04・ 約束の白い首飾り
平凡で目立たない『とある国』にも独自の法が存在する。
冷酷な王が初恋を実らせた時に決めた「甘すぎるよ~」と呆れる程トコトン寛容なもの、ちょっと臆病な王がブチ切れた時に決めた「無害そうな裏にその残酷さ何!?」と他国が慄く法も存在する。
王家直属の殺し屋。
名の通り公に認められた役職である。
基本、王家の命で動くが、彼等にも特権がある。気に入らない命は受けずとも良い、むしろ何度も賛同出来ない命を出してくる王家の者を殺せる特権が。
王によっては生涯命を下さず、彼等が無職状態の時のもあった。
その為、通常の仕事として、軍の仕事をも兼務している。
なかでも、逃げた極悪人を処刑する時は彼等に一任されていた。
例えば、故意で連続殺人を行い、捕えられても罪を償う気も反省も一切みられない者が逃げ出したとしよう。その時が彼等の出番なのだ。
反省の態度がない者は再び犯罪を行う可能性がある。そんな危険人物はこの国には不要だ。逃げた者を追い、堂々と殺せ。と、いう法の下で動く王家直属の殺し屋。
その殺し屋に追われても、罪を償う意思を見せれば命は救われる。完全に償い終わるまで、一日中殺し屋の監視付きだが。
その王家直属の殺し屋の一人、『赤銅の狩人』という者がブランデュ館にやって来るという。
それ程の事を彼は仕出かしたのか?
パシュゼを守らねば、と思案していたフレリスに当の本人はいたずらっ子のような笑顔を見せた。
「これ」
平らな箱から取り出したのは、5cmより少し大きめの楕円形。乳白色で小さく一点だけ桃色に染まっている石。それを囲む金・銀色の金属の土台に鎖。
大粒の宝石の存在感。見ていると温かい包容力を感じ、心が穏やかになっていく。
「優しい石だろう? これが『約束の白い首飾り』。王と夫婦になる者だけが受け継ぐ。この飾りを一度でも首に掛けた者は、必ず王との幸福な結婚生活が約束されるという王家の宝。王家の者しか言い伝えられていない秘蔵の宝」
「なっ! そんな貴重品が何故ここに!」
「貰って来た」
その答えに一瞬思考が止まってしまったフレリス。
「……な、な…ん…。貰って来た? いくら、高貴な身分の貴方でも、そんな簡単に貰って来れる代物なんですか!? ……もしかして、勝手に持って来たとか?」
違ってくれと願いながらのフレリスの質問にあっさり頷くパシュゼ。
「誰にも許可取ってないから、そうとも言うのかな? でも、ちゃんと置手紙して来たよ」
「何と?」
「貰っていきます。用があればブランデュ館に。って、私の名入りで」
「ああ……」
痛くなってきたこめかみを揉みながらフレリスは深いため息をつく。
「王家の宝を盗んだとなると極刑ものじゃないですか。だから、『赤銅の狩人』が来るのですね。その宝石の次の持ち主になるのですから。しかも、私が協力者のように……。領民に影響がなければいいのですが」
「大丈夫だよ。領主フレリスは関係ないと言うから。それに、フレリスの兄が協力者だって事も黙っているよ」
「はあ?! 兄が絡んでいるのですか?!」
「この時間ここを通れば誰にも会わず首飾りの隠し場所に行けると教えてくれた」
「あの兄はっ!!」
宰相に実力を買われ、領主を弟に譲って王都へ出向いた兄。
誰彼かまわず人を窮地に追い込み、その様子を楽しむ兄だが、パシュゼに対しては愛情があっての行動だ。
苦しそうなパシュゼを助け、めろめろに甘やかすのが快感だと話していた。
「もし、パシュゼが壊れたら、それも嬉しいな。私から逃げないよう閉じこめておける。私だけの、……になる。でも、今は自由に動く彼を見ていたいな。いずれ、ずっと後でね」
兄のあの時の表情は今思い出してもゾッとする。ああ、兄はとても怖い人なのだと思い知らされる表情だった。
そんな兄が今回協力したとなると何か裏があるのか?
まだ、その時ではないはずだから、いつもの楽しみか?
フレリスが何を考えているのか、理解しているかのようにパシュゼは苦笑してみせた。
「首飾りを求めに王城に行ったのは私。こっそり動いていたつもりが彼に見つかってね。目的を話したら、そう道を教えてくれただけだから」
「そう、ですか……。では、兄の話は置いて、その首飾りについて話をしましょうか」
フレリスは気分を変えるよう深呼吸してから、背もたれに寄り掛かる。
兄が今回の事を知っているのなら、向こうでも上手く処理してくれるだろう。少しは気が楽になる。
あの兄だけれども、頼れる力強い存在だから。
「あ。あの兄な、宰相の下で働いているって聞いていたけれど実際は、宰相や大臣をコキ使って働かせていたよ。さすが、だよな?」
「兄さん、何してるの~っ!」