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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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32話

 夜域拠点。

 まだ俺が白いヤツと対峙するほんの少し前。


 霧。

 

 白がこちらに向かう。


 百目の視界を


 凛

 雪

 焔

 カワ


 が水盤越しに見ている。


 俺は小瓶を取り出す。

 

 竜油だ。

 

 凛

「またそれか」


 呆れというより、

 諦めに近い。


 俺は効果を考えたら是が非でもない。


「今回は」


 少し笑う。


「全部だ」


 腕

 首

 足

 胸

 油を塗る。

 皮膚が赤くなる。

 血管が浮く。


 雪は止めようとするが手をひっこめた。

「危険です」


 俺はうなずく。

「だからだ」


 それがほんの少し前の事だ。


 そして今。

 塗りたくった身体で対峙している。


 踏み込む。


 瞬間


 白の足元。

 聖印展開。


 巨大な紫色の円環。


 光。


 俺


 止まる。


 足が動かない。


「……っ」


「動けねぇ?」


 クソッ。

 とりもちかよ。


 白は静かに言う。

「聖域」


 光が広がる。

 空間固定。


 重い。


 押さえつけられているんじゃない。

 “止められている”。

 時間ごと固定されているみたいだ。


 筋肉は動こうとしている。


 それなのに、

 結果だけが許されない。


 出力はある。

 だが、

 到達しない。


 ……これが、


 聖域か。


 霧

 風

 地面


 すべて


 制御


 俺の速度は

 完全停止だ。


 完全に止まっているはずなのに、

 感覚だけは進んでいる。


 一歩、踏み出した“つもり”になる。


 だが、

 景色が変わらない。

 

 ズレる。


 意識と現実が噛み合わない。

 何度も同じ動きをしている気がする。


 ……これ、


 “止められてる”んじゃない。

 “許されてない”んだ。


 俺は、歯を食いしばる。

 犬神をまだ呼んでいない。

 やれることはある。


 第4妖階はすでに使っている。


 そして今。

 第5妖階の妖領同調だ。


 呪印展開。


 黒い紋様。


 地面が侵食。


 夜域が反応。

 

 しかし

 聖印が押し返す。


 弾かれたんじゃない。

 拒否された。


 侵食した黒が、

 触れた瞬間に“なかったこと”にされる。


 存在ごと消される。

 押し返される感覚すらない。


 ただ、

 成立しない。


 ……ルールが違う。


 同じ領域のはずなのに、

 土俵にすら上がれていない。


 黒


 vs


 白


 この妖領同調ですら敵わないか。


 白は言う。


「主とは」


 少しの間。


「領域を制する者ではない」


 霧が揺れる。


「世界を背負う者だ」


 俺はイラつく。


「説教か?」


 白


「事実だ」


 俺は、思わず笑う。


「じゃあ」


「これはどうだ」


 拳を握る。


 黒い霧。


 第6妖階で抑え込む。

 俺は、低く言う。


「妖呪王権」


 地面


 黒い領域


 展開。


 聖印が黒く染まる。

 塗り替えているんじゃない。

 食っている。


 聖印の光を、

 黒が侵食していく。


 抵抗がある。

 だが、

 止まらない。


 噛みつくように、

 奪い取る。


 これは支配じゃない。

 略奪だ。


 奪って、

 自分のものにする。


 ……気持ち悪い力だな。


 白


 初めて目を細める。


 驚きじゃない。

 確認だ。


 想定の範囲を、

 少しだけ越えた。


 それだけ。


 焦りも、

 警戒もない。


 ……まだ、

 上にいる。


 こっちは全力で、

 やっと触れた程度。


 あいつは、

 まだ測っている。


「……妖呪」


 聖印


 呪いへ反転。


 聖域の力が

 俺の力になる。


 領域


 拡張。


 俺、

 踏み込む。


 身体能力


 爆発。


 竜油

 妖呪

 夜域

 三重強化。


 噛み合っていない。

 竜油が暴れる。

 妖呪が侵す。

 夜域が押し上げる。


 全部が、

 勝手に主張している。


 一つにまとまっていない。

 無理やり束ねているだけだ。


 ……これ、

 長く持たねぇな。


 出力が上がる。


 だが、

 制御が落ちる。


 力が増えているのに、

 扱えていない。


 握れていない。


 漏れている。


 このまま続ければ、

 勝つ前に壊れる。


 ……それでも、


 止める理由がねぇ。


 俺は

 音と世界を置き去りにし駆けた。


 白の前。

 一瞬で手に届く距離。


 拳。

 空を穿つ。


 衝撃波。


 森が揺れる。


 視界の端で

 月光も一瞬揺れた。


 そんな気がした。


 白


 指一本。

 拳が止まる。


 触れている。


 確かに、当たっている。


 だが――


 届いていない。

 手応えが、ない。


 肉を打った感触も、

 骨を砕く感触も、

 何も、返ってこない。


 空を殴った時とも違う。


 そこに“ある”のに、

 存在していない。


 違う。


 俺の拳が、

 “成立していない”。


 衝撃が、通らないんじゃない。


 最初から、

 通るという結果が消されている。


 因果ごと、切り落とされている。

「……は?」


 思わず声が漏れる。


 理屈が、噛み合わない。

 俺の全力だ。


 竜油も、妖呪も、夜域も、

 全部乗せた一撃だ。


 それを――

 指一本で止める?


 違う。


 止めていない。

 “成立させていない”。


 白は、わずかに指を傾ける。


 それだけで、

 拳の軌道がズレる。


 俺の力が、

 逃げる。

 散る。

 拡散する。


 制御を奪われたわけじゃない。


 最初から、

 制御の概念が通っていない。


「……クソが」


 歯を噛み締める。


 この差は、

 力でも技術でもない。


 衝撃波が森を裂く。


 しかし


 白


 わずかに後退。

 初めてだ。


 白

「なるほど」


「七」


 少し間。


「主の器ではある」


 俺は息が荒い。

「まだやるか?」


 白は静かだ。


「測定は」


「まだ終わっていない」


 妖呪領域が揺れる。


 俺の体。

 現れた異変は能力だけじゃねぇ。

 

 血管が膨張しやがる。

 皮膚も黒く染まる。


 ……これ以上やったら、

 たぶん、戻れねぇ。


 俺は内心、少し焦りがある。

 ……まずいな。


 これが反動ってヤツか。


 感覚がずれる。


 熱いのに、

 冷たい。


 痛いのに、

 鈍い。


 境界が曖昧になる。


 どこまでが自分で、

 どこからが力だ。


 分からなくなる。


 ……削れてるな。


 確実に。


 俺の背後。

 影が身体をよじ登る。


 犬神の影。

 ゆっくりと目を開く。


 視線が重なる。


 俺の中を、

 覗かれている感覚。


 違う。


 覗いているんじゃない。

 “混ざろうとしている”。

 境界が薄い。


 押し込めば、

 飲まれる。


 ……線が、

 消えかけている。


 声。

「主か」

「器か」


 俺は笑っちまう。

 そんな事はな――


「どっちでもいい」

「勝てばな」

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