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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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16話

 俺たちは勝ったと言えるのか?

 いや、違うな。

 削られた。

 正体を見られた。


 もうこれで、町を自由には歩けない。

 ああ、なんてこった。


 俺は何も言わず頭を抱えた。


 雪は悲しそうな目で俺を見る。

「零さま」


 カワもどこか励ましてくれる。

「零さま、きっと大丈夫」


 凛は真剣に俺を見る。

「あたいのせいでお頭が」


 それをみた周りの者は悲痛な目をしやがる。


 いや、違うんだ。


 俺は肉を食いたいだけなんだ。

 さっきの戦いでどうこうじゃない。


 顔を見られたことなんだ。


 勝手に誤解しないでくれと、言いたいが。

 やめとこう。


 俺まだ、あそこの串焼き肉食いてぇんだが。


 あと得体の知れない青紫色の甘い飴玉も欲しい。

 甘いのは大事なんだよな。

 チョコが無いから恋しい。


 それにしたって俺どうするんだ。

 これじゃ、虚勢も見栄もハッタリも通じない。


 ……このままじゃ、また削られるな。

 守るだけじゃ足りねぇ。

 来るたびに、こっちが削られる。


 なんとか凛は守れたが、

 逢魔が時は扱いが難しい。

 

 なんというか、アレを使うと明確にわかる。

 

 精神がガリガリ削られる感じがする。

 めちゃくちゃ疲れる。


 そんな時は、あの青紫色の飴玉だよな。

 ああ、甘い物食べたい。


 そういや、逢魔が時を終えても残るんだな。

 今も牛鬼とぬらりひょんは残っている。

 

 ひとまず、牛鬼は俺の指揮下にあるが、

 ぬらりひょんはニコニコしながら俺のそばにいる。

 でも何もしゃべらない。


 なんだか、雪の視線が鋭いし、

 凛もどこか怒っていないか?

 カワは俺の横っ腹つつくし、何やってんだお前ら?


 ユイは周囲と町の偵察に出している。

 次来たときは、さらに苛烈になるのは分かっている。


 ふと目についた。

 水盤は静かだ。


 戦場は橙から戻っている。

 でも森の気配が、どこか少ない。


 音が、少ない。


 虫も鳴かない。


 風も、弱い。


 なんというか、禿げた?

 いや違うな。


 無駄な雑草を省いたと言えばいいのか。

 それとも痩せたと言う感じか。

 どこか、以前と違うんだよな。


 凛は横になったままだが、角に布がまかれている。

 なあ、ぶっちゃけあの角って角質の塊じゃねぇんだな。

 ヤベ、変に触らない方がよさそうだ。


 焔も包帯だらけ。

 小鬼は明らかに数が減っている。


 勝ったはずなんだけどな。

 どうしてこんなに森が軽く見えるんだ。


 霧が、ほんの少し薄い。

 ぬりかべの応答も遅い。

 土蜘蛛の動きも鈍い。


 俺の肩も痛いな。ああ、削られているさ。

 逢魔時の反動だな。

 でも言わない。


 凛が無理に起きようとする。

「動ける」


 でも立てない。

 焔が止める。


 俺は何とも言えない。

 俺がしたのは、逢魔が時に賭けただけだ。

 

 運よく、牛鬼とぬらりひょんが出たが、

 違う奴らが現れたら、また違った結果だろうな。


 どうにもアレは怪異が出るだけしか無いから、

 何がでるかわからねぇ。


 俺が出られるならばよかった。

 いや、出たか。

 殴れる力がないだけだ。


 運動不足でも鍛え不足でもない。

 そもそもが根底が違う。


 ああ、これで前衛不足が確定だな。


 横目で雪を見る。

 水盤を拡大したりして考えこんでいる。


 雪は感情を出さない。

 淡々と再編を考えているんだろう。

 つくづく思う。

 俺は王っていう器じゃないな。


 これじゃ俺、ヒモ男じゃん。


 雪はきりに指示を飛ばす。

「森の霧の層を濃くして。再配分よ」

「後、自然発生妖怪の再配置をするわ。これは私がするわ」

「百目の巡回間隔の変更も必要ね。霧あなたに任せるわ」


 霧は、懸命にうなずき外へ向かう。


 俺よりも王らしいな。


 雪は零を見る。

「零さまは前に出ません」


 強く言わない。

 静かに言う。


 出たくねぇわけじゃねぇ。


 百目が南の町を拾う。

 遠景。


 白い塔が増えてる気がするな。

 こんな短期間で建設なんてできるのか?

