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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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8話

「報告します」


 ユイが膝まずき顔を見上げる。

 俺は、中央の木魂の前に置かれたベンチに腰掛けていた。


「続けてくれ」


「はい。町では4つの動きが見られます。

物資徴発。

神殿の祈祷師。

騎士団増員。

森の噂」


「続けて森では、二つの変化が見られます。

自然発生妖怪の挙動変化として、森外縁で停止。

外部からの侵入方向へ集まる傾向。

あとは若干、森の鼓動が速くなっている気がします」


「なるほどな。

だいぶ焦りがあるな。

兵糧はさほどもって来ないだろう。


 森での訓練も見たことがない。

 軍靴で歩行は困難。

 重騎兵と歩兵の組み合わせか」


 ……。



「三日以内」

 ユイがそれを聞きうなずいた。


「森は戦場ではない」

「森は試験場だ」


 ここで恐怖を持ち帰らせないと、次は町が戦場になる。

 だから、ここで終わらせる。


 ああ、今回は殺すことが目的ではない。

 選別することが目的だ。


 森の意思とやらを利用させてもらおうか。


 まずは、敵は何をしたいかだな。

 森の規模確認。

 中枢特定。

 主の存在確認。


 まあ、こんな所だろう。


 次に、こちらは何をさせたいか。

 引き込むことだな。

 そこで、“到達可能”と錯覚させる。

 退路を失わせる。

 そこで、恐怖を持ち帰らせる。


「ユイ、皆を集めてくれ」


「はい!」


 ……。


「知っての通り、前から偵察に来た王国の奴等がくる」


「帰すのは一人だけだ」


「合図が出たら開けろ。

残りは森が喰う」

「百鬼の糧にする」


 雪は冷静ながらも熱を帯びた目だ。

「何なりとお申し付けください。

冷房部も万全です」


 カワは大会に出るかのようだ。

「水泳部、優勝しちゃうよ?」


 凛は燃え上がる。

「あたいに任せな。喧嘩部上等」


 お前ら、部活じゃないんだが。

 まあ、いい。

「配置を伝える」


「ぬりかべの副官(玄)

東西北 完全封鎖しろ。

南側に幅三人の通路を作れ。

通路の奥に第二壁(可動式)だ」


「重要なのは、

壁は“閉じる”のではなく“現れる”ことだ」


「最初からあったのか分からない恐怖を植え付ける」


 同意をしたのか目をぴかぴかと点し光らせた。



「雪の副官(霧)

視界は完全に遮断するな。

距離感だけ狂わせろ。

足音の反響を増やせ。

人数確認を誤らせるんだ」

「足音が一つ多いことで誤認させるんだ」


「凛の副官(焔)

先頭は触るな。先陣切って奥まで誘導する。

中央3名を破壊しろ。

骨を折れ。

即死はさせるな。生かして苦しませろ」


 焔が静かに笑う。

「骨まで?」


 凛は腕を組んだまま口元を歪める。

「あたいは団長だけだ」



「カワの副官(泡)

森外周に深い水路をつくれ。

胸の高さまでのヤツだ。

流れは緩やかにしろ。

逃げる者だけを濡らすんだ」


「これは選別だ」

「ユイ

数の把握をしろ。

帰還者選定もしろ。

俺へリアルタイム報告だ」


「伝令はユイが行う」

「以上だ。質問はあるか?」


「頭、質問!」


「なんだ凛」


「あたいは、前線でなくてここで待機なのか? 結構体力はあるぞ?」


「お前は騎士団長と対峙する時の要だ。

そいつに対して全力で仕留めろ」


「あはは、分かり易くていいね。期待に答えるよ」


「他にあるか?」


「零さま! 質問っす」


「どうしたカワ」


「得意な方法でやっちゃっていいんだよね?」


「ああ、もちろんだ。

お前の持ち味で存分に味わってもらえ」


「うっす! やるっす!」


「他には?」

「いないなら、配置につけ。解散」


 侵入は5段階構造だ。

 さあ、見せてもらおうか。人の力を。


 解散後。


 森が静まる。

 地面の奥で、脈が打つ。

 一つ。

 二つ。

 三つ。


 ……。


 三十。


 森が、数えた。


 俺ではない。

 森だ。


 俺は目を閉じた。


「三十」


 ユイが即座に答える。


「はい。三十名、侵入を確認」


 地面の奥で、

 鼓動が三十、打つ。


 あれから数刻。


 兵士たちの集団が到着か。

 あぜんとしているが……


 兵士が叫ぶ。


「行ける。こっちだ」


「こっちはちょうど霧が薄い」

「一本道できちんと道があるぞ」


 兵士は叫ぶ。

「隊列確認!」


「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十――」


 沈黙。


「……十一?」


「馬鹿、十だろ」


 足音が一つ多い。


 だが姿は見えない。


「十六、十七、十八……」


 声が震えた。


「十九? ……二十?」


「隊長、三十のはずです」


「霧が動いている。気をつけろ」


「待て、木が近づいている気がする!」

「なんだ! ウワッ!」



 再び兵士が叫んだ。

「先頭! 退路が壁だ! 聞こえるか! 先頭」


「ダメだ霧が濃過ぎる。おーい聞こえるか!」


「なあ俺の前にいたう奴等どこいった?」


 兵士は小声で言う。

「なあ、なんで俺たち3人しかいないんだ?」


「背後に誰もいねぇ」


「おいおいどうなってんだよ! ここは」


「おい! あれっ!」

「か、かまえろー!」


「うわー!」

「ギャー!」

「助けてくれー!」


 これじゃもう選別は終わりだな。

「ユイあいつだけを逃せ、皆に伝えろ」


「はい」


 ぬりかべが壁化した箇所を開ける。


「はぁはぁはぁ。どうなってやがる」

「ヤバイ、絶対にここはヤバイ」

「あっ、光だ。あっちか」



「え? 今29って聞こえたような」

「いや、それどこじゃない帰らないと」


 森は追わない。



◇唯一の帰還兵


「報告! 報告であります!」


 兵士は急ぎ息せき切って騎士団長へ伝えた。


 騎士団長は椅子に座り微動だにしない。

 ただ、兵士の胸当てを指した。


「お前、その数字は何だ?」


 兵士は視線を落とす。


 胸当てに黒い指跡が五本。


 泥ではない。


 焼き付いた跡。


 並びが――


 二十九。


 兵士の喉が鳴る。


「森が……二十九、と」

「まさか」


「どうした?」


「森から逃げる時、声が……」


「何と言った」


 兵士は震える。


「……二十九」


「次は、お前だと」

「気のせいと思いましたが」


 騎士団長は言う。

「試された」

「第二陣は聖印持ちを入れる」

「戦争だ」


◇森の中央


「減ったね」


 誰の声だ?

 気配もない。

 俺は見渡すが誰もいなかった。


 表示は一瞬だった。

 ユイが言う。

「主。観測数は二十九」


「減ったな」


「はい。侵入者一名離脱。

ですが、主を“見ている”側の圧が強まっています」


「……俺が見られたか」


 森の外へ兵が出た瞬間、

 一つ、森から“外れた”。


 森は内部にいる数だけを刻む。


 三十ではない。

 二十九だ。


 残りは森の中だ。


 森の鼓動は、

 内部に残っている数だけを刻んでいる。


 森の鼓動が、わずかに速くなる。


 三十ではなく、

 二十九の鼓動。


 森は満ちていない。


 二十九。


 足りない。

「……なるほどな」


 森は喰らう。


 だが、それだけではない。


 選ぶ。


 俺は笑う。

「悪くない」


 森の鼓動が重なる。


「次は、何人“残る”?」

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