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のんびり精霊ズ

微シリアス。投稿遅れ、申し訳ございません。


「ふんふふん」


 あからさまにご機嫌な僕を周囲の人々が可哀想な子でも見るような目で見ている。

 いや、それは仕方ない。何せようやくアクアマリンのマネキン代わり……もとい服屋から解放されたのだ。嬉しくもなる。

「……ヤヅキ様、変」



 

 びしっと人差し指を立てたアクアマリンの怪訝が飛んでくるのもいざ知らず。ご機嫌なのを邪魔されたくは無いのだ。


 ……とまぁそんな訳でアクアマリンの「変」攻撃を意固地に無視しながら歩く事、数分。



 厩、もといお宿「ウルフ」へと帰ったのが大輪ノ刻……夕方の五時だった。ちなみに、以前白銀の狼を泊めた事から「ウルフ」の名が来ているらしい。


 狼を一匹泊めるのが宿の名にするほど喜ばしかったのかはさておき、相変わらずボロい宿の中枢へ歩みを進める。

「おかえりなさい! すぐお食事になさいますか?」


 元気な少女の声に、僕は思わず「はーい!」と餓鬼のような返答をしてしまう。だが仕方ないだろう、嬉しくて嬉しくて堪らないのだ。


 出掛けて帰ってきただけなのに見るも無惨に餓鬼と化した僕に白い目が注がれているのに気付いていない訳では無いが、そんな事は気にしなくとも大丈夫なだけの精神はある。



「……ヤヅキ様、大丈夫?」


「えっ……と?」



 そんなルンルン気分を味わっていると、唐突にアクアマリンの声が飛んだ。ついでに何故か心配されている上に、状況が全く持って掴めないらしい少女にも不可思議な視線を注がれている。



「ヤヅキ様、今日、変……」


「あー……そうかい?」



 アクアマリンの予想外な心配に思わず口をついた言葉を、アクアマリンは必死に頷く事で肯定する。やり過ぎじゃないかってくらいの回数だ。

 ……僕そんなに可笑しいか?


アクアマリンの言動が異常に見える僕が異常なのかは知らないが、とりあえず苦笑いで治めておく。


「はは……部屋、行く?」



 理不尽なまでのいたたまれなさに、応急措置としての意味合いでそう提案してみる。


 見事にクリーンヒットか何かを飛ばしたらしく、再び再発したアクアマリンのコクコク攻撃をスルーしながら軋む階段に足を掛けた。



「……あっ、お客さん……お食事は?」


 慌てたような少女の質問に、アクアマリンが「……後」と異常な冷たさで返答しているのには苦笑いを禁じ得ない。あはは、と思わず笑いながらギシリギシリと階段を上がった。


***



「……服ハ用意出来立た。食料はアキバシで捕獲すレバ持つカ……」



 ぶつぶつと部屋の入り口で独り言を漏らすアクアマリンから今、とんでもない一言が聞こえた気がしたが、まぁ空耳だろう。


 ……空耳だよ。うん。

「あの、アクアマリン……」



 違うよね、と信じ込みたい気持ちは山々だが、念のためとばかりにアクアマリンに声を掛けてみる。僕の変な覚悟はいざ知らず、ぶつぶつと呟いていたアクアマリンはゆっくりと顔を上げた。



「……何?」


「アキバシで捕獲、ってどういう事だい?」



 ゆっくりと変化していくアクアマリンの表情を見ていた僕の胸中に少しずつ諦めの気持ちが沸き上がる。これは駄目だ、だなんて心が合唱しているのを押さえ込みながら、返答を待ってみた。


「そのママノ意味……アキバシで魔物ヲ捕って食べるノ。食費ガ浮くデシょ?」

「主婦かよ!」



 思いっきり漫才かコントのような突っ込みをかましながら思わずため息を吐き出し、アクアマリンを見る。


 頭上に「?」を乱立させているアクアマリンは、もしかすると魔物を食べるのが常識なのかもしれない。いや、アクアマリンに限らず、アーヴァローネの主流なのかもしれない。


 でも魔物だよ!? 魔物! 常識的に無理だよ!


 頭の中が滅茶苦茶の僕を不思議そうに眺めていたアクアマリンは、不意に懐から小さな袋を取り出して僕に差し出す。



「アキバシに着くマデハ、それ食べル」



 中身を見てみると、乾燥させた薄い肉。いわゆる干し肉が入っている。袋自体は小さいにも関わらず、見る限りかなりの量が入っているらしかった。



「ふーん……これ何の肉?」



 何気無しに尋ねた質問だったが、数秒後、僕は後悔した。



「ン……魔物の、ガーデンバード」


「ぶっ」



 思わず袋を投げ飛ばした。 何だよガーデンバードって。名前が穏やかだから罪悪感がすごいよ。何てもの捕ってるんだよ。


 猛然と突っ込みラッシュを展開しながらアクアマリンを見てみると、投げ飛ばされた袋に指を掛けた状態のアクアマリンがこちらに視線をずらす。


「ガーデンバード、食用……美味しい、我慢スル」


 無表情でそう呟くアクアマリンの周囲の空気がひんやりと冷気を帯びている理由は考えないようにしつつ、苦笑いで返す。

「とりアエズ……明日か、明後日ニハ、出発……」


 ずいぶんと気が早いようにも感じるアクアマリンの言葉だったが、トライアスロンが開催される日付を考えると悠長にはしていられない。現実的な判断だろう。


「ん、解った」


 僕の短めな返答に頷いたアクアマリンは、微かに吐息を空気に吐き出した。


 ふっ、と白く空気に溶けた吐息は、真っ白だ。大して温度が低くも無いのに、不思議な現象である。

「……ねぇ、アクアマリン」



「……何?」


 今まで場を支配していた緩い空気が、白い吐息に押し流されたように消えたせいだろうか、僕は何だか、可笑しな事を言ってみたい気分になった。


 いや、ある種の疑問、ある種の回想でもあるんだろう。



「僕さ、前世で、前の世界で、駄目な奴だったんだ」



 唐突で、吃驚するくらいスラスラと紡がれた言葉に自分でも苦笑いしてしまう。アクアマリンが黙って「そウ」とだけ返してくれるのが嬉しかった。


「……何で、僕なのかな。転生するんなら、異世界の精霊王になるなんて役なら、こんな駄目人間じゃなくたって良かったはずなのに」


「……精霊王様が駄目ナ奴じゃナカッタから、シベストリア様のお慈悲ガあっタダけ」


 アクアマリンは、僕の疑問を、きっと簡単な質問じゃないだろうそれに、優しい笑顔で返してくれた。


「……そっか」


 ほわん、と何かがほどけた気がした。

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