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体育祭の罠

「ねぇ?知ってる今年の借り物競争のお題に…好きな人にキスするってあるんだって」

「なにそれ?よく…先生が反対しなかったねぇ」

「一応…キスは唇禁止なんだって」

「そこは…一応ルールがあるんだね」

放課後のモスバーガー。いつもように仲の良い友達と一緒にガールズトーク。

明日は体育祭なので、準備をしない一般生徒はいつもより1時間早く授業が終わった。

そんな日はガールズトークに限るって訳で現在に至る。

「それよりも…罰ゲームだよね」

「うん…確かに」

「自由が売りの学校とはいえさ…」

「それに…私達もそうだけども、皆大学部も一緒でしょう?」

私達は顔を見合わせて互いに頷きあっている。



私達の学校は幼稚園から大学まで揃っている一貫校。

私達のグループも幼稚園からずっと一緒。今年は珍しく4人同じクラスだ。

「誰がそんなこと企画したのよ?」

「体育祭実行委員でしょ?」

「あぁ…サッカー部とゆかいな仲間達…か」

一貫校だからと言って運動部が盛んな訳ではないけれども…ほとんどの生徒が

部活動をしている。私達は皆英語部に在籍している。

サッカー部は学年でもお調子者が多い。去年はサッカー部は文化祭実行委員に

集中して好き放題にやって…今年は実行委員禁止令が出ていたっけ。

後夜祭のキャンプファイヤーに打ち上げ花火放り込んだあげくに教会の横の

モミの木を焦がした事が原因だったんだけどもね。

「彼女や彼氏がいない人はどうするのよ?」

「だから…ランダムなんだって」

「ランダムじゃなくて、彼氏と彼女がいる人を調べ上げたんだって」

「…趣味わるっ」

私はそう呟くとアイスコーヒーを一口飲んだ。



「それよりも…部対抗リレーのバトンはどうしよう?」

ある意味学校名物の部対抗リレーがある。

各部を象徴するバトンを用意して、その部を最大限にアピールするチャンスだ。

毎年私達は、文化祭の英語劇の衣装を着て、英語にまつわる何かをバトンにする。

「今年は私達4人が走るんだよね?」

「後輩達がそれでいいって」

「衣装はどれにしようか?」

今年の公演はウエストサイドストーリー。衣装のままだとハイヒールで走らないと

いけなくなる。なんか楽な衣装ないかなぁ?

