トラブル吸引機
トラブルを引き当てるのが上手な人っていませんか?
トラブルに巻き込まれたカップルの話です。
「先生に色目を使わないでよ」
いきなり同じクラスの寛子に平手打ちを食らった。
訳も分からず私は茫然としている。
「二股かけるなんていい度胸よね?彼も知っているんでしょ?」
私は…二股かけたことなんて…一度もない。
「ちょっと待ちなよ。どういうことか説明しなよ」
「あんた、昨日先生のアパートに行ったでしょ?」
先生のアパート?なんだそれ?誰の家?
私が知っているのは、担任の実家と、親友の家の3件先の理科の先生の
家位だ。他には覚えは…ない。
「昨日は…私…予備校だよ。彼も一緒だったもの」
一瞬にしてクラスは静まる。その後に急にザワザワしている。
「何だよ…ガセかよ」
「やべぇよ。俺面白おかしく流しちまった」
どうやら私の知らないところで…ありもしない話が流れたようだ。
それともドッペルゲンガーって存在するんだろうか?
後者だったら…私はまだ死にたくない。せめて結婚位はしたい。
夢見る乙女なんだもの。
私は深い溜め息をついて皆に聞くことにした。
「なんで、私が平手打ちを食らったか…そこから知りたいんですけど?
これだけされて…私叩かれ損なんですけど」
にこやかに皆に問いかけているけれども、心なしか皆の顔が青い気がする。
「ねぇ、玲子…それってマジ怖いからやめて?」
「背後に見え隠れする禍々しいオーラ…控えようよ」
皆保身に走っている。なによりも私を叩いた寛子が逃げようとした。
すかさず、セーラー服の襟を力いっぱい掴む。
「寛子…逃がさないから…ね。大丈夫、私は叩かないから…痛い事嫌いだし?」
「れっ、玲子。なんでそこ疑問形?」
「さあ?わたしよくわかんなぁい。皆の方が知っているよねぇ?
そろそろ全部吐いちまいな。分かってるわよね?クスクス…」
私は限界点を超えて怒ってしまうとどうやら別人に変わりつつあるらしい。
私も最近知ったことだけども。私の知らないところで起こる事件のせいで
彼との関係がぎくしゃくしていたのも事実。いいこと何もない。
そろそろはっきりしたかった。
「本当に、山田のアパート行ってないの?」
「…っていうか、何で放課後に先生の家に行く必要があるの?
学校で済ませばいいでしょう?」
そう、まずそこから皆と私の視点がずれている。
寛子が山田先生にガチで恋していることは知っている。
山田先生は…基本的にひと山いくらのリンゴ程度なんだけども。
けれども…なぜか先生にいじられているせいか、寛子の目の敵になっていた。
正直に言うと、本当に迷惑している。私は穏やかに日々を過ごしたいのだ。
「じゃあ、確認。昨日は予備校にいたと」
「うん、5時~9時までね。自宅に戻ったのが10時前だから」
「誰か知っている人いない?」
「隣のクラスの弥生ちゃんが最後のクラスにいたよ」
私が覚えている範囲で答えた。早速弥生ちゃんに聞きに行ったようだ。
「噂の時間は…玲子じゃありえないことは証明できるけど」
「本当に行ったことない?」
「こっちも言うけど、山田先生は先生なだけ。恋愛対象に見れない。
寛子には申し訳ないけど、あしわられて終わりじゃない?」
「そこまでかたくなだと…本当にないな。二股説も」
「当たり前でしょう。彼氏は一人で十分」
私はきっぱりと断言する。けれどもこの変な噂はどこまで広がっている?
彼のいる理系クラスまで広がると私一人じゃ収集はつかない。
「玲子!!どういうことだ?」
あぁ、一番起こって欲しくない事が現実に起ころうとしている。
「和幸。濡れ衣だよ。昨日は予備校に行ったのも、帰りも一緒だったでしょ?」
「そりゃ、分かってるよ。でもそれは…お前に隙があったからだろ?」
そういうと和幸は私の腕を掴んで引っ張っていく。多分行くのは…
和幸がサボる時に使っている物理室。先生公認で使えるってどうよ?
私達は物理室に向かって進んでいくのだった。
ピシャリ。物理室のドアが閉まる。一気に訪れる静寂が今日は恐怖に感じる。
「かずゆ…うっ」
彼の名前を呼ぶ前にきつく抱きしめられ、強引に唇を塞がれる。
焼きもちを焼いている時の彼のキスは強引で、おしつけるようなキスをする。
今日もお約束の展開になる。こないだは何で焼きもちを焼いたんだろう?
ふとそんなことを考えた。やがて唇が放れる。
「ねぇ、和幸…聞いて。私は和幸しかいらないの…知ってるでしょう?」
「あぁ、知ってる。分かってる。でもあんな話が流れたら焼きもち焼くのは
おかしいか?」
「おかしくない。それは嬉しい。けれども…ちょっと痛い…よ」
抱きしめていた腕の力が緩まる。私はすこしホッとした。
「でも…私には隙はない。山田には教科担任以外は繋がらないようようにしてる」
「まぁな。お前の危機管理能力は俺も認めるからな。でもさ…」
「宮田君達が…面白く行ったんでしょう。お前捨てられるとか…って」
「その通り、俺のクラスには寛子に捨てられた永井もいるからな。
変にリアリティーがあってさ。お前も頬…やられたのか?」
頬をひんやりとした和幸の手が触れる。本当の事を言うと心地いい。
「とりあえず…事の真相を確かめたいから。昼休み一緒に職員室に行って」
「そうだな。俺も一緒に行くよ。授業…どうする?」
「もう…戻るのも馬鹿らしいから、終わるまで…ここにいたい」
私達は物理室の床に座り込んで、抱き合ったまま授業が終わるまでいた。
-事の真相-
山田の隣に住む英語の先生が、3年生の先輩と私の見間違えたのが事の真相だった。
どっちにしてもいい迷惑な話だったので、担任に報告してきっちりとお仕置きを
して貰った。
この事が切っ掛けか分からないけど、寛子は山田先生に表面立ってはモーションを
かけることは無くなった。
けれども…先生は春休みで退職した。本当の所は誰にも分からない。
噂を聞いて焼きもちを焼いて衝動的にしたキスです。
焼きもち焼きの彼氏をもって過度に意識されないように行動した…
かすかな記憶があります。
冒頭のやり取りは…ほぼ事実です。この時は掴みかかられました(笑)
平手打ちはその数ヶ月後ですが…痛かったですよ。
本当に身に覚えが一切ないんですから。




