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第一話  蛇と少女の初舞台

 それは唐突の出来事だった。


『余さ、やっと約束した封印期間が終わるわけよ』


 上級魔族が数多く巣くう廃城から戻り、回収してきた戦利品をチェック。

 希少品を除いて換金し、一息入れた所で相棒の男騎士は脈絡もなく宣っていた。

 困るのは消耗品の補充と整理を行っていた魔法使いの娘である。

 しかし娘にとって、この程度の電波話は慣れたもの。

 相づちを打つでもなく、脊髄反射的に叱責の言葉を紡いでいた。


『君、ゲームのやりすぎ。黄色い救急車呼んであげようか?』

『本当だって、こう見えても昔は世界に名を轟かせた神様ですよ? これ本当』

『与太話が無ければいい人なのに・・・』

『一年以上付き合いがある友達に何言うのこの子!?』

『で?』

『冷たい娘だなぁ』

『で』

『容赦ないっすね』

『最後のチャンス』

『マジすんません、話を戻します。とゆーことで、久方ぶりに街を闊歩したいわけですよ。金は暇に飽かせた電子取引で稼いどるから一つ余と会わないかとお誘いを』

『それはいつ? 私、昼間だと無理だよ? 年がら年中遊んでるニートと違うんだよ?』

『ああ、明後日の土曜だからだいじょ・・・どこまでセメント!?』


 ここでイニシアチブを終始握る魔法使いは一考する。

 不安がないと言えば嘘になるが、何だかんだと付き合いの長い彼と一度会うことは吝かではない。

 そこでスケジュールを思い返し、特に何もないことを加味して――――――――


『いいよ。 でも、妙な気を起こしたら1をプッシュ、も一つ1をプッシュ。最後に0と通話ボタンを押すのであしからず』

『信用ゼロっ!?』

『ゼロじゃないからOKしているんだけどね。あ、そろそろ寝ないと学校が』

『ういー、じゃあ場所と時間はメールしておくわー』

『はいはい、一応楽しみにしてます。お休みなさい』

『おつー』


 別れの挨拶を済ませると、魔法使いの少女は瞬時に姿を消した。

 それもそのはずだろう。

 これはオンラインゲーム内での話であり、魔法使いを操っていたプレイヤーが接続を切断したのだから。


「・・・・安請け合いしすぎたかなぁ」


 続いてパソコンの電源を落としに掛かる魔法使いの中の人こと、黒澄硯梨は盛大に溜息を吐いた。


「でもβ版から遊んでる仲だし、悪い人じゃない・・・はず」


 椅子の背もたれに背中を預け、壁に掛けた鏡を何気なく覗き込む。

 写るのは忘れようのない己の姿。

 長めの黒髪に白い肌。派手さはないけれど、結構可愛い部類に入る容姿じゃないかなと我ながら思う。

 親友は磨けば光ると色々進めてくるが、面倒なのでスルー。

 こう見えても二回も告白を受けている身だ。

 今のスペックで十分である。


「ひとまず明日は学校もあるし寝ようっと」


 愛用のパソコンのファンが停止し、完全停止を確認した少女はベッドに潜り目を閉じる。

 心を揺らすのは初のオフ会(?)への不安と期待。

 まだ年若い硯梨にとって一大冒険なのだから仕方がない。

 救いは期待サイドに大きく寄っていること位だろうか。


「・・・・くぅ」


 気が付けば意識は闇に落ち、意識は夢の中だ。

 しかし少女は夢にも思わない。

 この瞬間、平穏な人生の道からスピンアウトした挙げ句、魑魅魍魎の跋扈する世界に足を踏み入れてしまったと言う事を。

 黒澄硯梨、15歳。この時はまだ何も知る余地はなかった。






<第一話~蛇と少女の初舞台~>






 硯梨は激しい後悔の念に襲われていた。

 生まれてこのかたずっと暮らしている天夜市は比較的新しい街であり、今も開発が続く中々に栄えている中堅都市だ。

 とはいえ郊外に少し出れば手つかずの自然が残っている事も理解しているつもりだった。

