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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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4話

 水場ができたが――


 霜が水面を凍らせる。

 湿気が凍結し地面が割れる。

 水蒸気が爆ぜる。


 視界には警告するかのような文字が出る。

 

《妖怪領域:不安定》

《属性衝突》


 霜が水を殺し、水が霜を溶かす。

 均衡が取れていない。


 芯がねぇな。

 冷気と水と壁だけじゃ、前に出られねぇ。


 倒れた鬼を見る。

 妖怪ブックは変わらず、状況だけだ。

 淡々と書かれている。


《石化個体:鬼》

《戦闘特化》

《適応率:0》

《再記述可能》


 前に立つ奴が要る。

 殴られても笑って立てる奴だ。


 なら、描くか。

 俺が思う最高の鬼を。


 金髪ギャル。

 だが芯は折れねぇ目。

 喧嘩慣れした顔つき。

 美人だが、媚びない。


 俺的にはベストなんだが、

 また、世界の干渉がしつこく来る。


 今回はくどいな。

 世界が書き足そうとする。

 何度も何度もだ。


 角巨大化。

 体岩化。

 狂暴化属性。

 理性削除。


 鬼の顔が歪む。

 暴走寸前。


 理性が消えた鬼が、一瞬だけ見えた。


 笑っていた。


 ――それは、違う。


 おいおい……理性消す気か。

 強ぇだけの駒はいらねぇんだよ。


 世界の干渉を削る。

 角は残す。

 理性は“姿として整える”。

 意思のない駒は、百鬼じゃねぇ。


 俺は能力は書かない。

 というより、書かない方がいい気がしている。

 余計な線は引かねぇ。

 強さは、出たとこ勝負だ。


 そんなわけで

 ただ“立てる形”を描く。


 氷と水の間から――


 火。


 霜が焼ける。

 水が蒸発する。

 蒸気の中に赤い火花。

 視界にまたあらわれやがる。


《存在再構築》

 膝が、一瞬だけ抜ける。


 ……立て。


 まだ倒れるな。


 これ、回数重ねたらヤバいな。


 蒸気の中から、影が一つ立ち上がる。

 炎の粉が弾け、赤い角が先に浮かび上がった。

 その下に、金髪の女が現れる。


 背中まである艶やかな金髪。

 切れ長の瞳。

 赤い中型角。

 改造和装にさらし、帯。

 軽量の巨大金棒。

 立っているだけで、前衛と分かる。


 鬼、立つ。

 周囲を一瞥。


 そして膝をつく。

かしら


 地面に額が触れるほど、深く頭を下げる。


 ブック仕様で従属は確定。

 だが声には誇りがある。


「命令を」


 ここで“従順だが弱くない”ってヤツだな。


 どうして都合よく魔獣が出るんだ?

