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第十五話 前を向く

追憶蝶自体がいるのも珍しいが、追憶蝶の記憶があいまいなのも異常らしい。アイカは、廊下で一人水晶を見つめていた。どこかに連絡をかけているようだ。

 アイカは、雨が降りしきる廊下で一人水晶を見つめている。淡い紫色の光が次第に弱まっていった。そして、低い声が聞こえる。


「……どうした?」


 その声が聞こえると、アイカはいつにもまして背筋を伸ばした。深く息を吸い、尋ねる。


「……ニウム様。追憶蝶が現れました。」


 声は震えてはいない。だが、連絡用の水晶を持つ手が震えていた。……相手は神様である。


 緊張するのは仕方がない。


 アイカがそう伝えると、ニウムが「うーむ……」と唸る。

 数分後、返答があった。


「確認した。……確かに不具合があるな。中身を見ようとしても拒まれるのは初めてだ。少し待ってろ。」


 そう言うと、水晶越しの気配が消えた。アイカは再度深呼吸をして歩き出す。自分も気持ちの整理がしたかったのだ。




 シオンと追憶蝶は、シオンの自室に来ていた。相変わらず、必要最低限で殺風景な部屋である。


 シオンは椅子に座ると、机のうえにおいているノートを開く。


 そこには、かつて自分が書き記したかすかな記憶の単語を書き綴っていた。どれも不確かで、あまり参考にはならない。だが、ここに残している。


 シオンは追憶蝶に向き直り、笑みをこぼした。


「それでは、早速ですがどこからどこまでわからないか確かめていきたいと思います。名前等はわからないという方向で進めさせていただきますね。」


 シオンは机に振り返り、塔のなかにあったあの石板の小さいものを取り出した。これで、言葉を話せなくても、やりとり可能だ。それを追憶蝶の下に置く。


 そして、再度姿勢を正してノートに目線を移した。


「まず、自分の容姿、性別などは覚えてますか?」


 名前を覚えていないということは、自分の見た目もはっきりしていないと思いシオンはそう尋ねた。追憶蝶は考えるようにその場にとどまったあと、すっと石板に触れる。


 〈多分、男。見た目は白い髪だったと思う。それ以外は……あいまいだ。〉


 シオンはそれを見てノートに、メモを取る。


 白い髪をした男。


 そして、次の質問に移る。

「今までどこにいたか分かりますか?」

 追憶蝶は考えるように右へ左へゆっくり舞っている。数分後、覚悟を決めたように石板に触れた。


 〈どこかはわからない。でも、大きな建物だった。〉


 ノートに"大きな建物"と記す。

 シオンはさらに続けた。


「そこでは一人でいましたか?」


 〈いや、何人かいた。〉


「ということは、貴族の方でしょうか。それともそこが職場だったのでしょう。」


 〈うーん……どうだろ。わからないな。〉


 そんなやり取りが交互に行われた。



 気がつけば数時間がたったようだ。辺りはすでに暗くなってきており、窓から差し込む光は太陽から月に変わっていた。


 ……だが、やはり追憶蝶が何者かを関連付けられる情報はなかった。出てきたのは先ほどの大きな建物にいた事。そこには複数人いた事。


 自分の容姿は白髪。それから、甘いものが好きだということが判明した。


 それ以外は、いまだ暗闇のなかだ。シオンはノートを閉じると、深呼吸をする。


「お疲れ様でした。質問は以上です。しばらくはここで待機して、指示を待ちましょう。」


 シオンがそう伝えると、蝶は石板に触れた。

 〈わかった。〉

 長い長い尋問のような時間が過ぎて、久しく沈黙が流れる。それでもあまり気まずさはなかった。


 ふと、石板に追憶蝶が触れる。

 〈僕はこれからどうなるのかな。〉

 シオンはそれを横目に見て考えた。


 自分は記憶喪失のまま記憶の管理者になり、ここにいる。この蝶もまた、そうだ。


 ……なにか、関係性はあるのだろうか。

 どちらも、記憶がないことに。


 シオンはそう心のなかで思った。

「……何かしたいことはあるのですか?」

 ふと、そう尋ねていたのに気がつく。

 追憶蝶はぐるっとシオンの周りを舞う。


 まるで、ここにいたいと言わんばかりに。


 それに、シオンは目を細めた。自分も確かそういう選択をしたのだ。

 わからないなら、今の自分にできることをしたいといった気がする。

 その頃の記憶も曖昧だが、ここにいいと今ならいえる……とシオンは思っていた。


