ぼっちと職場体験は関係無い5-4
坂墓は教室で木場が告白されているところを見てしまう…そして木場に友達になってくれと言われるが坂墓は…
俺は静かな空間であることを考えていた。
それは自分のことだ。
最近俺は何をしたらいいのか分かっていない、今の現状を理解していないのだ。
雰囲気に呑まれたように。
俺と彼女達の関係はなんだろう。
生徒会役員仲間というところだろう。これは友達と呼ぶべき存在なのだろうか。
俺は友達がいたことはあるがそれはすごく昔のことだ。
だから今、どこからどこまでが友達と呼べるのかわからない。
いや、誰も分からないだろう。
皆適当に友達だろとか、友達じゃないとか判断しているのだろう。
友達とはなんなのか?俺は全く分からないのだ。
一緒に喋れば友達なのか?それとも遊べば友達なのか?
いくら考えても分からない。まるで答えの無い円周率を無限に考えている気持ちだ。
今の俺にはわからない。
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仕事が片付き、お互い帰る用意をした。
俺は立ち上がりかばんを肩にかけて、
「じゃあな」
「ああ、お疲れ様」
別れの挨拶をした。
そのままドアを出て廊下を歩いた。
途中で教室に忘れ物したのに気がつき教室に向かった。
教室の目の前につくと話し声が聞こえた。
普通なら諦めるが時間が無い。意を決して教室に入った。
「ごめん、君とは付き合えない」
その一言がドアを開けた瞬間に聞こえた。
その言葉が聞こえた後に泣きながら女子が走って行った。
…何今の?昼どら?
「やあ坂墓君、嫌なところを見られてしまったね」
木場が顔をひきつりながら話しかけてきた。
どうやら木場が告白を振ったらしい。
「ああ、本当に見たくなかったよ」
俺の本音を言った。
こいつがこんな顔をするとは思わなくて、少しびっくりした。
「僕はモテてしまうんだ…」
「なんだ?自慢か?」
モテるのは知っているが、自分から言われるとイラっとするな。
なに?筆箱モテるの?すご〜い。
「いや…自慢じゃないよ。僕は告白されたくないんだ…」
こいつが言いたいことが分からなかった。
告白されたくないならいくつでも方法があるのだ。
例えばでかい声で「まだ僕は誰かと付き合う気はないんだ!」って言えば女子は「そーなんだ。今度にしよ」と思うはずだ。
だからこいつの感情が分からなかった。
「なんでだ?告白されるのは男子の憧れだろ?いいじゃねえか」
「君は憧れるのかい?」
顔がすごく悲しそうな顔をしていた…
「……」
何も言えなかった。
俺としては全く憧れていない。むしろ軽蔑している。
だが一般の男子は憧れているだろう。
「なんで告白されるのがいやなんだ?」
答えられないので別の質問で返した。
「告白された人との関係が壊れてしまうからだよ。関係が深ければ深いほど辛くなる」
手に力を入れていた。
こんな木場を見たのは初めてだ。
だが俺はまだ理解できない。
「なら誰かと付き合えばいいじゃねえか。告白されなくてすむぞ」
この問いの返答しだいでこいつの見方が変わると思った。
完璧な爽やかイケメンから…
「女子を…好きになったことがないんだ」
…俺と同じだ。だが理由は違うだろう。
なぜなら過ごしてきた環境が違うからだ。
「昔、女性にストーカーされてね…その時から付き合うとかそんなことを考えず、女子は怖いと思うようになったんだ…」
「お前に、そんな過去が…」
こいつは女子が怖いのか…まあ俺と少し似ているな。
けどストーカーされなかったら違っていただろう…
こいつは女子を好きになれたはずだ。
「よく今まで普通に女子に接していたな」
「…辛かったよ」
もう泣きそうな顔をしていた…
ずっと恐怖を抑えて接していたのか…こいつも大変なんだな…
「そうか…」
それ以外かける言葉が見つからなかった。
すると木場は深刻な顔をしてこっちを見てきた。
「君も人を好きになったことがないんだろ?」
「……」
どうやら俺は女子を越えて人だそうだ。
