03・ 趣味も色々だね
「『赤銅』の事だけれど」
今朝の騒動がなかったような昼過ぎの静寂の中。
ようやく目覚めて、朝食兼昼食を済ませたパシュゼはフレリスと共に、絵画が所狭しと飾られている部屋にて寛いでいた。
「ええ、御安心下さい。いつものとは違った罠を色々と発動させておきましたから。あの罠は少々危険すぎるので使っていなかったのですが。ですがこれで、誰一人としてこの館に辿り着く事は不可能でしょう。使用人達にも注意しておきました」
フレリスは、歴代の趣味のように領主が作ってきた罠の地図を広げてみせる。
罠の危険度が異なる事に色で区別されていて見やすいが、何やら恐怖を感じさせる地図。自国の王がいる城よりもこの館は難攻不落だと証明する地図だ。
「それ、奴をここへ連れて来るよう手配し直せない?」
「えっ?!」
「よろしくぅ」
のほほんと言い放ったパシュゼは、窓辺からの日差しを浴びて神々しく微笑む。
白い服地に施されている同色の刺繍に真珠と水色の宝石が日光に反射し、着ている人を輝かせる。
高価で華美な俗物的服装が、何故か彼が着ると「物欲?何それ?」とわからなくなる程の神秘的な雰囲気が漂うのだ。それは彼の生まれ育ちにも関係があるのだろう。
毎日よく飽きずに着飾れるな、とフレリスが感心する派手な服装に装飾品を上手く使いこなす彼。
それが良く似合っているので文句のつけようがないが、今はその恰好の一つでもケチをつけたくなったフレリス。
これを機に試してみたかった罠があったのに!
あの『赤銅』がどこまで来れるか楽しみにしていたのに!
罠のなかには、起動させるのに貴方のその襟元に着いている数多くの宝石より何倍も経費が掛かるのに!
景気良く使ってみたかったのに~!
フレリスの心の叫びが届いたのか、パシュゼは「わかった。いいよ。そのままで」と言い直した。
「奴の力の程も知っておいた方がいいかも。ただし、危険度最高の罠は中止だよ。命まで奪う気はないからね。程々に痛めてくれたらいいかな」
「……わかりました。担当者に監視させて、危険な状況になったら連れて来るように言っておきます。確実に命が危なくなったら、ですね」
何とか納得してくれたかな。
フレリスは歴代領主の遺産が大好きだから、今回も罠(遺産ともいう)を使う事に熱意を持って楽しみにしていたらしいけれど。
あの黒印の罠は駄目だ。人もだが、自然環境まで殺してしまう。
何であんなのまで作るのかな~、趣味で!!
あの時代って戦なかったよな?だからなのか?
イッツワーヤの領主達って変なところで変人になるって有名だものな。
フレリスはまだ良い方だよ。
その分、先代だったフレリスの兄が倍変人だな!
自分と同じ派手好みだが方向性が異なる男を思い出したパシュゼは、軽く頭を振る。
あの人も王城にいたな。
相変わらずだった……。
同じ黒髪に灰色の目だけども、表情や行動に毒がないフレリスを見ていた方が心落ち着く。
癒しを求めるかのパシュゼの眼差しに気づくフレリス。
「何です?」
「いや……。それより、『赤銅』の事を聞かないの?」
「貴方が言い出すのを待っていたのです。王家直属の殺し屋が来る程の事。何をしたのです?」