始まりは鮮血と共に
人生の終わり、なんて壮大な名を持った現象が、こんなに儚くて呆気ないなんて思わなかった。
少し、拍子抜けしてしまう。
「――――」
声にならない言葉が落ちて、僕を撥ね飛ばしてそのまま去っていく大型トラックのエンジン音が遠退いていく。
視覚、触覚、痛覚、と順番にフェードアウトしていく。
轢き逃げ、か。
相応しい終わり方なんて思いたくないけれど、結局こうなったんだから、これが僕に相応しい終わり方だったんだろう。
「きゃ……あ……ぁあああ!!!」
赤に染まって落ちていく視界の中、悲鳴が響いているのが聞こえた。最後にフェードアウトするのはどうやら、聴覚らしい。
たった、十数年の人生。乾杯する猶予すら無かった。
そして僕は、死んだ。
……はずだった。
「……あれ?」
触覚を一番最初に遮断して欲しかったと文句を付けたくなるような激痛も、順々に冷えていった感覚も、確かに覚えている。
だからこれは、世界の理と片付けてはいけない事項だ。そもそもこうして僕が思考出来る事自体が可笑しいのだ。
「え、嘘だよね……あー、あーあー」
声が出た。
出てしまった。
しかも何故だか、見下ろせば見慣れた僕の身体が見える。
何だ、実は死んでませんでした的なアレだろうか。
ならば、周囲を占める青白い空間は何なのだろう。
死んだはずの僕、萩原 弥月は――
何故だか、青白い空間で生きていた。