう」


 所変わって街中の武器屋の前。

 僕とアクアマリン、ガーネットは、早速武器屋を訪れていた。ちなみに、剣以外の物はガーネットやアクアマリンが持っていたり揃っていたりで特に買わなくて良いらしい。楽な事だ。

 さっきからぶれない信仰心で「ええい、何と品揃えの悪い……街ごと燃してやろうか……!」と物騒な発言を繰り返すガーネットに関しては、アクアマリンの平手打ちを恐れたチキン精霊王(僕)がアクアマリンの強制で見張りをしている。



「ヤヅキ様がおっしゃるなら」



 一応は街中、アクアマリンと同じように呼び方を「ヤヅキ様」としてくれている部分に関しては、ガーネットも配慮が出来るのだろう。出来れば信仰心にも配慮をして欲しい。

 他人の信仰心にどうこう口出し出来る物でも無いのだが、その信仰心の向かう先が自分となってくるとやはり何ともな気分だ。

 剣選び、というよりはガーネットの見張りを主にこなしながら道路を挟んだ向こう側の店で剣を見定めているアクアマリンの帰りを待つ。

 ……だからガーネット、店主さんに迫るのやめよう?



「……ヤヅキ様。今は魔法の上達ガ最優先だカラ、あまリ良い品じゃナイ。我慢スル」


「うん、大丈夫だよ。すまないね、アクアマリン。ありがとう」


 暫くガーネットの見張りをこなしている内にアクアマリンが帰って来たらしく、ふわりと感じた冷気帯びた雰囲気と共に落ち着いた声が聞こえた。 同時に視界に映る、一振りの剣。あまり良い品では無い、なんてアクアマリンは言ったけれど、剣というより刀に近い国の出身たる僕には、残酷なくらい美しく見えた。

 魔物も人も、文字通りの一刀両断にする鈍い銀色を纏った剣。柄の部分に控えめな彫刻が施されている以外は、ほとんど飾り気が無い。



「……綺麗な剣だね。嬉しいよ、本当にありがとう」


 何か言い掛けたガーネットを遮ってお礼を告げると、アクアマリンは無表情に頷く。そのままガーネットを振り替えって何やら言い合いを始めた精霊達はさておき、溢れたため息を抑えず吐き出した。



 さあ、いよいよ魔法の練習だ。



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