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第八話 答え合わせ

桜の木の秘密。使用人の秘密をシオンは知ることになる。

 アヤメは淡い紫色でこちらを見ている。口元は弧をえがいており、面白がっているのかはたまたそれが素なのかは本人にしかわからないだろう。


 シオンも紫色の目を泳がせながら言った。

「まず……私の場合は使用人の皆さんに手取り足取り教えていただきました。」

「うん、そうだね。」

 アヤメは肯定をした。それ以上はシオンの言葉を待っている。


 シオンは記憶喪失だ。


 同時に、先代の記憶の管理者がいなかった。


 だから、代わりに使用人が教えたのだろうか?


「今までの記憶の管理者がどのようにして受け継いできたかは存じません。ただ、マニュアルにはわからないことは使用人に聞けと……。」

 そこで気づく。シオンはアヤメを見つめて言う。

「……待ってください。アヤメさん。マニュアルの二十五ページに確か……」

 その言葉に、アヤメは目を細めていた。よく気付いたといわんばかりに。


 シオンは窓辺に手を置いて深く息を吸う。



 隣にいる使用人はただの人間ではない……?



 いつも持ち歩いている、記憶の管理者に渡されるマニュアル書の二十五ページをシオンは開く。そこにはこう書かれていた。



【使用人について】


 ・使用人はあなたに忠実です。


 ・困ったことがあれば何でも聞いてください。


 ・また、使用人は特例がない限り変わることはないためご了承ください。


 たった三文、されど三文。 だが、最後の一文に目が留まる。


 特例がない限り変わることはない。


 その文章だ。シオンはアヤメに恐る恐る尋ねた。

「アヤメさん。今まで特例はあったんですか?」

 もしあったなら、今までに何度か変わったということだ。寿命だったり、事情があったり。


 ……だが、一度もなかったとしたなら。

 アヤメはしばらく沈黙したあと、小さく息を吐いた。そして、つぶやくように言う。

「いや、一度もなかった。」

 シオンは目を伏せた。


 やはりそうか。

 この使用人。


 ずっとここにいる。




 その真実に気づき、シオンがしばらく戸惑っていると、後方から軽快な足音が響いた。アヤメとシオンはそちらを向く。そこには、金髪の使用人マリーがいた。

「二人とも、雨振ってきたね〜。あれ?なにか話してたかな?」

 シオンはマリー見て、また言葉を詰まらせた。この元気いっぱいの使用人も、普段からそばに寄り添う彼らも。みんな、みんな。


 なぜか死なずにここにいる。


 シオンは二人に視線を移しながらポツリと言った。

「お二人……いや、使用人の皆さんはもしかして……。不老不死なのですか?」

 アヤメとマリーは目を丸くした。そして数秒後、パチパチと拍手が響く。


 目をキラキラさせて満面の笑みを浮かべるマリー。

「すごい……すごいよアヤメさん!!ほぼノーヒントでうちらのことわかっちゃったね!」

 年相応に自然な笑みを浮かべ、優しく目を細めるアヤメ。

「あぁ、すごいな。……しかも、そこまで怯えてない。さすがだ。」

 なぜか両者ともに、称賛している。とても嬉しそうに。


 シオンは額に手を当てた。手がかすかに震えている。

「その……皆さんは平気なんですか……永遠にここにいて……その……。」

 声も震えていた。そうだ。確かにそうなのだ。


 彼ら使用人は、何百年と生きていることになる。だと言うのに、今も普通に接客をしたり自分を支えてくれたり、いろいろ尽くしてくれる。

 そんな秘密を抱えてもなお、そこにいた。


 その問いにマリーは静かに答える。

「平気……とは全然言えないな〜。でも、いろんな主様に尽くせるのはうれしいし、使命でもある。だから満足はしてるよ。別れはつらいけどね。」


 正直に。なんの遠慮もなく、かと言って責めるわけではない言葉。それが、どれほど重い言葉かを本人たちは知っているだろうか。




 アヤメはそこまでわかれば放してもいいだろうと、再度あの桜の木を指さした。

「あれは、記憶の管理者の歴史を象徴している。……昨年は一度枯れかけた。」

 その事実にシオンは首を傾げる。

「それは、先代が何かあったんですよね?いったい何があったのですか?皆さん、あまり触れたがらなかったようですけど。」

 シオンがそう尋ねると、アヤメは「あー」と罰が悪そうに目を背けた。


 外の雨音がより激しくなった気がする。


 アヤメは深く息を吸うと静かに言った。

「……先代の記憶の管理者は確かに"何かあった"。だが、我々も把握できていない。……水晶にも何も映らなかった。」

 アヤメの低く唸るような声に、マリーも静かに付け加える。

「みんな触れたくないわけじゃないんだ。でも、触れたら君が苦しむかもって……そう思ってるの。先代が消えた一ヶ月後に君が倒れてたからさ。」

 そこに、何の関係性がないとしても、彼ら使用人は考える。


 何か共通点はないかと。


 シオンは顎に手を当てて尋ねる。

「記憶を失った私と、何の情報もなく消えた先代。そこに、何かしらあるとお考えなのですね?」

 アヤメとメリーは同時に頷いた。


 アヤメは腕を組み、静かに言う。

「一応、かなり調べているつもりだ。だけど、未だ手がかり一つ掴めていない。だから、主はしばらく普通に営業に携わっていただきたい。何かあればすぐ伝える。」

 彼女の言葉を聞いて、シオンはコクリとうなずいた。


 自分ができる事があるなら手伝いたい。

 それしか、できないから。


「わかりました。よろしくお願いします。」

 力強いその二言に、二人の使用人も安堵した。


 彼ら使用人は何年も何十年も、何百年も生きてきた。だからこそ、このイレギュラーにも対応できる。……だとしても、今生きている主を守るため、今宵も無限の命を咲かせるのだった。

18時投稿が基本用事があるのでばらばらになってしまうので次回から19時に伸ばします!

把握よろしくお願いします。

二度も遅刻して申し訳ありませんでした。

毎日投稿は変わらないのでご安心ください!

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