 が、一寸街から離れただけで交通手段が一時間に一本も通らぬバスしだけとは如何なものか。

 約束したからにはと苦労して来てみれば、そこは山登りにも向かず、ピクニックにも向かず、全てが中途半端な山の中。

 人影も当然皆無で、有るのは伸びるに任せた木々達だけである。


「・・・騙された?実はドッキリ?」


 ふと脳裏をよぎるのは、年齢も性別も雑多な人々が失踪を続ける怪奇事件だ。

 今朝の新聞によると被害者は増え続け、死体どころか目撃者すら皆無らしい。

 そんな危険なご時世に、人気も無い山中にのこのこと呼び出されるままに来てしまった。

 これはひょっとすると死亡フラグ? と一筋汗を垂らす硯梨である。


「でも、約束の頃合いだよね・・・うん」


 不安そうに息を潜める少女が立ちつくすのは、廃墟にしか見えない社だった。

 元は土地神を祭った神社でも今や神主すら不在であり、うわさ話ではお化けが出るとも言われる心霊スポットと聞く。

 しかし此処こそ待ち合わせの場所。こんな場所を選んだ顔も知らぬ友人が実に恨めしい。


「あ、ぴったり三時。この際からかわれたでいいから、変な人は来ないで欲しい・・」


 時計の針がL時を描いた瞬間――――それは起きた。


「あ、あれれ、地震?」


 最初はゆっくりと、次に地面が割れるかのような揺れがやってくる。

 こんな時に地震だ。それもピンポイントに狙い澄ましたかのような。

 反射的に腐食具合の弱い社の柱を掴む硯梨だったが、続く大地の異常を上回る出来事のせいで驚く暇を与えられなかった。

 聞こえてくるのは体の芯から怖気を呼び覚ますような叫び声。

 それもどんな生物が上げたか判らぬ異端の奇声である。


「うーん、何が何やらさっぱり。早く帰れという神様の掲示なのかも」


 普通の少女なら恐怖で縮上がるしかない状況だが、この娘は違う。

 震えるどころかやれやれと溜息を吐く余裕すらあり、臆する様子は見られない。

 目の前の現実をありのままに受け入れる、それが黒澄硯梨と言う少女の強みだった。


「今なら帰りのバスにもギリギリ間に合うし、ひとまず下山を――――」


 揺れも収まった為、踵を返し帰路に着こうとした瞬間である。

 ふと見上げた空に異物が混じっていた。

 それは白い塔のようで、よく見れば光で出来たような八枚の板を煌めかせている。

 何だろうと首をかしげる硯梨だが、答えは空から降ってきた。


『欠伸しゅーりょー、これこれせっかく来たのに帰るな娘っ子』


 鎌首を擡げて硯梨を見下ろすのは蛇のような何か。

 あまりに巨大すぎて生物だと気が付くのが遅れてしまったが、それは塔などではなく巨大で人語を解す珍種の大蛇だった。

 そこで硯梨は――――――――


「ごめん、私に爬虫類の知人は居ないよ。誰かと勘違いしてない?」


 と、至って普通の態度で言葉のキャッチボールに応じていた。


『十中八九間違い無いと思っていたが、その空気の読めない無駄な大物っぷり・・・やはり硯梨? お初にお目に掛かるけど、余ですよ、余』

「今時オレオレ詐欺は古いって!」

『突っ込むポイントがそこ!? 約束したじゃろ? 余はネトゲでつるんでるスネークさんですよ? 今日会う約束してたよね!?』

「ふーん、そうなんだ・・・・って、蛇が喋ってる!?」

『遅っ、マジ遅っ!』


 大蛇は巨躯をくねらせ、もどかしさを体全体で表す。

 対する少女は少々驚いても取り乱した様子もなく、至って平常心なのが不思議だ。


「じゃあ与太話と聞き流したけど、本当に神様なの?」

『うむり。太古より君臨する神祖の一柱にして、あまり負けない無敵風味の蛇神が余です』

「やっぱり“復活の生け贄は貴様だー”とかそんな風に私を食べる?」

『食べません。食べたら遊びなくなるし、ぶっちゃけ人間は食べ飽きた。後千年くらいはもうお腹一杯。余はやりたいことのみを追求する神様であり、虐殺大好き戦争の神様みたいのとは似ても似つかない温厚な生物です』

