魔王ライナス様と僕の友情日記
ばんははろ、EKAWARIです。
この小説は毒舌ツッコミ屋の半人半魔の少年『僕』と明るくお馬鹿な変わり者魔王ライナス様との友情物語のその読み切り版です。
本当は連載したいのですが、他にも連載抱えていたり諸々で余裕がないのでとりあえず今回読み切り版だけあげてみました。
余裕が出来たら多分本連載のほうもはじめます。
前略、天国のお母さん、実家で今もぐうたらしているだろうクソジジイ、元気ですか。僕は今ピンチです。
「あー……くそ、あのファッ○ンハゲタカ隊長め。いくら僕が魔族交じりだからって空飛べるわけないでしょうが。嗚呼、くそ、フ○ック! 人のこと崖の上から突き飛ばしやがってぇ~! 僕があれですよ、普通の人間より頑丈じゃなかったら今頃死んでますよ、マジ何考えてやがんですか、あのハゲネズミ」
太陽が燦々と輝いて、青空が目に染みる本日ですが、あまりにあまりな自分の境遇に涙の雨が降りそうです。いや、そこで泣くほど僕は可愛い人間じゃないですけど!
うん、右足が折れて動けません。
そもそものはじまりはあれでした。
とりあえずやることもないので、これまでの経緯を回想してみます。
18年前、僕は人間の父と魔族の母の間に生まれました。その出会いは父曰く運命とかだったそうですが、真相としては水浴びしてた最中の母に一目惚れした父が1年に渡ってストーカー……失礼、愛を囁き続けた結果母は根負けして……じゃなくて、靡いて見事ゴールイン、パコパコやることやった結果僕が生まれましたよやったねファザー。みたいな感じだったらしいです。
しかし、僕を産んで間もなく母は死亡したので、正直僕に母の思い出はほとんどありません。そんな僕ですが、ジジイといつもどおり喧嘩しながらもそれでも人間側として育ちました。いや、この環境でグレずに育つなんて僕マジ良い子。すげくないですか、僕。僕ちょーすげー。全く、あのファ○クなクソジジイには過ぎた息子ですよ!
ちなみに僕は母を恋しいと思ったことはあっても、魔族を恋しいと思ったことは有りません。だって、僕は確かに魔族の血をひいてはいましたが、外見も能力も、ちょっと頑丈で成長が人間より遅いくらいで、他は普通の人間と大差なかったですから、まあ気にするわけもありません。僕に対して魔族交じりと馬鹿にしてくるガキンチョどもにゃあ口喧嘩で言い負かしてきましたし、ええ、本当平和に暮らしていました。
ところが一昨日とうとう国から徴兵収集がかかって、まあ義務だからしょうがないとばかりに、国軍兵士となるため行ったんですが、そこで出会ったフ○ッキン隊長……おおっと、ハゲ頭隊長はあろうことか人間至上主義の差別主義者で、ええもう僕は恰好のターゲット。あれやこれや嫌味いわれまくりましたよ、ウゼエ。でも哀れな僕は言い返す言葉一つかけずに健気に耐え抜いてやったんです。人間関係って大事ですからね! 嗚呼、可哀想な僕。本当、マジ何度ファッ○口撃で返してやりたかったことか。あのハゲてめえの浮気現場押さえて奥さんに告げ口してやろうかってんですよ。いや、してませんよ? なんですか、僕を疑っているんですか。フ○ック、傷つきました、慰謝料をよこすがいいです。
まあ、それでもそれなりに隊長以外の人間とは上手くやってたわけですが、そしたら、昨日ファッ○ン隊長はあろうことか、僕と二人で斥候に出るとか言い出しやがりまして、えー? 嫌だなあと思いつつも、健気な僕は「はい」と大人しく返事をしてついていってやったんですよ。
ところが、あのファ○キン隊長の奴、「オマエも魔族なら空くらい飛べるだろ。敵見つけて来い」なんていいながら僕を崖の下に蹴り落としやがったんですよ!? うわお、マジ信じられねえ! ありえねえ! 絶対次会ったら殺す!
