第98話 一ヶ月
連続投稿です。
97話からお読みください。
それから、数日が過ぎた。
依頼は、
変わらない。
朝に受けて、
昼に終えるもの。
人目のある場所。
距離は短く、
報酬は銅貨四前後。
危険はない。
だが――
油断すると、削られる。
そんな仕事を、
淡々とこなした。
気づけば、
町に来てから一ヶ月が経っていた。
(……一ヶ月)
指を折って数え、
やめる。
意味は、
あまりない。
生きている。
それだけで、
十分だ。
夕方。
仕事を終え、
ギルドを出る。
空は、
少しだけ赤い。
初めてここに来た日、
この色を見て、
落ち着かなかったことを思い出す。
(……慣れたな)
それが、
少し怖い。
町の外れ。
風の通り道。
座って、
水を飲む。
井戸の水。
銅貨二枚分。
高い。
だが――
腹を壊さない。
その価値は、
もう理解している。
袋の中を、
確かめる。
銅貨。
減らない。
増えすぎもしない。
“続いている”という事実が、
ここにある。
村を、
思い出す。
畑の匂い。
朝の咳払い。
火を囲む夜。
(……今頃、
どうしてる)
答えは、
想像できる。
同じだ。
村は、
変わらない。
変わっているのは――
こちらだけだ。
手を見る。
大きくなったわけじゃない。
だが――
力の入れ方が違う。
町では、
力は出さない。
判断を、
出す。
それが、
生き方になってきた。
空を、
見上げる。
星は、
まだ出ていない。
一ヶ月。
短い。
だが――
戻るには、
もう少し先だ。
「……まだだな」
誰にも聞かせない声で、
そう言った。
立ち上がる。
夜になる前に、
戻る場所がある。
それだけで、
今は十分だった。
ローディス王国領の町、
オーレム。
村を出て、
一ヶ月。
少年は、
剣を振らず、
魔法も使わず。
ただ――
“生き延びる判断”を積み重ねていた。
静かに。
確実に。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




