02・ とある国の王城にて
歴史はあるが、外交も武力も経済も程々の平凡な国。
これが、この国の世界からの評判だった。
取り立てて特徴のない国だと、『とある国』と大国の大臣に批評されたのが、いつしか人々に拡がり、正式な国名は忘れられたのか、すっかりその名で呼ばれるようになった国。
そんな国でもここ最近は、一部の領地や政事のおかげで発展真っ最中。
国民や周囲の国からも「どうしたの? すごい事になってない?」と評判が良い。
王城も状況が変わり、今は頻繁に人の出入りがあるため城の門番を常時一人から四人に増やしていた。
その門番の手前で、城内から駆けてきたばかりの女性が立ち止まる。
「待って!」
門番達はその聞き覚えがある声にギョッとして振り返るが、女性が誰を呼び止めたのかを知ると一瞬眉を寄せ、その場から目を逸らし仕事を再開した。
これは、彼女達の間に入って挨拶が出来る雰囲気ではないな、と理由つけて。
女性は呼び止めた男性を人目につかない木陰に連れ出し、男の目をしっかり見据える。
「やっぱり私も行こうと思うの」
「そんな、グランジュ様! 僕は大丈夫ですからっ」
「でも、あそこは……」
「僕を信じて下さい。僕は無事に貴女の元へ帰ってきます」
安心させるかのように微笑む男性。
「本当に? 約束ね?」
「はい。約束します」
力強く断言された言葉に女性はようやく微笑み返す。
「わかりましたわ。では、いってらっしゃいませ」
「グランジュ様。僕は貴女のために力を尽くします。待っていて下さい!」
決意の拳を持ち上げ、男性は颯爽とその場を去って行った。
うっとりと男性を見送る女性がいるなか、門番達は呆気に取られていた。
「なぁ。あの男、いつまで拳上げて歩いて行くんだ? 他の通行人の目が気にならないのかね。皆、避けてるぜ」
「腕が疲れるまでじゃないか?」
「でも、あの男、あれ、だぜ? 疲れるってよりさ、そもそも腕上げているの忘れてるんじゃね?」
「だな。なら多分、何か飲むか食べる時にでも気づいてやめるんじゃないか?」
その門番の予想は確かに当たっていた。
親しくもない門番に自分の行動をぴったり予言されていた事を知ったら、男性はどう思う事やら……。
「もし当たっていたら、お前、先生って尊敬されるな。あの男に」
……正解です。