担任教師は絶滅危惧種
レーヤは全力で一年D組の札のかかった教室に向かって走ったが思った通り、教師はすでに教室にいるようだった。ここはもう腹をくくって教室に入るしかない。
そっと教室の後ろの方の扉を開け音を立てないように入る。幸い教師は黒板にどうやら自分の自己紹介用の名前を書いているようでこちらは向いていなかった。
空いていた窓際の端の席に座ると、隣の席に座っていた男子が話しかけてきた。
「やあ、入学式でも隣の席だったね。」
…だれだと一瞬思ったがすぐに打ち消される。確かに隣の席にいた自分と同じ人族の少年だ。曇りのない黒い瞳に黒い髪は恐らく日本人なのだろうという推測が出来た。動作の端々から滲み出る雰囲気からきっとバルナリア侵攻前は実家は名家だったのだろう。
「俺を見捨てた薄情者か…。」
「誰だってあの状況で君を庇おうとはしないよ。」
彼は少しおどけたように肩を竦めた。
そこで一旦会話は途切れた。担任の教師が自己紹介を始めたからである。
「今日からこのクラスの担任をする永遠の27歳、サリー・マクテベスです。主に医療魔法が専門です。サリー先生かサリーお姉さんって呼んでね!何か質問どーぞ!」
いやちょっと待て!!
クラス全員が心の中でつっこんだ。最早つっこむところが多すぎて誰も反論を出来ないシュチュエーションだった。
「はい。」
そんな中ピンと手を上げたのは隣の男子だった。
「何かなリョウ・カセー君。」
どうやら隣の男子はリョウと言うらしい。
「僕の見解が正しいかはわかりませんが…先生は吸血鬼族なのですか?」
クラス中に波のようにどよめきが走る。吸血鬼族とは鬼族の中でもトップクラスに強く、族全体を通して皆美しく、それ故に狙われて今では絶滅危惧種でもあるレアな族種だ。一生に一回視界の中に入れば運がよかったと思えばいいほどである。金色の髪、目元立ちのはっきりした人外の美しさ、口から少し覗く尖った牙、それでいて角はない。これは吸血鬼族の特徴にぴったりではないか。
そんな質問にサリーはニコリと笑って答えた。
「ええそうですよ。だから次から遅刻とかしたら…吸うわよ。」
あ、あれは本気だとレーヤは身震いした。台詞の最後の方には教室中に冷気が充満したかのように感じる威力があった。
生徒達が萎縮して静かになるとサリーは二回手拍子を打ち注目を集めた。
「では、高等部からの編入組は同室になる予定の中等部からの持ち上がり組から寮とか学校とか案内してあげて。その他は部活勧誘とかもあるだろうから、解散!」
バラバラと生徒達が立ち上がっていく中、レーヤは机に突っ伏し窓の方を向いていた。
「…初日からいろいろ大変だった…。」
ぐったりしながら左手で胸ポケットを探り紙を開き、寮の部屋番号を確認した。すると、後ろからリョウが覗き込む。
「あっ。」
「何だ?」
突然驚いた声を出したので顔だけ起こし、リョウを見上げる。
「同じ部屋だ。僕持ち上がり組だし案内するよ。」
「へーそうかそうか同じ部屋かふーん……ハ?同じ部屋?!?!」
嘘だろう。この学園の寮の部屋は300位はあるんだぞ。その内で同族に当たるなんて…いや、同族だからこそ同じ部屋にされたのかもしれない。人という下位種族とは寝食共にしたくないという輩は多い。
「そういえば君の名前を僕は知らない。よければ教えてもらってもいいかな?」
「レーヤ・ツキミヤ。レーヤって呼んでいい。」
「そうか。僕はリョウ・カセー。よろしく。」
リョウはそう微笑み右手をすっと出した。やはり、上流階級の人物の仕草だ。それにカセーという家…何処かで聞いたことがあるがなかなか思い出せない。まあ、そういう時もあるか、と適当に済ませてしまうしかなかった。
登場人物の一人称というのに毎回迷います。僕、私、俺、私、アタシ、わっち、手前、自分、me…などなど。難しいですね…