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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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30話

 夜。


 月が静かに待つ。


 ああ、この感覚は、

 なんだか久しぶりな気がする。


 いつぶりだ?


 今日の夜域の中心は、熱気だ。

 活気に満ちている。

 妖怪たちが整列をし待機中だ。


 鬼。

 牛鬼

 自然妖怪

 小妖怪


 ぬりかべが道を作る。

 焔が灯火。

 カワが水路。

 雪が配置を整える。


 凛が腕を組みニカッと笑う。

「準備できた」


 なんでだろうな。

 この行進にワクワク感が止まらない。

 

 ようやくここまでこれたんだ。

 誰一人として欠けることなく。


 ああ、そういや頭領は欠けっぱなしだな。

 どうすっか。

 本体がこっちに来てねぇんだよな。


 この場合、俺が描いたらなんかヤバイ気がする。

 元の世界からひっぱっちまうのか?

 それとも別人か?


 めちゃ美人なんだよな。あの人は。

 油断していると、香りだけで大きくなっちまう。

 あぶねーあぶねー。


 まあ、あれだ。召喚した後、

 聞きたくねぇけど……。

 あの事件を聞けばすぐにわかるだろ。


 アレはわざとじゃねぇ。

 気が付いたら目の前にあったから

 思わずしゃぶりついた。

 それだけだ。


 まあ、今はどうでもいいか。


 凛が大きく息を吸う。

「進め!」


 太鼓のような足音。


 森が揺れる。


 妖怪の行進。

 影

 炎

 霧

 牙


 まさに


 百鬼夜行だ。


 整いすぎている。

 乱れがない。


 だが、それが逆に不気味だ。

 普通は崩れる。

 叫びが混ざる。

 欲が出る。


 だが――


 ない。


 全員が同じ方向を見ている。

 同じ速度で進んでいる。

 一つの意思みたいに、

 揃っている。


 ……俺か?


 俺が、

 これを作っているのか。


 いや――


 もう違う。


 これは、

 “勝手に回り始めている”。


 中央に俺。


 犬神の影。

 夜域全体を見渡す。


「ここは俺の王域だ」


 小さく笑っちまう。


 その時。


 空が裂けた。

 黒い歪み。


 音が消える。

 虫も、風も、

 全部止まる。

 時間が遅くなる。


 いや、

 止められている。


 呼吸が浅くなる。

 体が、勝手に構える。

 理屈じゃない。


 本能が、

 “来るな”と告げている。


 妖怪たちが止まる。


 凛が身構える。

「……来たか」


 雪は冷静に状況を見る。

「空間干渉」


 裂け目。


 白い影。


 空中。

 腕を組む。


 白衣。

 静かな視線。


 白いヤツは。

 俺を見る。


 一言。


「七か」


 少し間。


「未熟だな」


 会話になっていない。

 こっちを見ているのに、

 見ていない。


 評価しているのに、

 興味がない。


 ……なんだこれ。


 人と話している感じがしねぇ。

 基準が違う。

 前提が違う。

 同じ場所に立っていない。


 何言ってんだコイツは。

 初めてみるような言い方をするな。


 なんだ? もう忘れたのか?

 奇妙なヤツだ。

 

 ああいう片寄が高そうヤツは、

 理解する気がないのか、それとも——


 俺は思わず笑う。

「出前は頼んでいねぇぞ?」


 白いヤツ

 表情変わらず。


「いずれ」


「試す」


 ヤツの視線が俺の視線と交差する。

 空気が凍るほど温度が下がった気がした。


 違う。

 この一貫性のなさ。

 何かが可笑しい。

 デジャブか?


 白は背を向ける。

 空間が閉じる。


 裂け目は、消える。


 妖怪たちは、ざわめく。


 しばらく行進した後

 俺は拠点に戻る。


 製作中の建物の屋根の上。


 月をなんとなく眺めていた。

 まあ、うさぎなんぞいるわけもなく。

 単にぼ〜っとしてた。


 その時。

 背後から。


 声。


「七が出たと聞いて」


 何ッ。

 振り向く。


 女性。


 長い黒髪に角。

 赤い目。


 笑う口角に薄っすら牙が見える。


 翼を持つ。


 サキュバスなのか?

