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06・ 領地へ帰りたいからね

 「おや?ノックがありませんが、何用ですか?」


 通称『とある国』の王城の敷地内に、重臣や一般役人達が働く大きな建物がある。

 その建物でも格別広く見晴らしが良い、宰相室の扉を開けた女性が立っていた。

 その女性に声を掛けたのは、宰相の机に腰掛けている美しく整った容姿の青年。

 宰相の席に座っている年配の男よりも、存在感がある青年だ。

 肩より少し長めの黒髪に黒地ながらもレースなどの豪華な飾りが目立つ服装。

 全身黒色の中、薄灰色の目の色彩が一際輝いて見える。

 優しそうな表情だが、その青年の目元に冷酷さが秘められているのに気づいている女性は、怯む事なく向き合う。


「私の予定が、いつの間にか変更されています。私はつい最近、視察で戻って来たばかりなのに。またすぐに視察で発つ予定が組まれていました。しかも、次の予定地ではない場所にです。宰相の指示だとか?」


 扉を閉じた女性が不満げにつらつら言い出す。


「ええ。故郷に帰る用事が出来たのですよ、私に」

「何故、それが私と関係があるのですか?」


 女性は訳が分からないと首を傾げる。


「察する事も出来ない愚鈍さ、ですね。この私が、簡単に城を出られると思っています?何か理由付けて多くの者が、人気者の私を引き留めるでしょう。ねぇ、宰相様?」


 突然、二人の会話に入らされた宰相は「あ?ああ」と困ったように答える。

 数年前に宰相自身が役人として呼び寄せた青年は、今ではすっかり国の各重要事項に関わる程の実力者としてのし上がっていた。

 国政に関わる者達が青年に意見を求める様は毎日続いている。もちろん宰相も、彼に宰相補佐という役職を与え、常に意見を求めている。

 彼の機嫌を損ねれば、国の発展は望めず逆に混乱に陥るだろうと他の者達も認めているのだ。

 年下の青年が自分の机に腰を掛けていても何て事はない。


「そこで、誰もが納得する理由が欲しかったのです。貴女が今度赴くのは、私の出身地。普段、家から出て来ない領主の弟に代わり、叔父が領地の都で領主代理をしているイッツワーヤです。貴女はそこに視察へ行くのです。情報が少ない辺境の地である故、案内役として私が同行すべきでしょう?」

「……何の用事ですか?」

「元々領主だった私が、こちらの仕事に就く事になり、弟にその地位を継いでもらいました。まだまだ未熟で経験不足の弟が、今まさに処理出来ない問題に困っているそうなのです。暫く帰郷も出来ず、家族との団欒もなく、国の為に日々を費やしてきたこの私に、協力しないつもりですか?ねぇ、宰相?」


「協力は必要だ」と、コクコクと頷く宰相に「良い返事です」と青年は目で笑い掛ける。


 彼女は、品があるが全体的に地味だな。

 子供の頃から社交的な生活を避けて、学識ある老いた者達とばかり過ごしてきたからか。

 若々しさが足りない。せっかくの素材が勿体ない。

 が、その歳で教育方面の仕事を責任持ってこなす姿勢は良い。彼女の姉より、ずっと良い。

 姉の方は自分に寄る、いや酔う、異性達だけの人気を得ているが、彼女は実績を上げて、信用から老若男女の人気を得ている。

 だから、今回の帰郷に彼女の力を利用させて貰うのだ。

 案内役という盾の裏。誰もが、私の本当の帰郷理由に気づかないはず。


 イッツワーヤの現当主フレリスの兄である彼は、目の前の女性の口が開くのを待っていた。


「……協力したとして、私に利益はあるのですか?」


 途端にニヤリとする青年に、女性は訝しげな視線を向ける。


「我が領地に高貴な客が長期滞在しているのですが、彼の知識には多々学ぶ事があります。お会いになってみませんか?かなりの利益になると保証しますよ」


 なぁ、だから早く俺を領地へ帰せよ?






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