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目覚め




「う……ん……?」



 嗅ぎ慣れない鉄の臭いが鼻をつき、千切れた糸のようにぼんやりと漂っていた意識を強制的に呼び戻す。



「ここは……ひっ!」


 あーあー、状況確認。


 血の臭いは混じるものの清涼そうな緑薫る森の中で倒れていたらしい僕。

 眼前に横たわる血塗れの熊巨人。


 …………


 しばらく拒絶反応を起こしていた脳が正常に働き始めたと同時に、引き戻すように思い出した。


 ここは、アーヴァローネとかいう剣と魔法の異世界で。

 僕は、精霊王とかいうのに転生させられて、大鹿を喰らい倒していた半人半熊の魔物に襲われた。


 どこぞの適当ゴリラのせいで魔物に飛行くらいしか抵抗出来ず、死ぬかと思ったら……



「いよいよ謎だねぇ……」


 そう。


 先ほど……なのか解らないけれど、熊巨人数体に襲われた僕を救った現象はおおよそ不可解だった。


 謎の優しい金色の光。



「あれが魔法なのかな……あれ、だとしたら、発動させたのは僕自身という事にならないかい?」



 確かに、周りには誰も居なかった。人間も魔物も、気配は一切感じなかったのだ。


 自分で言うのもあれだが、僕は気配を読む事に限っては優れていると自信がある。限っては。


「はぁ……とはいえ、早めに離れて損は無いよねぇ」


 ぼけーっとしている内に、血生臭さを嗅ぎ付けた他の魔物が来たりしては洒落にならない。


 あの現象が起きてから、血の凝固具合的に然程時間が経っているとは思えないけれど……。



 とにかく、思い立ったらすぐ行動、だ。






「…………」



 ジャクジャク、と数時間前から全く代わり映えのしない音が未だに響いている。


 土を踏み、砂利を踏み分け、幹に躓いて転びそうになりながらも慣れない森林探検をする事およそ数時間。


 自然愛護活動を銘打っている者なら泣いて喜びそうな原生林の景色は、驚くほど変わらなかった。


 うん、歩けど歩けど景色が変わらない。


 疲弊不満と空腹だけが溜まり、休憩ーと一度でも腰を下ろせば恐らく立ち上がれなくなるだろう。


 そうと解っているからまだ歩いているが、普通に考えてそろそろ休みを恵んでくれたって良いじゃないか、神様。もといシベストリア様。



「うぅ……」



 あまりの疲労に足が止まり、倒れる寸前の熊巨人に情けない等と言えないレベルの情けない声が口からこぼれ落ちた。

 疲労もそうだが、街が見えないのが精神的にも苦痛を強いていた。



「はぁ……街さえあれば、何とか出来るかもしれないんだけどねぇ」



 街があれば、それこそ食事だの宿だのどうにかなるかも……。


 ……いや待て待て、僕は一文無しじゃないか。どうやって食事だの宿だの確保するっていうんだ、馬鹿か。


 若干、自分の甘い考えに絶望しそうになる。

 状況だけで絶望的なのに自分にも絶望するとは、まさに泣きっ面に蜂だ。



「かといってここで夜を明かすのもねぇ……」



食事がどうにもならない。そこら辺の草を食べて腹を壊したらもっと絶望的な状況になる。かといって空腹を感じるという事は、精霊といえど食事は少なからず必要なのだ。


 だからこそ、早めに森を抜けたいのだが……。


 何だかんだ言って、異世界、転生という状況に慣れている自分に気付いたのはずいぶん前の話だ。



「……あれ?」



 いきなり視界が開けた。


 目の前に広がる稲穂色のだだっ広い平原と、その向こうに微かにちらつく待ち望んだ景色。



「街……?」





 ここに来てようやく、母性溢れるシベストリア様が憐れみを感じてくれたらしい。





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