 そう思うと、胸がジワリと暖かくなっていく。

「そうですね、ともに乗り越えましょう。この空白の人生を。」

 シオンはそう誓いを立てて追憶蝶に薬指を差し出した。


 約束の証。


 どの国でも地域でも、使われるものだった。追憶蝶は迷うことなく一直線に飛んできて、応えるように、その指にとまった。




 一方そのころ、アイカはいったん自分の自室に戻っていた。

 アイカの自室は、本棚が壁一面にありずらりといろんな書物が並んでいる。それから、クローゼットや寝具などはきれいに整頓されていた。アイカはまっすぐ椅子に座って机に向き合った。


 記憶の神ニウムの連絡を待っている。


 すると、淡く水晶が光った。アイカはごくりと息をのみ言葉を待つ。


 数秒後、あの声がまた聞こえた。


「……わかった。あの蝶が何者かが。」


 その言葉を聞いてアイカは目を丸くする。


「いったいどのようなお方なのですか?」


 アイカは知りたかった。

 記憶のないシオンに付き添うあの追憶蝶。少し、いつも見る蝶とは違う雰囲気を醸し出していたからだ。


 いったい誰なのだろうか。


 なぜどうしてそこにいたのか。



 それが気になって仕方がない。アイカは水晶をじっと見た。しかし、返ってきたのは別の言葉だった。


「そのことだが、今は話せない。だから、今は彼を保護しろ。」


 淡々としていたその命令に、アイカは逆らうことはできない。いやアイカどころかこの世界の人間は逆らえなかった。「はい、かしこまりました。」と尋ねたい気持ちを抑えて、命令に従う。


 その言葉を聞いたか、聞いていないかは定かではないが連絡が途絶えてしまった。

 アイカはそっと手を下ろし、静かに目を伏せた。

キュラ君、誕生日おめでとう!


というわけで、キュラの誕生日を祝いまして初めてキャラ設定を少しだけこの場で語りたいと思います!

自分で考察したい方、最後に見返したい方、特に興味ないよって方はスルーしてください!

それでは、よろしくお願いします!















キュラは、これを見る人に向けて手を振っている。小さく微笑み、桃色の瞳を細めていた。

「みんな、見てるー?僕ね、誕生日なんだ。おめでとー!」

大好物のチーズタルトを食べながら、ご機嫌そうに挨拶をした。


キュラ・スラナ。年齢は不老不死のため不明。種族は人間ではなく「吸血鬼」。

ただ、不老不死になる前から血を吸わない吸血鬼として記憶の図書館に勤めていた。

長い間血を吸ってはいないが、体には何の以上もない異例個体である。

血を吸わない理由は単純に血の味が気に食わないから。

基本のんびりするのが好きだが、唯一譲れないものがある。


それは、武器づくりだ。


幼少期、周りの吸血鬼が血を求めて彷徨う中、キュラはそこら辺に落ちていた人間の武器銃をキラキラとした目で見ていたそうな。

記憶の図書館に勤めるきっかけになったのは、初代記憶の管理者エルにこう頼まれたからだ。


「君の熱心な武器づくり、僕の職場で実際にやってみないかい?」


その言葉に首を振るどころか、ちぎれんばかりにうなずいて今に至る。

記憶の管理者ごとに扱う武器を作ったり、使用人たちの武器の調節をしたり……それはもう満足そうに日々過ごしていた。つい最近までは。


シオンが主になってからは、シオンの行動を四六時中観察している。何かを感じているらしい。それが満足かどうかは本人にしかわからないが、武器を作ることをやめて観察するだけの彼は珍しいと使用人のみんなは言う。


不真面目かといわれればそうでなく、しっかりメリハリはあるようで特に危機に関しては誰よりも早く気付く。怒ると怖いのは意外とこの子かもしれない。


名前の由来は「ラナンキュラス」という花からきている。


花言葉は純潔。その名の通り、自分を曲げない精神で唯一生き残っている純血の吸血鬼である。



彼は遠くない未来で、シオンに似合う武器をつくるだろう。
















いかがだったでしょうか?次に近いのはアヤメ姉さんですね。そこまで話が続いてるかはわからないが…無理そうなら途中にでも紹介しようと思います!

また、あとがきが好評そうなら日常会話的なの挟みたいとか考えてます!完全に自己満足ですけど。

SNSとか、これ以外一切やってないのでイラスト公開できたらいいなとか考えてました。


それでは、またお会いしましょう。

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