たしかに家族以外は人を好きになったことが無い…
人自体が好きになれない…
俺も怖がっているのだろうか…人と接するのを…
だが俺は素直じゃない。そんな自分を認めない。
「どうだろうな、俺も知らん」
顔がどうしても暗くなってしまう。
拳がどうしても力が入ってしまう。
泣きそうになってしまう。
これが俺の弱さだと思うしかないのだ。
「あいまいだね…認めたくないのか…」
どうしてもこいつにイライラしてしまう。
こいつは悪くないのに、悪いのは自分の弱さなのに。
「僕も認めたくないよ。君と同じだ。だからあの時言えなかったことを言う」
あの時…アピタで会った時のことだろうか…
今なら分かる、こいつの言いたいことが。
青春を送るやつの決めゼリフだ。
「僕と友達になってくれ…」
それは彼の魂から聞こえたようだった。
こいつは自分の弱さを理解しているし認めてもいる。
その上でこいつは俺と友達になることで自分の弱さを克服しようとするのか…
俺は自分の弱さを理解はしているが認めていない。認めたくない。
こいつと俺はどうやら似ているのは表面上だけで、中身は全く違うようだ。
俺の方が…弱い…
だから俺はこんな返事しかできない…
こいつのためを思って…こう返事するしかない…
「自分を大切にしろよ…。あと自分の立場も…お前は俺なんかと一緒にいていいやつじゃない」
こんなことしか言えない自分に腹が立つ。
弱い自分に腹が立つ。
やはり俺は青春を過ごすにあたいしない存在なのだ。
「君は自分に厳しいんだね…」
爽やかでどこか可哀想に思えるような笑顔をした。
自分に厳しいね…そんなやつはいない。
自分に甘いやつしかこの世に存在しない。
優先順位は自分が一番、他人が二番なのだ。
俺だって自分に甘い、週末には自分へのご褒美でハーゲンダッツ買うし、コーヒーゼリーを家族の分もこっそり食う。
自分が一番なのだ。
「厳しくなんかない、正当な判断だろ」
「そうかな?君は自分が好きだけど本当に好きにはなれてないように見えるが」
こいつは俺の事を分かっていない…
俺は自分の全てが好きだ。
朝起きるのが遅いとこも、友達がいないとこも、頼られると断れないとこも、人を好きになれないとこもだ。
だから俺はこいつの友達にはなれない。
なってはいけないのだ…
「俺は自分の全てが好きだぞ、この性格もだ…」
木場にもう爽やかな笑顔は無かった。
「君はそうやって自分を騙しているんだね…」
自分を騙している…そうなのか?
俺には何も分からなかった。
もうこの場に居たくないと思った。
「お前に俺の何がわかる…」
そう言って俺は教室から出ようとした。
教室から出る時に、
「逃げるのか?本当に自分に甘いんだな」
そんな挑発的なことを言ってきた。
だが俺はそんな挑発には乗らない。乗るわけにはいかない。
「お前と一緒にするな…」
拳を握り、捨て台詞を吐いた…
教室から出る時に木場の顔が見えたが、まるで俺を哀れむような顔をしていた…
そのことにさらに腹が立った。
俺は何かから逃げるように廊下を歩いた。
今もあいつの顔が浮かぶ…本当に誰にイラついてるんだろうな、俺は…
多分その答えはもう分かっているのだろうがそれを考えてはいけないと思った…
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「ただいま…」
「おかえりー、お兄ちゃん」
そのまま階段を上がっていった。
妹に自分の今の気持ちを悟られないために…
俺は自分の部屋に行きベッドに倒れこんで大きなため息をついた。
何も考えられない。
今の俺の脳内はクチャクチャだ。
あいつが何を俺に期待したのか。
あいつが俺をどう思っているのか。
俺はなぜあんなことを言ったのか。
俺は何がしたいんだ。
いろんな疑問が浮かび上がる。しかしその答えはまったく分からない。
ただ木場のあの顔が頭に焼き付いた…
今回は案外感動する話だと思いました。
これからの坂墓の心情の変化をお見守りください…




