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第五話 忘れない味

ブルーとマリーの手についていくシオン。もう、立ち止まらないと決めた。

 三人で仲良く手をつなぎながら、歩いていた。傍から見れば少し奇妙だが、記憶喪失のシオンにとってそれは信頼の形であった。

 しばらく歩くと、人はもう視線を向けなくなり、各々の空間に戻っていく。周囲の視線がなくなったのを確認して、マリーとブルーは同時に手を離した。もう大丈夫だろうと。


 マリーが、にこっと微笑みシオンに声をかける。

「よし、ここなら祭りを存分に楽しめるね!」

 先ほどの光景を思い出させないために、あえて前向きな言葉でシオンを導く。それが彼女の強みだった。ブルーは肩を落としつつ、その作戦に乗る。

「シオン様。早速ですが、何か食べませんか?歩いて疲れたでしょう。」

「そうだね!あ、あそこのたこ焼きなんてどう?」

 マリーが指をさしたのは赤い屋台。中では一人の男性が火属性の魔法を用いて、熱々のたこ焼きを焼いている。近くではそれを芸として見ているのか、目をキラキラさせる子供がいる。


「六個入りで銀貨二枚だって!お得じゃない?」

 マリーもあの子供のように、今か今かと待ちわびているようだった。それを見たブルーは肩をすくめて言った。


「お得かは食べてみないと分からないだろう。……シオン様、一つだけ食べてみませんか?」

 シオンは二人の視線を踏まえて、再度たこ焼きを作る店主を見た。ちょうど出来上がり、小さなお子さんに手渡しでたこ焼きを渡している。わずかに距離があるが、そのほほえましい光景から目を離せない。


 それに、あのたこ焼きがおいしそうだ。

「はい、食べてみたいです。」

 その言葉にマリーはぱあっと笑みを浮かべて、さっそく屋台に向かい出す。

「おい、転ぶなよ?」

 そんなブルーの気遣いの声が届いたかもわからないほど、既に彼女は屋台でやり取りをしていた。




 たこ焼きを持ってきた彼女は、そのまま近くにあるベンチに座る。二人を手招きして、小さな串を手渡した。


 そして。ついにたこ焼きを食べる。

「はい、シオン様。お好きなの一つどーぞ!」

 差し出された、小さな入れ物に収まる六つのたこ焼き。そもそもタコがどんな味なのだろうか。これがたこ焼きというんだという曖昧な知識が自分の脳を支配する。迷った末、差し出された入れ物の一番近くにあったたこ焼きを刺して自分の口に近づけた。

 茶色い生地の上に、濃いタレと、細かく刻まれた野菜がのっている。それよりも、湯気が立っていてとてもあつそうだ。ふぅ、ふぅ……と不器用ながらも息を吹きかけ口に頬張る。


 一噛みするごとに、溢れてくる生地の甘み。それから、たこ焼きの醍醐味でもあるタコの弾力。そしてしょっぱいタレが広がっていく。

 シオンは思わず目を見開いた。


 おいしい。


 普段の食事は、出されたものを口に含むだけの作業だった。何かをリクエストしたり、その料理に対して深く知ろうともしなかった。


 だが、今はどうだ?


 この味に至るまでの試行錯誤に、とても興味が湧いている。そもそもたこ焼きの起源まで遡っても満足しない感動がここにあった。なぜ、ここまで心を揺さぶられるのか。その答えは意外と近くにあった。

「んー!おいしいねぇ。」

 舌足らずの言葉を漏らしながら、同じたこ焼きを頬張るマリー。目を細めて、本当においしそうに食べている。


 その隣にも静かに食べているブルーがいた。口元は満足そうに弧を描いている。


 そうだ、自分はここにいる。


 記憶がなくとも、確かに自分は”今”を生きている。そんな実感が今更ながら湧いてきた。




 一方そのころ。主らの帰りを待つ記憶の図書館。祭りの騒がしさとは打って変わって静けさを放っている。一人の使用人が窓の外を眺めていた。普段、カウンターで接客をしている、赤髪の使用人アイカだ。掃除をしているらしい。


「今頃、何をしているのでしょうか。」

 すると、後方からもう一人の使用人がやってくる。

「アイカ、今日も掃除してるの?偉いね。」


 アイカが振り返ると、そこには男性の使用人がいた。銀髪で、髪を結う背丈の高い男性。桃色の目が愛花を見ていた。


 アイカはぺこりと会釈すると微笑む。

「いえ、使用人としての務めですから。それより、キュラ。貴方は確か、備品整理をしていたのではありませんか?」

 この男の名はキュラ。主に備品管理をしているらしい。アイカの言葉に「うーん」とうなった後真顔で言う。

「飽きたからやめた。」

「……。」

 アイカは通常運転のキュラを見て困った表情を浮かべた。

「それ、ブルーにばれたら夕食抜きにされますよ。」

 そんな冗談を聞いたキュラは、ポカンと口を開いた後クスッと笑う。


「まあ、日々の僕の頑張りで、倉庫はもともときれいだから大丈夫だよ。」

 キュラは胸に手を当てて、自信たっぷりにしている。アイカはそれを見ながら、目を細めた。

「……確かに、今日ぐらいは気を抜いてもいいかもですね。」

 窓から差し込む光は、次第に強くなり暖かくなってきた。アイカとキュラは並んで外を眺める。ふと、キュラが言った。


「……そういや、アイカ。最近変な客がいるの知ってる?」

 アイカはびっくりしたように目線を向ける。

「変な客ですか?」

「そう。変な客。」

 大事なことのように二度言うと、キュラは窓のふちに手を添えながら言う。その表情は先ほどの笑みとは異なり少し不安そうな、何かを考えるようなものだった。

「……毎週、自分の記憶の書を眺めるお客さん。どう思う?」

「毎週?確かに同じお客様が記憶の書を閲覧することは多いのですが……同じ記憶の書なんですね?」

 記憶の書は、見れる範囲が決まっているがそれは自分だけとは限らないという暗黙のルールがある。


 例えば、図鑑。記憶の書の派生として作られており、それは制限もなく見ることができるようだ。


 その中でも、自分の記憶の書を毎週決まったページを見ているらしい。少し違和感を覚える程度だった。

「……ですが、事情があるのかもしれません。例えば、その時の記憶が一番大切で忘れたくないからとみる方もおります。それでも変なお客様ですか?」

 アイカの言うことも一理あった。ここにはいろんな事情がある客が来る。キュラはそれを聞いて一歩引くどころかさらに追加で言う。

 小さく息を吐いて、何かを押し殺すように言う。

「……誰が事故の記憶を何度も見たがるんだ?」

「え……?」

 アイカとキュラの間に冷たい空気が流れてくる。それはただの戒めで見ているのか、はたまた別の目的があるのか。それは本人にしかわからなかった。

時間がバラバラになってしまい申し訳ありません!

次回から毎日18時投稿にします!

たくさんの方、見てくださりありがとうございました!

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