「ねぇ…走れメロスの衣装って残ってるかな?」

「あると思う。自前は足袋だよね?」

「多分…部室に誰かいるから、走れメロスの衣装ケースを出して貰おうか」

「明日でもいいけど、早い方がいいよね」

私は携帯を取り出して、2年生の部員に対して一斉メールを送って指示を出す。

「指示メール出しといたよ」

「ありがとう。私達の最後の仕事だものね」

「そうだね。頑張ろうね」

「絶対に吹奏楽部に勝つぞ」

私達は顔を見合わせて笑った。



皆と別れた後に、駅の切符売り場で私はある人を待っていた。

「待たせたな」

「そんなに待ってないよ」

私達はゆっくりと歩き出す。

「体育祭の準備お疲れ様でした。生徒会長」

「あぁ、そうだな。ところで、部対抗リレーの方は?」

「今年は3年生で…文化部部門を勝ちにいくことにした」

「衣装…だよな?」

「うん。走りやすいように走れメロスの衣装にする」

「…ガチだな」

「中学時代のバスケット娘がそれは反則じゃないか?」

私達4人は中学まではバスケットをしていた。一人が怪我をしてしまい

プレーができなくなったので、皆で高校は文化部にしたのだ。

「まぁ…それはそれとして…どうしたの?」

私は彼の顔を見つめる。ちょっとだけ彼の眉間にある皺に気がついた。

「聞いたか?借り物競走のネタ」

「うん。生徒会はいつ気がついたの?」

「多分…お前と同じくらいだろうな。止められなかった」

「で、更に逃げられないように…恋人がいるグループだけを

作るって…」

「それって…全部キスなんじゃ…」

「正解。お前借り物には出ないよな?」

「うん。私はね。あなたは?」

「…分からない。適当に任せちまった。まずいかもな」

私は一気に蒼褪めた。彼が不安そうに私を見る。

「大丈夫。なるべく回避する様に努力するよ。ごめんな」

彼にごめんなって言われると…つい認めてしまうんだよね。

少しだけ…彼を信じてみようかな。



-朝は準備があるから先に行く。ごめん…回避できなかった-

家を出る前に見た彼のメールが私のテンションを下げる。

回避できないって事は・・・キスですか。そうですか。

晴れやかな秋晴れの中、私の足は鉛の足かせを付けられたようにずっしりと重い。

こういう日はサボるに限るんだけどなぁ。体育祭サボれないかなぁ。

はぁと私は溜め息をつく。よく溜め息をつくと幸せが減ってしまうっていうじゃない?

もう…不幸になってもいいやと思える位に私は沈んでいた。

学校に雷が落ちて、体育祭が中止にならないかな…。どんどん悪い方向に

自然とシフトしていく私の思考。この通りの中央で-誰か私と逃げて!!-と

叫んだら…状況は更に悪化するか…素直に諦めるしかないなぁ。

私は重い足を引きずりながら学校に向かうのだった。

昨日、あんな話を聞かなければ…こんなこと想わなかったのに。



「大丈夫だから」

「そうだよ」

「唇NGなんだから」

私は友人達に昨日の帰りからの話をした。嫌でも近づいてくる競技時間。

どんどん青ざめていく私を皆は心配している。

彼とキスするのは…もちろん…嫌じゃない。けれども、罰ゲームテイストでの

キスだけはしたくなかった。

第一そういうことは秘め事として他の人には知られたくない。

あの…おバカサッカー部じゃ分かるわけないか。

「佐保…今…いいか」

「仁。ちょっと行ってくるね」

私は皆に告げて教室を後にした。

「仁…忙しくないの?」

「俺?開会式で挨拶だけだし」

そういうと、生徒会室に連れられる。カチャリと鍵を閉める音がした。

すぐさま抱きすくめられてキスをする。短いキスを数回繰り返してようやく

落ち着いた。

「どうして?」

「落ち着いたか?」

私はハッとして彼を見つめる。そういえば、最近彼と一緒に帰ることはあっても

デートをしていない。だから…キスすらしていない。

「気がついたんだ。私の気持ちに」

「あぁ。だから、皆の前でする前に俺の気持ちも移さないと分かってくれないだろ?