 夏でもねぇのにその薄着じゃ目線が辛いぜ?


 サキュバスは笑う。


「面白い男ね」


 いやいや、俺的に全然面白くない状況だ。

 だってよ。それ生殺しだぜ?


 なあ、お姉さん。

 それわざとだよね?

 ちょっと困るんだが。


 まあ、一応聞くか。

 そんな雰囲気全然ないけど。

「敵か?」


 サキュバス

「今日は違う」

「戦わない」


 俺は思わずため息をついちまった。

「なあ、身体に溺れさせる戦いとそれ以外とどっちなんだ?」


「あなた最高。でもそうね溺れさせるのが9割かしら?」


「なんだよその一割」


「お姉さんといいことしたら、教えて上げる」


 近づく。

 耳元。

 吐息が、かかる。


「次は戦場ね」


 一瞬だけ、間。


「それとも――」


 唇が、ほんの少しだけ近づく。


 触れない。


「別の意味で、先に堕ちる?」


 ここすきでしょ?


 スカートの裾が、ゆっくりと持ち上がる。

「今、あなたの視線……固定しているの」


 逃げられない。

 逸らせない。


「だから――見てもいいのよ?」


 俺は、いつの間にかしゃがんで見上げていた。


「見たい」

「あっ!」


 何を言ってんだ俺は。


「ふふふ。いいわ。こういうの好きなのね」


 指先が、顎に触れかける。

 触れない。


「また見せに来てあげる」


 その声だけが残る。

 気づいた時には、もういない。


 消える。


 座ったまま。

 呟く。

「……気配」

「全く読めなかった」


 遅れて気づく。

 何も残っていない。

 匂いも、

 気配も、

 余韻すらない。


 来たはずなのに、

 痕跡がない。


 ……消えたんじゃない。


 最初から、

 “ここにいなかった”みたいだ。


 あの白より、

 よっぽど分からねぇ。

 

 マジでヤバイぞあの女。

 白は存在感を露わにするが

 こいつはとんでもねぇ。


 いきなり首筋かかれるぜ。

 なあ、俺そんな強者じゃねーぞー。


 心の中で叫んでみた。



◇別の場所で。


 暗闇。

 深い穴。

 

 そこには光がほとんど見えない。

 金属のこすれる音がジャラリと鳴る。


 黒い鎖。

 さび一つない。


 繋がれるのは、巨大な何か。


 声は低い。


「主が」


「現れたか」


 鎖が揺れる。


 重い音。


 だが、

 それだけで分かる。


 抑え込んでいる。

 閉じ込めている。


 それでも――


 止まっていない。

 中で、

 何かが動いている。



◇夜域。


 月。

 夜域。

 百鬼夜行の列。


 俺は皆の行進する姿を屋根から眺めていた。


 遠くへ進む。


 遠ざかる背中。

 揃った足音。

 乱れない列。


 ……綺麗すぎる。


 俺は、ふと気づく。

 これは“行進”じゃない。

 “進軍”だ。


 誰も言っていない。

 命令もしていない。

 

 それでも、

 同じ方向に進んでいる。


 俺が作ったのか?


 違う。


 もう、俺だけのものじゃねぇ。

 夜域が、

 勝手に“次”へ行こうとしている。


 白いヤツ。

 それとあの女。


 全部、こっちに向かってくる。

 だったら――

 受けるしかねぇ。


 逃げる気は、最初からない。

 ここは俺の場所だ。

 奪わせねぇ。

 誰にも。


 俺は小さく息を吐く。

「……来るなら来い」


 月は何も答えない。

 ただ、

 静かに照らしている。


 その下で、

 百鬼夜行は――


 止まらない。

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