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お供はお決まりですか?




「っ……っはぁ……」



テレポーテーション、と僕の口が呟いた瞬間、僕の目の前には良い香りを放つ店が佇んでいた。

酷い空腹だったはずなのに、良い香りに空腹は反応しない。

ただただ、目尻を刺激し押し上げるモノを押さえつけるだけで精一杯だった。


逃げてきてしまった。


どうやってテレポーテーションを使ったか等、今はどうでも良かった。



ミワから、恩人から、事実から、逃げてきてしまった。



目まぐるしく回った三日と少しの日々が、逃げた僕を批判するかの如く朦朧と浮かんでは消えていく。

目まぐるしくて、酷く展開が早くて。

物語と語るには短く早く、ただの時間というには出会いと出来事が多すぎた日々を追想する度、何かが切れそうになる。



ミワは最後、何を言いたかったのだろう。

そういえば何故、僕を助けてくれたのだろう。



今さらのように沸いては消える疑問と想いについていく事も出来ずに、僕は両手で顔を覆った。


道行く人々の声が脆くなった心を揺すり、視線が敵意に満ちるように思えて。



「っあぁぁ……」



いよいよ泣き声が漏れた瞬間、無視出来ない声が響いた。




「……精霊王様、大丈夫?」



大丈夫な訳が無い。

辛いやら苦しいやらで目まぐるしい日々を回想するだけで精一杯……



…………はぁ?




「アクアマリン!?」



思いっきり感嘆符がついた。

僕の目の前で、「アクアマリンですが何か?」的な顔をしている青い目の少女……アクアマリンは無表情で僕にハンカチを差し出す。

体裁上、一応受け取って目尻に押し付ける。

アクアマリンは非常に満足そうにハンカチを受け取った僕を見ながら、ゆっくりと屈んだ。


「精霊王様、気に病ムナ」



アクアマリンの透明な響きを持つ澄んだ声が、僕を慰めようとしてか無表情には似合わない優しい響きと共に耳を揺する。

いや、慰めてくれるのは嬉しいのだけれど。



「何でいるのさ!」



一番重要な問題はそれだ。

あの時、確かに僕はテレポーテーションを使った。テレポーテーションは「瞬間移動」。

まさか走って着いてきた訳じゃ……いや、アクアマリンなら可能か?


いや待て待て、いくら精霊でも……



「……精霊王様のテレポーテーションに、たかガ統括精霊が着いていケル訳無イ」



疑問と混乱に支配されて軽く気絶しかけていた僕の心情を察してか、アクアマリンが真正面から僕の考えを否定する。

……いや、だとすると本格的に何でアクアマリンが居るんだ?


「……我ハ、精霊王様がテレポーテーションをシた時に着イていッた。精霊王様がテレポーテーションした瞬間、魔法ヲ使っテ範囲に紛レコんだ」


魔法を使って範囲に紛れ込んだ……?

どういう事だろうか。アクアマリンは再び混乱の絶頂に至った状態で思考停止している僕を無表情かつ冷えた目で見ながら両手に何かをポンと出した。


何故かホワイトボードと黒マジックペン。


前世でも見た典型的なセットの筆記用具である……訳では無かった。

うるうると潤んだ透明感のあるマジックペンと、透き通った薄い水色のホワイトボード。



明らかに水っぽい。なんだこれ。



アクアマリンは水っぽいホワイトボードに水っぽいマジックペンを滑らせていく。

雪だるまのような人間のような謎の生命体と、その謎の生命体の周りを囲む円。その円の外側にまた人間もどき。


何を表してるんだろう、これ。


描き終わったアクアマリンは、ホワイトボードをマジックペンでコツコツ叩きながら解説を始めた。

異例の異世界テレポーテーション講座である。



要らんわそんな講座。

だったら魔法講座を寄越せと言ってやりたい。



「……テレポーテーションは、一定範囲の活動中生命体ヲ転送すル魔法。さっきの精霊王様ハ転送されたい場所をイメージしてイナカったかラ適当な場所に転送されタけレド、本来はイメージした場所に転送すル魔法。さっき、私ハここに紛れ込んだノ」


コツコツ、とマジックペンで示されたのは人間もどきを囲む円の内側だ。完全憶測で言うなら、人間もどきがテレポーテーションの術者、囲む円がテレポーテーション出来る範囲。