そうして崖の下に哀れ落ちた僕は右足を骨折して全身打撲。こうして森の中に横たわっているわけです。あー、マジありえねえ。あんのハゲネズミ、マジ死ね。
「しかし、本当いい加減やべえですね」
森の中っていったら、獣の巣と相場は決まってやがります。今は僕も意識をしっかりさせているのでいいですけど、眠っている間に襲われたらたまりません。何せ今僕は動けねえんです。それに前途した通り、やや丈夫ってだけで僕は殆ど人間と大差ありません。
……ファ○ク! 畜生、どうせ魔族交じりだってんなら、なんで僕は魔法の才くらい所持してなかったんだ、ジーザス! なんですかね、どんだけ僕は魔族の血薄いってんですか。魔法の才能皆無ってどういうことですか。僕ハーフですよね。クウォーターでも僕より魔適正あるやつなんてゴロゴロいますよ。マジありえねえ。ていうか、このまま僕誰にも見つけられなくて放置されっぱなしだったらどうすんの。あのハゲタカ隊長が助けにくるわけねえってやつですよ、ガッデム!神も救いもねえ。
「……ぁ」
クラリと眩暈がしました。怪我だけじゃありません。空腹もあります。
これでもうちは極貧ってわけじゃなかったんで、飯がなくてひもじい思いをしたことはこれまで殆どありませんでした。でも昨日から何も僕は食べていません。おまけに気をずっと張り詰めていたので疲れがたまって限界なのか、猛烈な眠気が襲ってきました。
「……」
まあ、いっか。なるようになれ。死にたくねえし、ぜってえあのファ○キン隊長ぶん殴ると思っているけど、体力が回復しにゃあなんにもなりません。だから僕は眠りにつくことにしました。正直眠るのは怖いです。獣に襲われないかハラハラです。でももう知るもんか。
そうして僕は眠りに落ちました。
ただ、意識を失うその直前に、誰かの影が見えたような気がしたけど。
* * *
清潔な匂いが鼻に届き、僕はすぅっと健やかに目覚めました。見れば知らないボロい掘っ立て小屋にある簡易ベットの上で自分は横たわっていたようです。
先ほどまでと違う状況に、僕は誰かに助けられたのだと即座に認識しました。いやあ、僕ってやっぱり頭まわるぅ。
でも、はて、一体誰が僕を助けたのでしょうね? あのハゲネズミ隊長が助けるってことは十中八九ありえねえですけど。
そんな風に考えていた時でした。
「お、気がついたのか」
かけられたのは若い男の声で、僕は思わず声がした方向を振り向き、一瞬息を止めました。
そこにはまるで噂に聞く女神像を思わせるような美女が立っていたのです。
ふわふわとしたゆるやかなウェーブを描く銀髪に、滑らかな白い肌、薄く色づいた小さな唇に、ほっそりとしたなで肩で、ややタレ気味の彫りの深い瞳は印象的な赫。体は華奢で折れそうな程に線が細いです。そして……魔族に多い、とがった耳。敵である魔族というのはわかってても、そのこの世ならざる美貌につい見とれてしまいました。
ですが、幻想が散るのは早いものです。
「ん? 何ジロジロ見てんだ? 俺の顔に何かついてんのか」
その、絶世の美女だと思った彼女? の口から聞こえたのは、先ほど僕に対して呼びかけた男の声と同じ声だったのだから。
はたと我に返った僕は、今度はじっと目をこらしてよく相手を観察してみます。
その美貌故に初めて見た時は女だと思って疑いませんでしたが、よく見れば喉仏らしきものがうっすら浮いているし、貧乳なのかと思って気にもとめませんでしたが、よく見れば胸の薄さは貧乳なんてものですむレベルじゃありません。全くのぺったんこです。それにきている服だって簡素な男物の鎧ですし、なにより相手の声はどこからどう聞いても若い男のそれです。この声で女と思えってほうが無理です。それによくよく観察してみれば、確かに綺麗な顔をしてはいますが、女というより少年みたいな表情をしています。
それでもやや半信半疑ながら僕はそれを口にしました。
「……男なんですか?」
「ぐぁ!? なんつーこと聞いてんだ。俺を女と思ったとでも言うのかよ!?」
「というか、外見だけみたら間違えるなってほうが無理です」
「ああ!? なんだと」
ああ、いけない、つい本音がぽろりと出てしまった。
