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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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35話

 黒雷と聖光の衝突。


 巨大爆心。

 森が抉れる。


 遅れて、

 空気が押し戻される。


 圧が、波のように広がる。


 木々が軋む。

 

 地面がうねる。


 音が遅れて、

 何重にも重なって届く。


 ……一度じゃない。


 衝突の余波が、

 何度も反響している。


 空間が、

 まだ安定していない。


 余韻が、

 現象として残っている。


 これが――


 さっきの一撃の残りカスかよ。


 手応えは確かにあった。

 だが

 

 煙がゆっくり晴れる。


 そこに俺以外のもう一つの影。

 白いやつ。


 ヤツも立っている。


 崩れていない。


 姿勢が、

 変わらない。


 呼吸も、

 乱れていない。


 肩の傷だけが、

 戦闘の証だ。


 ……軽すぎる。


 こっちは、

 削れている。


 あいつは、

 確認しただけ。


 それだけで、

 この差かよ。


 俺の犬神鎧は、ひび割れ始めた。


 白の肩に、黒い呪印。

 血が一筋流れている。


 静寂。

 何もかもが、息を潜めすぎだろ。

 お前らは傍観者だからな。


 霧が戻り始める。

 俺と奴の間に風が横切る。


 白が肩を見る。

 黒印。


 消えない。

 白は言う。

「……主として未熟」


 少しの間。

「だが」

「柱を傷つけた」


 白は静かに言う。

「認定する」

「七を」

「主と認めよう」


 軽い言葉だ。


 だが、

 空気が変わる。


 夜域が、

 わずかに揺れる。


 拒絶でもない。


 歓迎でもない。


 ただ、

 “認識された”。


 世界の一部として。


 ……気に入らねぇ。


 だが、

 意味はある。


 あいつの中で、

 俺は、

 “対象”になった。


 夜域の空気が変わる。


 いやいや、お前に認められる必要はねえよ。

 俺は俺だし、夜域は俺たち妖怪の生存圏だ。

 お前が土足で入り込んできたんだろうが。


 俺は何も言わない。

 息が荒い。


 犬神の影が揺れる。


 やがて言う。

「……まだだ」

「勝ってねぇ」


 白

 静かに答える。

「当然だ」


 少しの間。

「柱は」

「均衡の一部」


 そして続ける。

「だが」

「九が動けば」


 一瞬、

 空気が冷える。


 今までとは違う。


 質が違う。


 ……九。


 七の上。


 災。


 その言葉だけで、

 夜域の霧がわずかに揺れる。


 感じている。


 俺だけじゃない。


 森そのものが、

 反応している。


 ……来るのか。


 もっと上が。


 霧が揺れる。

「我らも動く」


 白の体。

 光に溶ける。


 聖印が消える。

 霧が閉じる。


 白、消失。


 すぐには動けない。


 時間が、

 一瞬止まったみたいだ。


 風も、


 霧も、


 音も、


 戻ってこない。


 戦いが終わったのに、

 終わった実感がない。


 ……いや、

 終わっていない。


 ただ、

 一区切りついただけだ。


 そう思った瞬間、

 遅れて、

 世界が動き出した。


 勝手に来て、また勝手に消えやがった。

 ふらっと訪れた食い逃げと大して変わらねえ。


 そうだ。

 奴は食い逃げ犯だ。


 俺、立ったまま。

 しかし

 犬神の鎧。


 崩れる。

 黒い影。

 離れる。


 急に軽くなる。


 支えが消える。


 力も、

 重さも、

 全部抜ける。


 ……空っぽだ。


 怖ぇな。


 正直、

 初めて思った。


 このまま続けてたら、

 戻れなかったかもしれねぇ。


 勝つとか負けるとか、

 そんな話じゃねぇ。


 “俺が残るかどうか”


 そこまで来ていた。

 ……ギリギリだったな。


 さっきまであったものが、

 全部消えている。


 残っているのは、

 自分だけ。


 いや、

 削れた自分だけだ。


 俺はたてずに膝をつく。

 地面に手。


 呼吸は早く荒い。

 ヤバイな。

 ちと、無理しすぎたか。


 どれぐらい経ったのか。

 感覚的には大してないと思う頃――


 雪たちが駆け寄る。


 遅れて見える。


 動きが、

 遅い。


 声が、

 遠い。


 距離がおかしい。


 近いはずなのに、

 遠い。


 ……俺がズレている。


 世界と、

 噛み合っていない。


 俺の肩を支える。

 凛たちも来る。


 俺は、小さく言う。

「……勝ってねぇな」


 届いた。


 だが、

 届いただけだ。


 倒していない。

 止めてもいない。


 あいつは、

 まだ上にいる。


 ……次は、

 もっと厳しい。


 だが、

 やるしかねぇ。


 あいつは来る。

 その上も来る。

 逃げ場はない。


 なら、

 迎え撃つだけだ。


 削れるなら、

 削れ。


 それでも、

 守る。


 ここは、

 俺たちの場所だ。


 雪

 静かに答える。

「負けてもいません」


 まあ、そうだな。

 笑うしかねえな。

 少しだけ。


 しばらくしてから、

 夜域の霧が戻る。


 森が静かになる。


 遠くで

 百鬼がざわめく。


 夜域は

 まだ立っている。


 霧が戻る。

 ゆっくりと。

 元の形へ。


 だが、

 完全じゃない。


 一部が歪んだまま、

 残っている。


 戦いの痕が、

 消えていない。


 ……それでも、

 崩れていない。


 持ちこたえた。


 俺たちは、

 まだ、

 ここにいる。


 ここは、

 ただの森じゃねぇ。

 ただの隠れ家でもねぇ。


 逃げ場でもない。


 ……残った場所だ。


 守った場所だ。


 俺たちが、

 無理やり成立させた場所だ。


 だから、

 ここはもう、

 “領域”なんかじゃねぇ。


 国だ。


 未完成で、

 歪で、

 いつ崩れるか分からねぇ。


 それでも、

 確かにある。


 俺たちの場所だ。


 ……なら、

 やることは一つだ。


 守る。


 広げる。


 成立させる。


 誰に何を言われようが、

 関係ねぇ。


 ここは、

 俺たちの国だ。




◇まだ誰も知らない場所でのこと



 そこは、深淵。


 闇。


 巨大な鎖。


 一本。


 静かすぎる。


 音が、

 吸われている。


 鎖が動くたびに、

 空間が軋む。


 重さが違う。

 ただの拘束じゃない。

 封じている。

 抑えている。


 何かを、

 無理やり留めている。


 ゆっくり。

 外れる。


 音。


 ガシャン


 低い声。

「均衡が動いた」


 闇の奥。


 何かが

 目を開く。


 光がない。


 だが、

 見えている。


 暗闇の中で、

 確かに、

 何かが動く。


 それだけで、

 空気が変わる。


 ……これは、

 さっきの白とは、

 別格だ。



 第一部 完

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