要は、先ほど僕がテレポーテーションした時に何らかの方法でアクアマリンがテレポーテーション出来る範囲に紛れ込んだっていう事かな。



「……そノ通り」



よくぞ解ってくれました、とでも言いたげなTHE先生という表情で頷くアクアマリン。



……いや待て待て待て。


そこは解決したけれど、個人的に一番気になっている箇所が解決していない。



「……何で着いてきたんだい?」



感情を押し殺してなるべく角が無いように尋ねてみると、アクアマリンはさも疑問符が付きそうな仕草で首を傾げた。



「……精霊王様に精霊がお供すル、当たり前……当然」



真顔だ。

絶対本気だアクアマリン。目が笑っていない上に、平々凡々な市民なら抗いを許されぬと勘違いするような極度の威圧を感じる。無意識なのか無表情なのが余計に怖い。



「そ、そう……」



とりあえず愛想よく頷いておきながらアクアマリンには抗いを許されないかも、と感じた。


緩くなった空気。


けど、僕がミワを、恩人を足蹴にした事実はいくら嘘と演技が重なっても覆らない。

今、この瞬間、ミワはどんな気持ちだろうか。

堪らず嘆息する。



「…………」


そんな頼りない精霊王を見守っているアクアマリンの精神の強さは計り知れないよ……



「……精霊王様、これかラ、どうスる」



相変わらず微妙な片言が今トップを争う懸念事項を思い出させた。

そうだ、唯一の宿から自分の意思で出てきてしまった以上、食事も宿もなんとかしないと……


……一文無しだけど。



アクアマリンの食事代だの宿代だのも必要だろうし……何とかして仕事を探すか?

いや待て待て、異世界にハローワーク的な施設はあるのか?

魔物討伐やら護衛で収入を得る世界ならどうする、当てが無いぞ。

そもそも僕はランク持ちでは無い上、職業のあれやこれやも把握していない。どうする僕。



「精霊王様……稼ぐ方法、一ツ知っテる……」



悩みに悩み抜く僕の思考を一瞬で硬直させたのは、アクアマリンの予想外にも程がある一言だった。

とりあえず先に言って欲しかった、というのが願望だ。



「え……稼ぐ方法? 何なんだい?」



嫌が否にも気が急く。おかわりを求める犬か何かのような僕の食い付き方に初めて見る苦笑を浮かべながら、アクアマリンは何かのチラシを取り出した。



「『リドナル森討伐トライアスロン』……?」





討伐、なんていう物騒な単語が入っている割には異様な程ファンシーが強調されたチラシ、踊る切り抜きのような文字。細々と日時が記されたチラシには『種族、年齢不問! 優勝者には豪華景品を贈呈! 奮ってご参加を!』という、典型的な誘い文句がウダウダと並んでいる。

開催場所は『リドナル森』としか記されていないが……近いのだろうか。

チラシをじっと見る僕に参加意志を見出だしたのか、アクアマリンは変な抑揚付きの声でトライアスロンの説明をしてくれた。



「このトライアスロン……毎年やル……国規模の大きナ大会……魔物討伐しながラ、ゴール二一番早く着いた参加者、優勝……」


なるほど、魔物を討伐しながらトライアスロンを行うのか……前世のトライアスロンとは一味違って面白そうだ。



……魔法使えないけど、アクアマリンに教えて貰えば良いかな。


それで優勝すれば、豪華景品とやらも頂けるみたいだし……参加して損は無いだろう。

国規模のトライアスロンだ、まさか死人が出るような危険コースでは無いだろうし。


ウンウン、と僕が頷くのを嬉しそうに見つめていたアクアマリンは、再び変な抑揚付きの声で説明を始める。



「リドナル森……ファーストランクの魔物、たくサん。とても危険……でも、パートナー戦……パートナー居る、心強く戦えル……」



……ちょっと待て。



「ふぁ、ファーストランク……?」



だいぶ危険だぞ、それ。ファーストランクの中にもピンからキリまでだとミワが言ってはいたが、「危険」とアクアマリンが断言しているのを見るに決して低級な魔物ばかりでは無いんだろう。それに魔法の使い方解らないぞ、僕。



……一気にやる気削がれた。



何度目かの嘆息を漏らした僕に、アクアマリンがゆっくりと口を開く。



「安心して、精霊王様……魔法の使イ方、教えル……トライアスロン、我がパートナーになル……優勝、目指そウ」



「……はぁ?!」


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