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05・ フレリスが嫌いな王女

 『約束の白い首飾り』を太陽にかざしては、その宝石が反射して輝く様をウットリ眺めるパシュゼ。


「これは、いずれ私の物になる。グランジュが約束してくれたんだから。それを早く手に入れただけだよ」

「グランジュ? グランジュ王女が、ですか? ……予感的中しました、ね」

 軽く首を振ったフレリスが深く息を吐く。

「フレリスは何を予感していたのかな?」


 多分、間違いない予感だろうけど。


 パシュゼはあえてフレリスの口から聞きたかった。

 自分の行動理由をどこまで長年の友人が理解してくれているのかを。

 

「あの噂が流れてから、貴方は何か考えていましたからね。何か行動を起こすと予感していました。来年行われるグランジュ王女の即位式。未婚のままの女王即位は許されませんから、今年中には婚姻しなければならない。今のところ、王女の夫候補は『赤銅の狩人』という噂。我が国は、基本、身分違いの結婚にはうるさくないですからね」

「……」

「『赤銅』は2年程前に王家直属の殺し屋になりましたが、詳細は伝えられていない人物ですよね。彼が現場にいつも残すのは、赤銅色の欠片。一枚の、花びらのような形をした小さな金属。そこからの通り名らしいですが。例え、職務で人を亡き者にしてもその業は残ります。職を辞しても。そのままの身では、婚姻の儀式を行う神殿からは罪人扱いです。そこで、神殿管轄の懺悔の儀式を無事やり遂げ、婚姻資格を与えられるまで耐えねばなりません。婚姻時の聖なる儀式は、過去を清める効果も含まれていますから、元殺し屋でも王になれますよね。それは貴方がよくご存知でしょう?」

「……そうだね」

「いつまで、彼女に固執しているのですか。六歳という幼い頃、互いに婚姻の約束をした仲としても、今では貴方を完璧に無視して、他の男達と遊び回っているというのに。ずっと引きずっている貴方に何度も言っていますけれど、王女は貴方にもう興味も無いのですよ。大体、あんな不誠実で無節操のどこに惹かれるのか、私は今もってわかりませんけれど?」


 フレリスは、グランジュ王女を昔から嫌悪していた。

 気に入った男を見つけると手当たり次第、男好きで有名なグランジュ王女を。

 パシュゼを悲しませてばかりで、けじめをつけない奔放な女を。


 相変わらず、彼女に対する気持ちを隠さないな、フレリスは……。


 パシュゼは自分の為に怒ってくれる存在を嬉しく思う。


◇―◇―◇


 確かに6歳の頃。

 両親の紹介で王女と初めて出会い、幼かったが、将来の約束をするまで互いに心を通わせていたのだ。

 王女と出会う数日前、フレリスとも初めて出会っていた。

 以前から王女とフレリスは知り合いだったらしいが、二人の仲は良いとは思えず。

 王女が訪れた日、フレリスは「あの王女には気をつけて」とコッソリ耳打ちをしてきたのだから。


 それから、王女とフレリスとは再会する12歳まで、文通だけの付き合いが続いていた。

 12歳から私が通う事になった学校にグランジュ王女はいた。

 いつも親しげに、色んな年齢の男を数名引き連れて。

 その学校の一学年下にフレリスも在籍していて、王女の姿に驚いていた私に声を掛けて来た。


「お久し振りですね。これから学校生活一緒に過ごせるなんて嬉しいです。この土地には慣れましたか?学校周辺の案内をしますよ」

 心から再会を喜んでいるフレリスのおかげで、私はようやく王女の姿から目を逸らす事が出来たのだ。


 以来私は、王女と男達との関係を周囲から耳にし、直接目の当たりにしていたが、あの約束があったからか、焦らず傍観する事が出来た。


 13歳の時。王女から「恋人としてお付き合いたい」と告げられ、ようやく自分の番が来たのか、と皮肉さえ言いたくなったけれど。確かに歓喜の一瞬だった。

 彼女はとても可愛く、話上手で一緒にいると楽しくって。ずっとこの時が止まればいいと願う日々。

 なのに二か月後、彼女は突然言ってきた。


「私、もっと色々な人と知り合って世間を知りたいな。王位継承者である私は、今後の為に人脈の開拓もしたいわ。今、パシュゼとばかり過ごしていたら、他の人との出会いがなくなると思うの。私の側近候補も探さなくてはならないし。だから、パシュゼと離れていてもいい?」

「……約束は?」

「もちろん、覚えているわよ! 『約束の白い首飾り』でしょう?」


 その時の彼女の言葉と笑顔を私は信用した。

 ずっと。

 彼女が、色々な男へと人脈を拡げていく間も。

 ずっと。

 学校を卒業した後も、私の所に戻らず方々で活動している間も。

 ずっと。

 待っていたのに……。


◇―◇―◇


「私にはこれだけが確かな証し。『私の』と言う、ね」

 

 小さな小さなパシュゼの呟き。

 首飾りをじっと見下ろしていた彼を泣きそうな表情で見つめているのは、彼の気持ちを充分理解していたフレリス。


 哀れな方。

 あんな女、貴方が心を寄せる価値なんてないのに。

 長年囚われ過ぎて、別の道を探せないでいるなんて。

 何か、きっかけがあれば抜け出せるのでしょうか。

 兄さんもそう思ったから手を貸した?

 では、私も手を貸しましょう。


「私は貴方と初めて会った時から、貴方の輝きが好きなのですよ。その首飾りのより、貴方自身から発している輝きの方が好きですよ。きっと兄さんも同じ意見でしょうね」





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