ぼっちの戦い-2
人とは、思い込みが激しい生き物だ。
ちょっと女子に話しかけられただけで脈ありだと勘違いするし、なにか噂話が聞こえると、自分のことだと思ってしまう。
今のこの状況を見る限り、こいつは自分のことが最強だとか思っているんだろうな。
しかし、この世界に最強などいないのだ。
それはただの自己満足。なんの意味もない。
この嵐山ってやつ、俺の読んだことのある漫画では、なんか相手の動きを十手読むこととかできるやつににてるんだけどなぁ…。
けどなんかお山の大将って感じがすごい伝わってくる。
…と俺は柔道場へ行く途中、考えていた。
なんだろ、なんでこんな状況になっちゃったんだ。
移動中、寒さが身にしみてくる。吐く息が真っ白で、コールドブレスでも吐いている気分だ。
俺はふと一つの疑問が頭の中に出てきた。
それを聞こうと、嵐山に声をかける。
「…おい」
「なんでしょう」
歩くのをやめて、嵐山は俺の方を向いた。
「なんでこんな無意味なことをするんだ?だってお前ら、別に部費なんて必要ないだろ?」
俺の聞いたことが、どうやら当たっていたようで、嵐山は動揺した。
「はて……我々は本当に部費が足りないんですよ」
「じゃあ、追加された部費をなんに使うんだ?新しい防具の購入などとあったが、今年、卒業した者と新入部員の数が一緒らしいな」
俺は生徒会で会議している時に見た資料を思い出す。その時は特に何も思わなかったが、先ほど部室を見て、疑問に思ったのだ。
……足りないものなんてないじゃないか、ってな。
もしそれ以外の理由を考えるとすると、一つしか思い浮かばない。
「お前らの目的は………生徒会の妨害だな?」
俺の考えた答えは間違っていないはずだ。
別に部費は足りているのに無理に請求してくる、まるでファミレスのクレーマーだ。
何かと文句をつけてお詫びをさせようとする。昔ファミレスでバイトしたことがあったが、あの時はブチ切れそうになったな。
「……君は鋭いね、坂墓くん」
……あれ??なんでこいつ俺の名前知ってんの?
教えてないよな、うん教えてない。何こいつストーカー??
俺が心の奥底からひいていると、嵐山は前を向き、歩き始めた。
「さあ、柔道場はすぐ近くだ」
俺も無言でそれに着いて行く。
それにしても、なんか俺には生徒会の妨害と言うよりも、なんか別の目的があるような気がするのだが……。
嫌な予感がする。
「着いたよ、今日は柔道部は休みだからね、心置きなく使えるよ、さあ、始めようか」
「あ、ああ」
そもそもこいつ、ケンカする気なのか?それとも柔道??
嵐山は拳を握り始めた。お、おお…やっぱケンカなのか。
なんかよく考えると理屈がおかしくないか??手合わせのくせにケンカ??……もしかして。
「お前らは……、お前は俺とケンカするためにわざと部費にクレームをつけたな??いや、痛めつけるためか」
……まったく、俺もいつの間にそんな恨みをもたれたんだ。ぼっちのくせに。
「生徒会に……男はいらないんだよおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
嵐山は急に叫びながら俺の方に殴りにかかって来た。
……しかし、なんなんだこいつは。生徒会に男いらない?もしかしてこいつ生徒会の誰かが好きなのか?
「お前の性癖は知らんが、いつか捕まるぞ」
たぶん暴行罪か痴漢行為で。
……てかめちゃくちゃ勝手で理不尽な因縁でケンカ売られたんだな、俺。
俺は嵐山のパンチをいなし、そのまま足をかけて転倒させた。
しかし柔道場なのであまりダメージはないようだ。
てかいつからバトルものになったんだ??
「お前がいなけりゃ、お前がいなけりゃ、僕が生徒会に入ってハーレムを築いていたんだぁぁぁぁぁぁぁぁ」
おいおい冤罪だぞ、おれはハーレムを築いてないし、そもそもお前が入る話なんて聞いたことがない。頭の中だけの話なのか?
嵐山は起き上がり、俺に蹴りを入れてきた。
しかしそれを俺は腰を落とし、腕で受け止めた。
そしてその足を掴み、肘を思いっきり振り下ろした。
「ぐっ………、貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
先ほどまでの頭脳派な感じがまったくしない。もう野蛮人だ。
嵐山は体のバランスを崩し、倒れた。足をおさえながら、もがき始める。
「……なんなんだお前は!なんで俺が勝てない!!」
こいつ……自意識過剰すぎだろ。そしてさっきから口調が崩壊しているぞ。僕なのか俺なのかどっちだ。
「CQCって知ってるか?俺の父親は自衛隊でな、小さい頃叩き込まれたんだよ」
CQC(近接格闘)、それは空手やテコンドーのような競技ではなく、ケンカのような甘いものではない。まさしく人と戦うために編み出されたものなのだ。
それをたかが学生がどうにかできるはずがない。
俺の父親は自衛隊だからめったに家に帰ってこない。なんか偉い役職らしいが、知らん。
俺が小さい頃、ケンカで勝てないと泣いていた時、父親が一年かけて教えてくれた。
忘れないように、たまに家で訓練というか、体を動かしている。
まさかこんな時に役立つとはな。
「ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁ!」
懲りずに嵐山はよろよろと立ち上がり、まさしく最後の力を振り絞って俺に向かってきた。
その気持ちを汲み取り、俺は嵐山の顎を二回左右に軽く殴った。
「かっ……く」
嵐山が膝をついた。そのまま体が動かないようで、ぷるぷる震えている。
「….…で、俺の勝ちなのか?これは」
「………ふざけるな。なんなんだよお前はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ほう、顎を殴ったのによく動けたな。いや、動きがよろよろしている。もう見ているのも虚しい。
殴ってきたので、その拳を手で止め、その腕を回転させて、地面に叩きつけた。
よく見る警察が犯人を確保するような体制だ。
「…………僕の負けだ」
あっ、今は僕なんだ。どうでもいいけど。
俺は嵐山を離し、そのまま立ち上がった。
「じゃあ生徒会にこき使われることになるだろうが……まぁ頑張れ」
そう言い残し、俺は柔道場を出た。
なんだかんだで貴重な人材を手に入れられたな。なんかイベントごとの時に使えそう。
俺の仕事を重点的にやらせるか。
やはり現実を見れていない人間は見苦しい。それはやはり、見えを張っているように見えるからだろうか………。




