服装標準化大作戦
少々遅れました。申し訳ございません。
と、活動報告に一つお知らせがございますので、目を通して頂ければ幸いです。
チュンチュン、と典型的な小鳥のさえずりが目覚ましになった。
「……おハヨう、精霊王様」
さえずりに傾けていた耳を唐突にかすったのはどうやら、アクアマリンの声のようだ。 つい前世の癖で時計を探すが、この宿に時計が無い事を思い出すのにそう時間は要さなかった。窓に目を向けて、朝早いのを確認しながら体を起こす。
「ん、おはようアクアマリン……いま何時だい?」
「……狂イ咲きノ刻」
前世でいう午前9時らしい。狂い咲きとはなんとも可哀想な名前だな、と思ったのも相まって、よく覚えていた。
……あっ。
「あー……アクアマリン、ごめん」
今更のようにアクアマリンの声音に含まれた微かな不機嫌に気付いた口が、咄嗟に謝罪を捻り出す。理由は明白、昨晩僕はアクアマリンの話を聞いている途中で眠ってしまったのだ。失礼以外の何物でも無い。
「……気にしテナい」
気にしているようにしか聞こえない僕は可笑しいのだろうか。
「……別に、ぶん殴ッテやりたクナったとカ思ってナイカら」
絶対思ってたよね。と苦笑いしていると、アクアマリンがポンと手を叩いた。
「今日ハ、精霊王様の服、買いに行くカラ」
「……へ?」
アクアマリンの唐突な提案に、思わず間抜けにも程がある声が口をつく。確かに買いに行くような主旨の事は聞いていたけれど……今日だったのか。
「へ? じゃナイ……そんナ格好、見てルこっちが恥ずかしイ……」
静かに容赦無い発言である。ただ、僕の目から見てもそれは明白だ。ある意味目も当てられない。
そのせいか、アクアマリンの提案には妙な納得を感じた。
「うン。じゃア、行こウ」
「え、ちょっと待っ……朝ごはんどうするんだい?」
まさかの今から行く発言に、慌てて発した引き留めの言葉はあえなく「あの娘ニは言った。そノ恥ずかしイ服何とカしたアと」と一刀両断されてしまったのだった。
***
「こレハ駄目、こっチハ……」
現在進行形で僕はアクアマリンのマネキンにされている。小一時間ばかし前に到着した小さな服屋の試着室も見飽きる程に。
「こッチ着て、ヤヅキ様」
一応人前、という訳で呼び名は精霊王様からヤヅキ様に変わっていた。しかし、そんな丁寧な口調の割には僕を扱う態度は乱雑そのものである。なんだか虚しい。
「あ、うん……」
そんなアクアマリンに逆らえず服を受け取る僕の立場はどこに行ってしまったのか知りたいモノだ、と思いつつアクアマリンに渡された服に目線を落とす。
白やごくごく淡い水色を中心にした若者らしい服装である。さっきから系統的に全く異なる服ばかり渡されているせいか、そのシンプルなデザインは新鮮だ。
固い服に腕を通し、出来るだけ表情を作って……なくて良いか。自意識過剰すぎるだろう。
とはいえ、これだけ色彩を自重してもらえたのなら先程よりまだマシな方だ。何せほんの数分前までアクアマリンが渡してきたのは、あらゆる前衛的なデザインを笑えないような……思い出したくも無い色彩ばかりだったのだから。
選ぶなら頼むから淡い系統の色彩にしてほしい。
「ど、どうだい?」
そっと試着室のカーテンを開け、隙間から覗いてみる。先程から続く着せ替えショーに全くついていけないらしい店員がどうにかという感じで絞り出した「お、お似合いですよ」を綺麗に無視して、アクアマリンは腕組み。
「うーン…………」
悩んでる。とんでもなく長い時間悩んでるぞアクアマリン。この反応はお気に召したのだろうか、不愉快なのだろうか。
「…さーイヨう」
「……やったぁぁぁ!! やったよ店員さん!!」
「さ、左様でございますか! 良かったですね、お客様!!」
異様とも取れる喜び方の僕と店員さんを冷めた目で眺めていたアクアマリンは、採用した服と同じような系統の服を何着か手に取る。
「こレト、これも」
今度はまともな服だ。思わず胸を撫で下ろしながら、未だ沸き上がる喜びを噛み締める。
個人的に僕は、前世でいうパーカーに近い物が気に入った……のだが。
「あの、店員さん」
「はい。何でございますか?」
「この服……」
僕は、白地に水色で流麗な紋様が刺繍されたパーカーを差し出す。何故それ? みたいな顔の店員さんに、精一杯の疑問符付で質問してみた。
「なんでフードが二つあるんです!?」
そうなのだ。
水色で流麗な刺繍がされたフードは、何故か二つあった。しかも馬鹿みたいに大きい。謎以外の何物でも無い。
返答を待っていると、店員さんは「さも当然」という表情で説明してくれた。
どうやらこのアーヴァローネ、「ダブルヒューマン」と呼ばれる双頭の人族が存在するらしい。このお店にも当然いる。それに、普通の人族でもフードが二つあって迷惑にはならないらしいから、らしい。
大半の人は片方のフードを荷物入れにするんだそうだ。
服すら一般常識が通じない、と気付かされたのはこの日が境だった。
「そ、そうなんですね……」
ダブルヒューマン、だなんて一般常識の部類なのだろう、詮索したいという意志がありありと表情に出ている店員に愛想笑いしながら、僕とアクアマリンは服屋を出た。




