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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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31話

 夜。


 夜域外縁。


 霧。


 いつもの黒い霧。

 だが


 動いていない。

 なんだ?

 大抵、揺れ動いているんだけどな。


 雪も何か感じとったようだ。


 雪が立ち止まる。

「……おかしいわ」


 凛

「何がだ」


 雪

「夜域の霧が」


「退いていません」


 う~ん。

 雪の感覚は退くというのか。

 俺的にはちょっと違う。


 停滞していると見ているんだが。


 このままここにいてもダメだ。

 埒が明かない。

 なので、地下拠点の作戦室まで戻った。


 百目の水盤。

 音はわからないが、こいつが一番だ。

 全方位見れるしな。


 なんも変わらん。

 いつも映る風景だ。


 だが、

 夜域外縁。

 

 白?

 

 始めは繭のようにぼんやり白かった。

 でも、動いた。

 人か?


 黒い霧の中。


 白い影が歩いている。

 霧が意思を持ったか?


 違う。

 霧が従っているんじゃない。

 “関わらないようにしている”。


 触れれば壊れる。

 近づけば崩れる。


 そんなものに、

 わざわざ干渉しない。


 距離を取っている。

 ……逃げているのか?

 この霧が?


 自然に、左右に割れる。

 おいおい、海が割れるが如くかよ。

 どんだけの聖人だ?


 霧は押されない。

 

 弾かれない。


 それでも、


 道ができる。


 存在するだけで、

 周囲の“選択”が変わる。


 ……こういうのを、

 支配って言うのか。


水盤を見つめる雪は、小さく言う。

「……格が違う」


 ああ、そういや何か言ってたな。

 なんだっけ。

 たしか俺を未熟と言っていたな。


 うん。そこは否定しない。

 マジで正しい。ド正解。

 ついでにハッタリもかます。

 それは見抜けなかったようだな。


 どうでもいいし、

 そんな正直な言葉をもらってもな。

 俺は、なんも何も減らないんだ。

 なので気にならない。


 だがな。

 本当の意味での本物だと思ったよ。

 格は俺ですら違うと感じられる。

 ヤバイな、何かこれ。


 水盤に映るのは事実だけだ。

 音が聞こえなくても、そこは無音地帯だと思えた。


 その迫力が目の前にある。

 戦場は知らないが、見聞きした限りの空気感。

 それにどこか似ている。


 外縁。

 白衣の人物。


 変わらず、ゆっくり歩く。

 牛鬼たちが後退。


 鬼たちも

 構える。


 だが


 近づけない。


 拠点。

 

 こうなると俺の出番だな。

 幸いなことに犬神がいる。

 竜油もある。


 あとビビるという感覚は俺には無い。

 度胸もあるな。

 他に足りない物はたくさんあるが今じゃねぇ。


 なんだよ凛。

 そんな切ない目で見るなよ。

 俺が死にに行くみたいじゃねぇか。


 凛はいつになく、力なく言う。

「行くな」


 俺は立つ。

「これは俺の格だ」


「王の仕事だろ」


 凛は目を伏せた。

「……」


 雪は止めない。

 ただ言う。

「お気をつけて」


 命令じゃない。

 頼みでもない。

 止める力もない。


 ただ、

 本音だけが出ている。

 それが分かる。


 だから、

 少しだけ足が止まりそうになる。


 ……だが、


 夜域外縁。

 地上は、いつになく、ひりつく。


 霧がただよう。


 月は変わらず照らす。


 俺すべてを知ったような顔して

 まるで何も知らないでいる。


 だから、相手は深読みしてツボにはまる。

 ああ、いつもの手だ。


 俺は空っぽなんだよ。

 どうせな。


 歩いてくる。


 白。

 ほんとに人か?

 人の形をした何かのようにすら思える。

 それだけ存在が希薄だ。


 これほど目の前では目立ついのにな。

 霧ですら避ける。

 それなのに不思議なもんだ。


 足が止まる。


 白と黒。

 ヤツと俺。


 距離はまだある。


 白衣。


 聖印が皮膚に浮かぶ。

 ここからでも分かるほどだ。


 光る。


 名乗らない。


 表情は薄い。

 人間に見える。


 だが

 

 違う。


 白いヤツは俺を見る。

 静かに言う。


「七か」


 少し間。

 

「主を名乗るには」

「未熟」


 俺は思わず笑う。

 何だこいつは。

 同じセリフばかりいいやがる。


「試しに来たか」


 白は首を少し傾ける。


「均衡を測りに来た」


 話が通じている気がしない。

 言葉は同じだ。

 意味も分かる。


 だが――


 前提が違う。

 こっちは戦いだと思っている。


 あっちは、

 ただの確認だ。


 ……試されている。


 白。

 近い。

 まだ距離はあるはずだ。


 なのに、

 感覚だけが先に触れている。


 皮膚じゃない。

 もっと内側。

 骨の奥が、ざわつく。


 ……なんだこれ。


 視線が合った瞬間から、

 “測られている”。


 強さじゃない。

 深さでもない。

 存在そのものを、

 削り取るみたいに。


 立っているだけで、

 均衡が崩れる。

 夜域が、わずかに揺れる。

 霧が乱れない。


 だが、

 “揃わなくなっている”。

 鬼たちが動かない理由が分かる。


 威圧じゃない。

 恐怖でもない。

 もっと単純だ。

 ――踏み込めない。


 一歩。

 その一歩が、成立しない。


 距離はある。


 だが、


 “間”がない。


 踏み込む前に、

 すでにそこにいる。


 おかしい。

 時間の流れが、噛み合っていない。


 俺は、思わず息を吐く。

「……なるほどな」


 これが、

 “上”か。


 勝てるかどうかじゃない。

 届くかどうかでもない。


 そもそも、

 同じ場所に立てていない。


 それでも――

 関係ねぇ。


 ここは、俺の領域だ。


 理屈が通らねぇなら、

 通るように塗り替えるだけだ。


 沈黙。


 風。


 霧。


 白

「王を名乗るなら」

「力を示せ」


 ああ、いいさ。

 見せてやろう。


 犬神の影。

「いいぜ」

「雑魚とは違う」

「俺は主だ」


 夜域。


 霧。


 鬼。


 妖怪。


 全員が息を止めてるようだ。


 だが、ここまでだ。

 それ以上俺には周りが見えない。


 構える。


 距離が曖昧になる。

 遠いはずなのに、

 近い。


 まだ届かないはずなのに、

 すでに触れている感覚がある。


 視界が揺れる。

 空間が歪む。


 ……始まる前から、

 始まっている。


 白。

 ヤツは、動かない。


 次の瞬間。

 全身の筋肉が脈動した。


 無表情だ。

 だが、わずかに口角を上げたのは

 俺は見た。


 戦闘――開始。


 先に動いたのがどちらか、

 もう分からなかった。



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