 世界は俺たちがよほど気に入らないらしい。


 強敵出現。

 今までより格上とみた。


 鬼が前に出る。

「前衛、任せる」


 鬼は、笑う。

「任された」


 魔獣は2メートルを超えている。


 二足歩行で立つ姿は、人型の魔獣だ。

 顔は、鶏を模している。

 身体は筋骨隆々な人だった。


 魔獣は尻尾で地面を粉砕する。

 太もも以上に太く強力な一撃。


 鬼は真正面からぶちあたる。

 金棒で水平に撃ちつける。


 衝撃が地面を抉る。

 骨が軋む音が響く。


 掴み、投げ、踏み込みで焼き切る。

 巨体が揺れた。


 カワは興奮。

 雪は冷静に分析。


 さらに上位個体が出現。

 身体がさらに一回り大きい。

 凛が押される。

 地面が抉れ、炎が散る。


「……分が悪いな」


 俺は短く言う。

「退け、凛」


 凛は笑った。

「嫌だ」


 金棒を地面に突き立てる。

「あたいは、お頭の前に立つ」


 一瞬だけ視線が合う。

 炎が揺れる。

 俺は静かに言う。

「命令だ」


 凛の歯が鳴る。

 数拍。

 そして――

「……ちっ」


 凛は一歩退く。

 その瞬間、領域が震えた。


 一歩、前に出る。

 領域が揺れる。

 水面が震え、

 霜が砕け、

 火が跳ねる。


《領域強化:第2段階》


「カッ!」


 音じゃない。

 領域が軋んだ。


 水面が逆流し、

 霜が砕け、

 凛の炎が一瞬だけ強く燃え上がる。


 魔獣だけが“外側”に押し出される。


 この森は、もう俺たちの側だ。

 世界が、一瞬だけ折れた。


 魔獣の瞳が見開く。

 筋肉が軋む。

 だが――動かない。


 凛の金棒が叩き込まれる。


 鬼の一撃が通る。


 敵頭部粉砕。

 そのまま大きな音を立て、仰向けに倒れた。


「……あたいより、上だ」

 

 鬼の視線が、わずかに変わる。

 ……別に、そういうつもりじゃねぇ。


 ……くそ、もう第2段階かよ。


 喉が焼ける。

 視界の端が、黒く滲んだ。

 指先の感覚が、また一段薄れる。


 戦闘後。


 鬼は、俺を見る。

 真顔だ。


 血も拭かねぇ。


 数秒、視線を外さない。


 そして――

「頭。

あたいを嫁にしてくれ」


 場が凍る。

 おいおい何言っちゃってんだ。


 カワは当然驚き声を上げた。

「はぁ!?」


 雪は不機嫌そうに言う。

「……騒がしい」


 鬼は続ける。


「強ぇ血は残す。

群れは頂点で決まる。

頂点が増えれば、百鬼は強くなる。

……それに。

あたいは、あんたがいい。」


 胸がざわつく。

 ……違う。


 勘違いするな。

 恋じゃねぇ。

 鬼の理屈だ。


 また勘違いして、

 残酷な思いは二度としたくねぇ。


 そう言い聞かせないといけないのは、

 なぜだ。


 俺はまずゼロ回答だ。

「気持ちは分かった。だが今は戦だ。今は待て」


 鬼の目を真っ直ぐ見て言う。


 鬼は、不思議そうな顔つきだ。

「……順番?」


「まずは拠点だ」


 鬼は、数秒俺を見つめる。

「……なら待つ」


 これは鬼の本能か。


「なあ、凛」


「なんにょ、お頭急に」


 舌を噛んだな。

 耳まで赤いじゃねぇか。

 まあ、いい。


「凛、よくやった。見事な戦いぶりだった」


「あ、あたりめぇだよ。あたいはお頭の為に……」

「ぜ、ぜんりょ……くで。がんばる」


「期待している」


「ああ、期待してくれ」


 カワは素っ頓狂な声を上げた。

「え、ちょ、マジで嫁っすか!?」


 凛は平然としていた。

「当然だろ」


 雪は俺をチラチラ見る。

「……順番制なのですね」


 凛は聞かれてもいないのに答えた。

「当然だろ」


 やり取りを眺めていると、

 いつもの表示が視界に現れた。


《寒冷・湿潤・火》


 霜も、水も、炎も――ぶつからずに回り始めた。

 さっきまでの歪みが、嘘みたいに消えている。


 森が落ち着く。


 霜は制御される。

 水は循環する。

 火は芯になる。

 骨格ができたな。


 これで――


 前に立つ奴ができた。

 環境も回る。

 壁もある。


 ようやく“戦える形”になった。


 凛は俺の隣に立つ。

「あたいは頭の前に立つ」


 頼もしいヤツだ。

 前は、こいつで埋まった。


 ……でも、これじゃ足りねぇ。


 雪とカワとぬりかべ。

 それぞれが動くなら、支える手が要る。


 俺が増やすんじゃない。

 増えないと、回らない。


 力は一点に集めるもんじゃねぇ。

 回すもんだ。


 頭が戦ってるようじゃ、

 軍団とは言えねぇ。


 妖怪ブックの端が、勝手にめくれた。

 白紙に、薄い文字だけが滲む。


《部隊編成:未成立》

《下位個体:必要》


「……だよな」


 俺はページを閉じた。

 まずは、崩れない形を作る。


 強い奴が並んでるだけじゃだめだ。

 統率がなけりゃ、いずれ崩れる。


「個じゃなく、群にする」


 そんでこの森を、百鬼の城にする。


 世界を侵す前に、足場を固める。

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