「ふーん」

『うわーい、この子全く信じてないよ!?』


 完全に当初の予定が狂っていた。

 別に怯えて欲しかったわけもなく、何がしたかった訳でもない。

 しかしこれはあんまりだ。

恐怖でも畏怖でもなく、ジト眼の少女が向けてくるのは“可哀相な妄想癖”的な憐憫の感情とはいかなるものか。

 本気で困り果てた大蛇は少女から目を逸らし、在らぬ方向を見る。

 するとそこに救いがあった。


「ねぇ、私だけ名前で呼ばれるのは嫌。確かに本名プレイだったから当然と言えば当然だけど、言葉が通じるんでしょ? この際神様でも爬虫類でもいいから名前を教えて」

『この娘は余を何だと・・・・あれ、目から汗が?おかしいのぅ・・・はは』


 信仰や畏敬の対象にされた経験は無数にある。

 が、ここまでいい加減な扱いなど長い人生でも初めての出来事だ。

 しかし自称神様はへこたれない。折れそうな心を辛うじて支え、平静を取り戻す事に成功する。


『余は神様、こんな事じゃ負けません。平常心・・・・平常心』

「で?」


 無自覚で内心を声に出していた大蛇は、つい先日のやり取りと同じ言葉を聞いて戦慄した。

 これは間違いなく最後通告。彼女の求める答えを口にしなければ、この娘は間違いなく怒るに違いない。

ゲームとはいえ長く交流してきた中で、それがどれほどヤバイかは身に染みている。 

 身の危険を感じたヘタレは慌てて口を開いた。それも存在として圧倒しているにも関わらず敬語で。


『ええとですね、地方によって呼び名が違うので固定名はありません。なのでこの際心機一転、余が今後使用する名を硯梨が決めるがよいかと』

「じゃあシロ」


 見た目一発、捻りが一ミクロンもない適当な硯梨だった。


『余は犬じゃないよ!? しかも安直だとは思わんかの!?』

「・・・んー、じゃあ季節に併せて“七夜月”とか? 他だと“ゲレゲレ”とか・・・・“アルトアイゼ――――」

『七夜月がいいよ! 超気に入ったよ!』

「気に入ってくれたなら、これからはそう名乗ってね」


 余談だが、硯梨はメールアドレスすら契約日に設定する質実剛健な娘だったりする。今が何月かはお察しだろう。

 事実上の一択から露骨に妥協した大蛇こと月は、一度力を見せ無ければならないと判断。

 主導権を握り替えすべく、先ほど見つけておいた獲物をちらりと見やり告げた。


『さて・・・でっかい蛇の化け物くらいにしか見られて無さそうなので、ここらで余の力を見せつけたいと思います』

「?」

『多少の火の粉が降りかかるかも知れんので、余の近くに来るのだよ』

「だから説明を」

『口答えせずにハリー。余的にかすり傷でも負わせたら負けかなぁと思ってるのです』

「仕方がないなあ」

『あああ、幾多の国々を震撼させた余が娘っ子一人に何故か逆らえん・・・・』


 無警戒に月の元へと駆け寄ってくる少女を見やり、七夜月は思う。

 ネット上の交流により少女の性格は掴んでいたが、現実でも全く変わらないとは驚きだった。

 さすが自分が目を付けた娘と複雑な心境の月である。


「えーと、何をするの?」

『少し待つのだよ。そろそろ――――来たか』


 草木を無理矢理押しのける音が聞こえた次の瞬間、二つの人影が飛び出してくる。

 人影は男達で、抜き身の刀や黒光りする拳銃をその手にぶら下げていた。


「異常な魔力の高まりを調べに来てみれば、やはり異形か!」


 男達の片割れはそう言いながら月を見上げ、次に硯梨を見て二の句を紡ぐ。


「娘、お前がこの異形を呼び覚ました張本人だな!恥を知れ!」


 完全に誤解されていた。

 何が何やらさっぱりだが、勝手に自己完結されても困る。

 硯梨は被害者であり、そこの大蛇に呼ばれて来ただけなのだ。


「勝手に決めつけないでください。私は友達に会いに来ただけで、怒られるようなことは何もしていません!」

『うむ、余と硯梨はペアで狩りを続けてきた相棒よ。対人戦でもランカーだった! ふはは、凄いだろう!』


 月としてはフォローしたつもりだった。

 しかしその表現は事情を知らぬ彼らが誤解を招く物であり――――


「・・・見た目に惑わされる所だった。その齢にして人間狩りに手を染めるとは何たる悪魔。異形に与して人の世に害為す魔女め。対魔師として見過ごすわけにはいかん。ここで討ち取るのが情けだ! 殺るぞ!」