しかし、今更ながら男を女と間違えて見惚れるなんて……一生の不覚だ。なんてこった。ああ、クソフ○ック、マジありえねえ。なんでこんなややこしい顔立ちと体つきしてんですか、こいつ。逆恨みなのは重々承知しているけど、繊細な僕の心に大ダメージを与えた分の口撃による仕返しは許される行為だと思います、はい。
「人が気にしていること口にしやがって!」
「あー。自覚あったんですか。そいつはご愁傷様ですねえ」
「てめえ、さっさと怪我なおしてそこに直れ!」
「はぁ? なんですか、藪から棒に。なんでいきなり僕の怪我の問題になるんですか。アンタ頭おかしいんですか」
「だれが、頭おかしいだよ! お前は怪我してんだ。けが人を殴るわけにはいかねえだろうがー!」
そして「だから、治ったら殴らせろ!」とわめいて、男はガルルと獣のように僕を威嚇しました。……なんていうか、妙なところで律儀な男ですね。世の中には自分の激情のまま、相手の状態なんて考慮せずに暴力を振るうクソッタレどもが掃いて捨てるほどいるっていうのに。
そこでふと、そういえば助けてもらったお礼をいってなかったことに漸く僕は気づきました。気付いたら、冷静な思考も同時に戻ってきましたので、それにより、今までの自分の態度がどれほど失礼なものだったかにも思い至り、僕は自分が少し恥ずかしくなってしまいました。
いくら目の前の男が女じゃないことに動揺していたとはいえ、自分でいうのもなんですが、助けられた人間の態度じゃないですよね、これ。そもそも一方的に僕が間違ったわけだし。
「……あー……その、ですねえ」
何をいうべきなのか、やるべきなのかはわかりつつも、言いづらく、つい、しどろもどろになる僕。
「……なんでぇ?いきなり大人しくなりやがって、気持ち悪いぞ、お前」
そして、嘘のない表情で、ストレートに言葉を放つ、本当心底そんなことを思ってそうな男。
「……気持ち悪いって失礼な男ですね。……いや、失礼は僕でした。その、助けてくれてありがとう」
そういうと、男はにかっと太陽みたいな笑顔を浮かべて「どうってことよ!」そう、先ほどまでの言い争いすら忘れたように笑った。どうやら僕が謝罪を述べたことで、先ほどまでの怒りもまた消えた様子です。と、そこまで考えて、僕は未だに互いの名前すら知らないことに気づきました。
「そういやあアンタの名前は?」
「ん?俺か?」
そういって男が名乗る直前で、ひょこりと第三者である侍女らしき魔族の少女が顔を出しました。
「あ、ライナス様、彼起きたんですね。そこの彼の状況は?」
「おう、サラ。まあ、しょっぱなから憎まれ口聞けるみたいだし、元気そうだぜ」
「……ライナス?」
そうして少女と男の会話で出てきた名称、それはこの大陸に生きるものなら聞き捨てなら無い単語で。この大陸に住むもので知らない方が寧ろおかしい名前で。思わず聞き間違いじゃなかろうと言葉を口にのせました。
いや、だってライナスといえば今代の魔王と同じ名前ってことになるわけで。
(はは、まさかそんな偶然……)
しかし、ここでふとうちのジジイに聞いた知識が脳裏をかすめました。
確か父曰く、魔族の王様は代々銀髪赤目の美丈夫しか生まれないとかなんとか。そこで改めて僕は男をしっかりと見なおしました。
キラキラと光を反射させて輝く銀糸の髪に、深い赤の瞳。とがった耳。そして、素人目にもわかるほどの膨大な魔力を纏った魔族。
「……確認、ですけど」
ギギッと固まる体を抱えながら、僕はおそるおそる言葉を紡ぎました。
「? おう」
「ひょっとして、アンタって……魔王じゃ」
それを聞いた初め、目の前の男はきょとんとした顔を見せ、それから破顔し、ニカリと陽気な笑顔で明るく言ってのけました。
「おお、よく知ってたな。俺が第六代目魔王、ライナス様よ」
「は、はははは……ソウデスカ」
ファ○ク! マジでかガッデム。世の中はどんだけ狭いんですか。など色んなことを思ったように思いますが、この時のことは混乱しすぎていたのでしょう。あとで思い出してもよく思い出せません。
とにかく、これが僕と魔王ライナス様との出会い。
その後この魔王様との付き合いが100年近く続くことなど今の僕には知る由もなかった。
了