第十三話 外部のお客さん
夏の暑さが激しくなってきたころ、記憶の図書館はいつも通り営業していた。
しかし、今日は特別なお客さんがくるようでシオンと青髪の使用人ブルーは二人で玄関ホールで待っていた。
近くにいた客は好奇心からこちらを見ている。
そんなときに、馬車の音が聞こえた。ブルーがシオンに軽く会釈をすると、外へ出る。シオンも続いて外に出た。
馬車の扉が馬車の運転手により開かれる。革靴の先がレンガの上に降り、現れたのは灰色の上着を着こなした四十代ほどの男性だった。帽子を脱ぐなり、こちらに一礼をする。
「お初にお目にかかります。記憶の管理者様。私は、スオウと申します。本日はどうぞよろしくお願いします。」
夏の空気がふっと揺れ、スオウと名乗る男性の声が静かに溶けていく。シオンはその礼儀正しさにわずかに背筋を伸ばし、柔らかな声で応じる。
「ようこそ、記憶の図書館へ。遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。本日はよろしくお願いします。」
スオウもまた「よろしくお願いします。」と返した。ブルーも深くお辞儀をして、スオウとシオンを案内した。
用意してある客室にたどり着き、それぞれが席に着くとようやく本題に入る。
記憶の管理者のもとにたどり着く客は三通りだ。
一つ目は、普段予約をして記憶の書を借りる一般客。一冊の本しか借りられない。それも、基本的には自分か知人の者のみ。
二つ目は、図書館や公共施設。図鑑なども、記憶の図書館から借りられる。一定期間だけ貸し出しを許可しているのだ。
そして、三つ目は。
スオウは、一息つくなり単刀直入に話した。
「本日はわが町、ニア町の歴史を拝見していただきたくここに参りました。」
三つめは、歴史である。シオンはコクリとうなずき、まず書類を拝見した。
歴史は、個人の記憶よりも変えられれば世界が狂うほど危険なものである。だからこそ、正式な理由がない限り、貸し出すことはしない。
もちろん、それを制御するシオンにもそれ相当の責任が追及される。
スオウからもらった書類にはこう書かれていた。
さらなる町の発展のため、さらに細かく歴史を拝見したい。特に、例年開催されている祭りの来客者数の詳しい内容。それから、利益等の確認をしたいと思います。
他にも、魔物の発生件数やギルドの人数などのことを知りたいと事細かに記載されていた。その他に、その書を読みたい人のリストや、期間、住所なども書かれている。
シオンは一通り読むと、隣にいるブルーに受け渡す。ブルーが最終確認の役目なのだ。
ブルーが確認しているあいだ、シオンはスオウに対していくつか質問をした。
「書類の確認をする間、少し質問をさせてください。まず、期限はどれぐらい借りますか。」
この質問は、面接のようなもので、書類の内容が嘘か真かを判断するものである。シオンは紫色の瞳でじっとスオウを見つめていた。
記憶の管理者というのはそういう人物である。
疑ってかからないと、いつ記憶を悪用されるか自分の命を狙われるかが分からない。
すると、スオウが答えた。淡々と、柔らかな声で。
「三か月です。」
内容は一致していた。
次にシオンは尋ねる。
「閲覧する人数は何人ですか。」
スオウは答えた。
「五人です。」
その後も、用紙に記載されている質問と答えが一致するかどうかを確かめる。
結論的に、一つも間違っているどころかすべてが模範解答だった。シオンはすべての質問を終えると同時にブルーの方へ顔を向ける。
「ブルーさん。どうですか?」
ブルーは「はい。すべて一致しております。」というと、スオウの方へ向き直った。
「書類の不備が無いか、もう一度ご確認ください。」
手に持っていた書類をスオウへ手渡す。スオウは眼鏡をかけながら書類に目を通した。ペラッと紙がめくれる音が部屋に落ちる。シオンとブルーはその様子を遠目で確認していた。
そのとき、ブルーがシオンの耳元でささやく。