 応、と返事が上がって全く噛み合わない交渉タイムが終わった。

 硯梨は呆れ、月を見上げて言う。


「この展開を予測してたんだ・・・・」

『うむ、まぁ見ているのだよ。余の力の片鱗を見せちゃるから! いくぞ余のターン、ドローッ!』


 月はそう言いながらも微動だにしない。故に先手を取ったのは男達だ。

 硯梨からしてみれば漫画やアニメの世界でしか見たことのない魔法陣を展開し、露払いと炎の弾丸を拳銃から連射。

 続いて大上段に刀を振りかぶった男が地面をえぐる踏み込みを見せる。

 これぞ幾多の異形を屠ってきた連携のはずだった。


『はっはっはー、その程度で余に刃向かう? 一万年早いわ!』


 月は傍目では何もしていない。

 しかし灼熱の炎弾は撃ち出した瞬間に四散。バックファイアで術者の全身を焼き、一人目は勝手に自爆。

 斬撃を放とうとした男に至っては何も無い空間で四肢を硬直させて脂汗を浮かべている。

 硯梨には何が何やら判らないが、月の言葉を聞く限り彼が手を下した事だけは理解できた。

 そこで答えを知る友達に素直に聞こうと大蛇の腹に手を触れる。


「んと、状況解説を頼んでも?」

『凄いはしょるとだね、連中は余のような人外を異形と呼び、存在を許さず皆殺しだぜーって人間の集まり。ファンタジーな技術を組み上げて今のように炎を生み出したり、身体能力を強化してうちらに牙を剥く・・・・分かりやすい例えだと魔法使いって感じだの』

「魔法って本当にあるんだね。私びっくりだよ」

『滅茶滅茶平常心に見えるがのぅ・・・・』

「これでも結構驚いてるよ? それでえーと、今の自滅っぽい現象は?」

『余がやりました。飛び道具に対しては魔法の設計図に干渉して暴発させ、そこで変なポーズのまま動かない男は周囲の空気分子を結合して固定したのだよ。殺すのは簡単だけども、今後の為にメッセンジャーとしたい訳で』


 昔の自分ならこんなまどろっこしい真似はせず、邪魔をすると判っていればこちらから出向いて全てを滅ぼしていただろう。

 長い封印期間の間にずいぶんと丸くなったものだ、と月は思う。  


「ふーん、凄いね。ちなみに私にも魔法って使える?」

『今日のデートが終わったら適正チェックをしてみようではないか』

「虚構じゃない現実でも魔法使いになれたら嬉しいな、きっと楽しそう。後、デート言わない」

『・・・んじゃまサクサクっと用事を済ませよう。おい人間、口は動かせるだろう?』


 すっかり放置プレイだった刀使いを見下ろす月は、不自然な体勢を余儀なくされていた男に四肢の自由を僅かに戻して楽しげに嘲笑する。


「・・・・何だ」

『余の名は本日より七夜月。貴様ら人間が言うところの神である。お前は勘違いしているようなので訂正してやろう。人の法に縛られるつもりは毛頭無いが、さりとて人をどうこうするつもりはない。故に貴様の仲間に知らせておけ。余がいくら寛大でも、刃向かう存在は路傍の石であろうとも必滅すると』

「化け物風情が神を名乗るか。よかろう、上がどういう判断を下すか俺には判らん。しかし、確かに伝えよう。貴様が何者であれ、この場の支配者は・・・お前だ」

『では解放だ、妙な気を起こしたなら原子レベルまで分解するぞ人間。そこの燃え滓を拾ってとっとと帰れ。余はこれからわくわくお食事タイムで忙しいのだ』

「貴様っ、さては人を喰らう気か!?」

『骨が多くて喰いにくい人間なんぞより、今までネットで見るだけだった美食の数々を貪り食うに決まっている! 昔では考えられない新技法に料理ジャンル、特に進化の著しいラーメンが気になって仕方がないわっ!』