 魔導建設とかいうヤツなんだろうか。


 ちょうど待機していたユイに聞いてみた。

「アレは商人たちの馬車か?」


 ユイは俺の前に跪くと顔を上げ答える。

「はい。兵糧と武具が多く運びこまれています」

「他にも聖なる水も多量に仕入れいます」


 おいおい、ユイさんや。

 それだともろ見えなんだが。


 跪くにしてもだいたん過ぎるだろ。

 俺は今ここでガン見したいんだが。

 こいつ分かってて見せてるな。


 俺の視線で口元が一瞬上がりやがった。

 ああ、見てぇー。

 でもここじゃそれ、無理!


 仕方なく俺は目線をそらした。

 俺は頭を思わず抱えた。

 

 見たいのに見れない状態。

 それと事態がさらに悪化していること。


 人の出入りが増加。

 物資の急な搬入。


 これはどう見ても、前と同じじゃねぇな。


 でもまだ来ない。

 侵攻しない。


 来ねぇのが一番怖ぇな。


 あいつら“学習”してやがるな。

 神殿は夜域を観測しているにちがいねぇ。


 雪が言う。

「外縁がまだ痩せています」


 痩せてる?

 具体的に言ってくれないと困るぜ。


 俺はしったかで言った。

「どうなると予測する?」


「はい零さま。突破されやすくなります」

「物理的な圧も下がりますので進行速度も早まります」

「霧不足と外縁が痩せることは致命的に近くなります」


 なるほど。

 雪よ、解説助かったなどと言えるわけもなく。

「対策は?」


 うははは。もうしったか止まらない。


 雪は真剣な眼差しを向ける。

「配下のきりに、さらに層を厚くしてもらいます」

「私は自然発生妖怪の再配置を可能な限り行います」


 俺は、鷹揚にこたえた。

「ああ、頼む」


 やべ、俺は何を頼んでんだかな。


 雪ときりが外縁へ向かう。

 俺は水盤で二人を見ていた。


 百目越し。


 音はない。

 この音が無いってやつは、困るよな。


 雪が霧を撫でる。

 霧が揺れる。


 俺が触っても何も起きなかったんだが。

 やっぱ属性近いし能力あるヤツは違うんか。


 外縁の一部だけ霧が少し腫れている。

 そこには“白い粒”が残っている。

 アレが聖印の残り香か?


 雪が立ち止まる。

 百目の視界が一瞬乱れる。


 ノイズ。


 ……今のは?


 すぐ戻る。


 雪は普通に歩いている。


 だが。


 俺は水盤から目を離せない。

 なぜかは分からない。

 ただ、離せない。


 なんだか妙に違和感があるな。


 凛は眠っている。

 焔は地下本拠地を巡回。


 雪はまだ外縁。


 俺は妖怪ブックを開く。


 空白。


 描けない。


 なんか、描いて呼ぶだけじゃ足りねぇんだよな。


 この間の傷で肩が疼く。

 ため息が影を揺らして見えた。


 俺が殴れたらな。

 どうしたって今の現状じゃそう思ってしまう。


 その瞬間。

 百目の視界がまた揺れる。


 なんだ? また百目がおかしいのか?


 雪の姿が、霧に溶けるように消える。

 消えた? いやまさかな。


 霧が濃くなっただけだろう……。


 俺は水盤の前で各ポイントを切り替え続けた。


 ……雪?


 水盤は正常。

 だが外縁の一角。


 霧がほんのわずかに薄い。

 そしてその外。

 

 白い杭が一本、打ち込まれている。

 あんなのあったっけか?

 胸騒ぎがしてきた。

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