「シオン様。彼、魔眼を使用していた疑いがありますが、どういたしましょうか?」
それを聞いたシオンは驚いたように瞬きをしながら、ブルーを見る。一体どこで使っていたのかと疑問だからだ。
魔眼。それは、数千人に一人しか使えない魔法では再現不能な目の構造であり、まだ不明な点が多い。シオンは一応理解はしているが、首を傾げた。
「……目には変化はありませんでしたよ?」
シオンがそうつぶやくとブルーは再度スオウの目を見た。
「常に、目に魔力がこもってました。」
シオンは目を丸くしながら、スオウを見る。……確かに通常の瞳とは違い、微細な光が揺らめいているようだった。シオンは目を細めた後、スオウに尋ねる。
「スオウ様。少しよろしいですか?」
書類に目を通していたスオウはその声で、目を合わせた。
「はい……どうかなさいましたか?」
疑われているとは思えないほど、またもや穏やかな声で返してくる。
シオンは小さく呼吸を整えると、正直に言葉を紡いだ。
「スオウ様は、魔眼をお持ちですか?」
それを聞くと、目を丸くする。そして、申し訳なさそうに言う。
「ああ、これは視力の支援魔法でして……魔眼ではございません。お伝えするのが遅れてしまい申し訳ありませんでした。」
深くお辞儀をするのをシオンは静かに見守りつつ、顎に手を当てた。
「では一度、恐縮ではございますが解除していただけますか?」
魔眼と魔法の解除の仕方は違う。だから、その違いをシオンは見極めようとしているのだ。
スオウは「わかりました。」といい、眼鏡をはずした。じっとシオンを見つめて魔法を解除する。
右手を軽く振ると、目の光がすうっと薄まっていく。ブルーもその変化に気づくと、コクリとうなずいた。
ブルーは静かに言う。
「魔眼ではなさそうですね。次にその魔法を俺にかけてくださりますか?」
スオウは一瞬目を丸くしたが、即座にうなずいた。
「ええ、証明できるのでしたら……失礼します。」
そして、スオウは右手をブルーにかざして、同じ魔法を発動した。ブルーはしばらく周囲を見渡す。
しばらくして、コクリとうなずいた。
「確かに、確認できました。疑ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、こちらこそ何も言わずに使用してしまい、申し訳ありませんでした。」
互いに互いへ謝るという構図ができてしまい、間に挟まるシオンは目を泳がせている。
先ほどまでの冷たい空気がいつの間にか、穏やかになっていった。
問題ないということが確認できたため、来週から実際に貸し出すことが決定した。今日は手続きを済ませると、馬車でスオウは帰る。
「本日はありがとうございました。後日改めて伺いますね。」
「はい、お気をつけてお帰りください。」
シオンとブルーとで並んでお辞儀をすると、スオウは馬車へ乗り込んだ。そして、馬の蹄を鳴らしながら帰っていった。ブルーはシオンに向き直ると、笑みをこぼした。
「お疲れさまでした。それでは戻りましょうか。」
「はい。」
ややトラブルはあったものの、今日も無事営業を終わらせることができたようだ。シオンは目を細めて引き返していく。明日もきっと大丈夫だと思いながら。
いきなりですが実は今日、誕生日なんです。おめでとう、自分!
というわけですこしばかりですが、主役キャラたちの本名と誕生日を紹介しようと思います!
シオン 記憶喪失のため不明
ブルー 八月二十五日(苗字は不明)
マリー・ガーベラ 七月十八日
アイカ・ネリネ 六月二十二日
キュラ・スラナ 三月二十日
アヤメ・ネリネ 五月五日
一番近いキュラの誕生日が来たら、軽い設定でもここに書こうと思います。
やや解釈違いや自分で考えたいとかあると思うので、気が向いたら見てください。
ちなみに、見なくても支障はないです。
それではこれからも記憶の管理者一同をよろしくお願いします。
たくさんの方々、見てくださりありがとうございました!