俺だって、あんな場所ではしたくないんだぜ」

そう言ってから、再び私達はキスをする。合わせるだけだけども、長いキス。

いつも以上に私の顔を赤くなっているだろうなと思うと恥ずかしい。

「佐保…かわいい」

「かわいく…ないよ」

「そんなことを言う奴はお仕置きだな」

そう言って私達は再びキスをした。



「お帰り」

「そろそろ外に行くよ」

「二人とも…もう」

ちょっとだけ顔の赤い私達を見て、皆にからかわれる。

彼の方も体育祭が終わって、クリスマスパーティーが終われば任期終了だ。

もう少しだけ…すれ違いが続いてしまう。

けれども…もう私は迷わない。さっきの事で確信した事があったから。

「じゃあ、頑張ろうな。俺先に行くから」

そう言うと彼は廊下を走りだした。

「会長、廊下は走らない」

「今日位はいいんだよ」

そういって彼は見えなくなってしまった。

「諦めはついたのかな?」

「うん」

「女は度胸よ」

「そうだね」

私達も校庭に出る為に昇降口に向かった。



-では、借り物競走最後のひと組です-

メンバーは8人。中には仁の姿も見えた。

仁以外のメンバーは…なんだか悲壮感が漂っている。

等の本人は…脳内散歩を楽しんでいるみたいだ。

どこに行ってるんですか?いい加減戻ってきてください。

競技が始まり、一斉に走り出す。生徒会長と言いつつもバスケット部だから

走れば当然早い。最初にメモを拾ってから私を探し始めた。

「佐保!!おいで!!」

呼ばれた私は仁の元に走り出す。確かに彼女を探すよりは呼んだ方が早い。

「お待たせ。キスするんでしょう?」

「違う。悪い、耐えてくれ」

見せられたメモを見せられて唖然とする。そこにはこう書かれてた。

-彼女をお姫様だっこしてゴールすること。全員ゴール後に愛の言葉を囁いた

後に唇以外のキスをすること-

彼は私をお姫様抱っこしてゴールを目指して走り出した。

トップでゴール。後ろを振り返ると…ごねていたり、けんかしたり…最後は

土下座して拝み倒している。それを見て、皆は笑っていた。

当事者じゃないから笑っていられるんだよ。



無事に全員がゴールした。私達はいつも通りだと思うが、他のカップルは

青かったり、赤かったり。顔をそむけている人もいる。

これが切っ掛けで別れるなんて…最悪すぎる。

実行委員はお構いなしに最後にゴールしたカップルから最後の指示を…と

コールしている。

そして私達の番になった。

「佐保。ちょっと我慢しろよ。終わったら…生徒会室で待ってる」

「うん…仁を信じてるから」

-では、愛の囁きをどうぞ-

「俺の初恋はあなたです。ずっと愛してます」

そういってから私の左手の薬指にそっとキスをした。

仁の初恋の相手が私とは知らなかったけど…そこにキスするのはキザ以外の

何物でもない。

そうして競技は進行係の思惑通りに終わったのだった。



コンコン。私は生徒会室のドアと叩く。

「佐保か?いいぞ」

「うん」

私はドアを開けて入る。再び鍵を閉められた。

「さっきは…ごめんな。でも本当だから。愛してる。ずっと側にいてくれ」

そう言うと仁は私をギュッときつく抱きしめた。

「うん…ずっと側にいるよ。私も…愛してます」

「佐保…その日が来たら、学校の教会で式を挙げような」

「…考えておきます」

突然言われた彼のプロポーズの様な告白に私はそう答える。

「愛してるよ」

再び彼が甘い言葉を囁いてからキスをする。

「口約束も契約だからな?」

その言葉を聞いて…ちょっとテンションが下がった私だった。

まぁ、そこが仁らしいけどね。



-おまけ-

午後からの部対抗リレーは、私達の作戦勝ちで最大のライバルだと思った

化学部をも抜いて優勝した。まぁ、化学部が液体窒素のボンベをバトンに

するって聞いていたんだよね。

吹奏楽部は…メトロノームを持って走っていたけど、第一走者が転んでしまって

メトロノームが壊れてしまって途中棄権。

茶道部は和装が故に走れない。写真部は三脚をバトンにしたのが仇になって

上手くコーナーが走れずに失速。

華道部ははさみをバトンにしようとしたので危険だから失格。

演劇部は文化祭の方に集中したいと言うことで辞退した。

「佐保はこうなることが分かってたのか?」

「良く分からないなぁ。でもハンデはつけたつもりだよ?」

「まぁ、お前があんなことになるとはな」

最終走者の私は、王様も恰好で走る抜けたのだった。本当は皆がメロスの予定

だったんだけども、各部の状況を聞いたので急きょ変更したのだ。

「お前たちらしくておもしろかったぜ。帰ろうか」

「うん」

仁が差し出す手に手を載せて手を繋ぐ。

久しぶりの一緒の下校を堪能するのだった。



高校の時に好きな人と走るを引いたことがあります。

当時交際中の人がいなかったので、部活の部員全員を招集しました。

部の皆好きだったから。意味は違いますけどね。


部対抗リレーは当時の高校のものを少しだけ再現してます。

各学校でおもしろいエピがありそうですよね。

友人は水泳部でしたが、水着でビート版をバトンにしてましたよ。

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