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火花と忠義



「……絶対魔法っていうのは、精霊魔法の一種なんだよね? 禁忌とか、そういう物なのかい?」


 やる気無し店員改め、統括管理精霊ガーネット。何があって真逆の性格に成り済ましていたのかはともかく、お詫びを兼ねたような時間は質疑応答に使われていた。

 そこで冒頭の質問に戻るんだけど……



「禁忌……いえ、それは有り得えませんよ、貴方様の使われる魔法が禁忌である訳がありません」


 ガーネット……忠義心高くないかい? 弁慶も吃驚なレベルだよ、これ。ありがたいといえばありがたいけれど、何となく盲信者を生暖かく眺めている気分だ。

 絶対魔法が禁忌でないと判断出来る理由が「精霊王が使う魔法だから」とかいう謎の忠義に悩ましい思いをしていると。



「シベストリア様は純潔と誠実の女神でもありますから、精霊王に禁忌を授ける事は無いでしょう」



 あ、ちゃんと根拠あったんだ。というかシベストリアって純潔と誠実の女神……何処かの月の女神か何かみたいだね。

 とりあえず根拠があっただけでもありがたいので、あまりにもチートな絶対魔法を禁忌か何かかと疑うのは止めておいた。



「……あとさ、ガーネット。あれ、どうすれば良いか知ってるかい?」


「……ああ、アクアマリンですか。何の魔法を掛けたか解りますか?」

 現在進行形の最大優先事項を指さしながらガーネットに聞いてみると、質問が返ってきた。

 どうにかしなければいけない事項第一位のアクアマリンを見ながら、少し考えてみる。間違った事を伝えては、いくら統括管理精霊といえど正しく対処はしにくいだろうし。


 ……確か、「抑えて」と言ったらこうなってしまったんだったかな。



「……えぇと、アクアマリンに「抑えて」みたいな旨の事を言ったら、こうなったよ」


「ふむ……強化版の言霊魔法か……」



 魔法ド素人の僕が皆目見当すら付かない中、魔法に慣れているらしいガーネットは顎を指でなぞりながら小さく呟いた。かなり物憂げな表情が様になっているのは何だか苦笑いしてしまう現象だが、どうやら対処は思い付いたらしい。

 ……魔法の知識も欲しかったなぁ、どうせなら。



「精霊王様、大変不躾だとは存じ上げておりますが……少々、私の肩に触れて頂けませんか? 絶対魔法を私の力だけで解呪するのは至難です故……貴方様のお力を拝借する必要があるのです」


「ああ、うん……」



 ちょっとした我が儘を考えていたせいか何だか生返事をしてしまう僕を微妙に温かい目で見ながら、ガーネットは僕に背を向ける姿勢でアクアマリンを見据えた。

 僕がガーネットの肩に手を置いたその瞬間の出来事は、忘れる事が出来ないような……最早、忘れる事が許されぬような光景だった。


 紅が舞う。

 神様が、綺麗な紅だけを掬い取って振り撒いたように。

 金色(こんじき)が舞う。

 温かな輝きだけを掬い取って振り撒いたように。

 



「……我が名に置いて、言霊達よ。宿主から去れ」


 凛とした響きを以てガーネットが「命令」した瞬間、アクアマリンから金色が弾け散る。絶対魔法の象徴、金色の光。

 金色が空気に混じって消えていくのを見送った途端、僕は思わず膝を付いてしまった。


 ……何だろう、解呪って結構体力使うみたいだね。

 呼吸が荒くなるのは抑えず、自然に息が整うのを待ってみる。無理矢理呼吸を整えようとすると何か苦しくなるからね。



「…………精霊王様、お身体は平気ですか?」


 ……そういうガーネットは随分余裕そうに真顔を披露しているのが何だか腹立たしい。転生のヒヨコたる僕が高望み出来ないのは百も承知だが、人間……違う。精霊なのだから欲ぐらいある。他の精霊がどうなのか知らないけれど。

 子供な強がりで足に力を入れ、ぐっと身体を起こす。

 ぎ、と嫌に身体が軋んだような気がしたのは、気のせいと判を捺して蓋をした。



「うん、大丈夫だよ」


「……? それなら良かったです。……アクアマリン、寝てない…うぁっ!」



 前世の高校生らしからぬ諸々体験のおかげで表情を偽るのだけは得意だ。脱力しているアクアマリンを叩き起こすのに四苦八苦する茶番を見せているガーネットにも、気付かれてはいないらしい。

 ……いや、アクアマリン、涎垂れてるから……。



***



「……アクアマリン。一言言う事があるだろう」


「……うるサい。媚びテルお前にソんな事言われル筋合いハ無い」


「誰が媚びてるって?」


「お前」



 ……多分、今僕はかなり生暖かい目をしているだろうなと自覚出来る時間くらいは経過していると思う。

 あの後、ガーネットの努力が実ってアクアマリンは目を覚ましたのだけれど……何せアクアマリンが服従状態になったのは僕のせい、しかし元凶はアクアマリン。そう判断したらしいガーネットの説教が始まってしまったのだ。いや、間違っているかはよく解らないよ? 解らないけれど、あの長々しい説教に息継ぎ無しに反論しまくるアクアマリンに呆れより尊敬を抱くに至った僕の心情を察して欲しいよ。


 物理的にバチバチ聞こえて来る二人に真正面から文句を言えるのはそれこそ精霊王とかその辺りだろう。僕だけどさ。

 結果的に一歩退いている僕に気付かない程度には、喧嘩に夢中なみたいだ。虚しいね。



「……だからな、アクアマリン。一言言う事があるだろう」


「……うるサい。媚びテルお前にソんな事言われル筋合いハ無い」


「誰が媚びてるって?」


「お前」



 何かデジャヴだってその会話……。

 最早呆れや尊敬を通り越して謎の気分が胸中に暗雲を漂わせ始めた頃、漸く二人の喧嘩が収まった、もとい、ガーネットが置き去りの僕を拾い上げてくれた。

 「あ、そういえば」とかいう完全忘却されてた言葉が同行していたけれど、忘却されてそのまま消えるよりはまだまだマシだろう。



「精霊王様、申し訳御座いません……痴話喧嘩にうつつを抜かしました」


「……精霊王様、ごメン」



 ガーネット、痴話喧嘩の意味知ってるかい?

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