「・・・・は?」

『でも今日は相棒が一緒なので、女受けの良い高級イタリアン祭と洒落込みます』

「いやその・・・」

『予約の時間までそんなに余裕がない。そろそろ切り上げて良いか人間?』

「お前本当に異形か!? 仮に異形と認めても、方向性おかしいぞ!?」

『何その小物に対するようなディスり方、余が何をしたと!?』

「黙れ、人にかぶれた人外め。一瞬でも恐怖して損したわっ!」


 大人しく逃げ帰っていれば良かったものを、こうも挑発されては沽券に関わる。

 せっかく手加減してやったのに、これはいよいよ教えてやらねばなるまい。

 そう考えた自称神様は不意に声を低くする。


『よかろう、ならば見せてやろう・・・・』


 安く見られたことに腹を立てた蛇は天に向かって顎を広げる。

 そして、ほんの少しだけ世界を改変した。


『うむ、ターゲットはアレで良い。見ていろ、硯梨と余を馬鹿にした人間っ!』


 口蓋に産まれるは光。

 正も邪も等しく滅ぼしかねない純粋な破壊の力が蓄えられていき、ついには力を解き放つ。

 男の産毛が逆立ち硯梨が期待の眼差しを浮かべて見守る中、空を貫くは光の柱。

 烈光は雲を霧散させ、太陽を上回る輝きで視界を塗り替えていた。


「な、何をした化け物! まさか・・・今の怪光線を街に!?」

「被害が来るようなことをするなら、ちゃんと合図してよ・・・」


 別の意味で憤る二人に辟易する月だが、確かに解説しなければ理解して貰えなさそうだと判断。

 仕方が無くヤレヤレと視点を眼下に動かす。


『人間、今の火力は理解できたか?』

「ああ、何だ今のビーム砲みたいのは! 何処を撃ったか答えろ!」

『荷電粒子砲で人工衛星を打ち落としてみました。何百年も暇だったので、色々勉強して覚えた改良版必殺技よ!』

「待て待て待て、何だって? 聞き間違えだよな? どこのSFだって感じの技名で衛星を破壊なんて・・はは」

『マジマジ、狙ったのは公式に存在しない軍事衛星風味だから無問題。変なの落としてBS見れなくなっても困るからのー』

「・・・」

『なぁ人間、そろそろ切り上げないか? お食事前に寄りたいところもあるのでな、これ以上手間をかけさせるなら殺すぞ☆』

「・・・さしあたって危険もないと判断する。強力だが凶悪ではないらしい異形よ、この場だけは引かせて貰う」

『すーずーり、デート行くぞー』

「聞けよ!」


 既に月の眼中には硯梨しか写って居らず、やりきれない気持ちで男は相棒を拾う。

 そして最後に状況を飲み込めていない様子の少女へと忠告した。


「娘、お前は・・・人間か?」

「人間以外に見えると言うなら、私は怒りますが」

「そ、そうか、では忠告しておこう。何者かを問うつもりはない。しかし、化け物の言葉を鵜呑みに信じるな。人は人としか解り合えない・・・それが真理なのだから」

「私は自分の目で見た物が真実だと思います。このへたれ蛇が友人になり得るのか、それもこれから見極めるつもりです」

「そうか・・・好きにしろ」


 頷きながらも自分の考えは曲げるつもりはない。誰の言葉であれ鵜呑みにしては同じだと硯梨は思うから。

 やさぐれた雰囲気の男を見送りながら黙考していると、上空より声が投げかけられる。


『さて、そろそろお出かけ準備』


 月は二人きりなったことを確認すると、やおら首を振り出していた。

 すると不思議なことに一降りするごとに体の色が透け、同時に体積が縮んでいく。

 気がつけば蛇の輪郭が人のソレへと変化。

 少女が不思議そうに見つめる中最終的に現れたのは、表情に締まりがない三枚目の20歳前後らしき青年だった。


「これで良し。レッツゴー遊びの国・・・・って、なにかの?」

「人に化けられなら、最初からそっちの姿で居てよ!?」

「えーとですね、インパクトって大事じゃないですか。ならばエンターテイメント性も大切じゃないかなーと」

「確かに驚きの連続だったけど・・・」

「なら大成功。お姫様を楽しませるプロローグとしてはまずまずと自画自賛するよ余は」


ああ、確かにこういうキャラだった、と少女は傍目には判らない身の硬直を解く。

 少しばかり個性的な外面に身構えてしまったが、化け物は化け物でも硯梨のよく知る友らしい。

 ならば見た目は二の次、内面さえ通じ合えるなら姿形は関係ない。


「あはは、ゲームと同じだね。今の台詞は前に聞いたような気がするよ」

「うむり」

「うん、君は私のよく知るあの騎士だ。心配するだけ無駄みたいで嬉しいな」

「余も同じ意見。これからも末永く頼むよ」

「こちらこそ」


 異常を異常とも思わぬ少女は、すっかり人にしか見えなくなった月と握手を交わす。

 それは信頼の証、初めて出会った月を受け入れるための儀式だ。


「よーしテンションアップ! この勢いのままフィーバー!」

「おー! と乗ってみたのはいいけど・・・どうやって移動するの? やっぱり瞬間移動とか、空をぎゅーん?」

「ふふふ、聞いて驚け。すみません、余は特殊移動手段を持っていません」

「・・・・」

「文明の利器にして省エネな感じでエコライフの市営バスがいいんじゃないかと」

「・・・使えない子だ」

「破壊と創造が本質の余は基本的にスローライフ。急がば回れがモットーです」

「そうなんだ。所で知ってる?次のバスまで後20分。コレを逃すと次は二時間後だよ?」

「あっはっは、レッツダッシュ!」

「無計画は駄目だ・・・・って、放置!?待ちなさいってば!」


 かくして少女は異形と出会い、波瀾万丈の毎日・・・その一歩を踏み出した。

 これが吉と出るか凶と出るか、それは誰にも判らぬ未来だった。

ご指摘、感想等があれば宜しくお願いいたします。

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