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第97話 取った者、取らなかった者


朝。


ギルドに入ると、

掲示板の下段が、

一枚減っていた。


(……六枚のやつ)


昨日、

手を伸ばしかけた依頼。


もう、

ない。


取られた。


誰が――と、

探す必要はなかった。


受付近くで、

同年代の少年が、

依頼書を握っている。


顔色は、

少し硬い。


(……あいつか)


声は、

かけない。


かける理由も、

ない。


受付の女が、

淡々と言う。


「……今日は、

戻りは日没前だ」


その言葉が、

彼に向けられているのが、

分かった。


外へ出る背中。


歩幅は、

速い。


(……焦ってる)


それが、

一番危ない。


トアは、

掲示板に戻る。


いつもの、

確実な札。


距離が短く、

人目がある。


報酬は、

銅貨四。


(……今日も、

これでいい)


半日。


仕事は、

問題なく終わる。


夕方。


ギルドの中は、

昼より少し静かだった。


依頼書を差し出す少年に、

受付が目を落とす。


「……時間は、守ってる」


一拍。


少年の顔が、

わずかに緩む。


だが――

受付の指が、

紙の端を叩いた。


「でも、足りない」


依頼書を、

ひっくり返す。


「署名が一つ抜けてる」

「確認、後回しにしたな」


少年は、

言葉を失った。


「……依頼先が急いでて」


「それは理由にならない」


声は淡々としている。


「期限を守るのは最低条件」

「仕事は、完遂して初めて仕事だ」


銅貨が、

台に置かれる。


「減額だ」


受け取る手が、

少しだけ遅れた。


横で見ていたトアは、

何も言わない。


(……間に合っても、

終わってなければ意味がない)


それは――

自分が、

ずっと選んできた基準だった。


受付は、

次の依頼書を取る。


「判断は悪くない」

「だが、詰めが甘い」


それだけ。


少年は、

小さく頷き、

下がった。


夕方の光が、

掲示板に差し込む。


トアは、

その紙を見上げながら、

静かに理解する。


ギルドは――

速さではなく、

“終わらせ方”を見ている。


外へ出る。


夕方の空。


六枚の依頼は、

消えた。


だが――

残ったものは、

それ以上に重い。


ローディス王国領、オーレムの町。


少年は、

取らなかった。


だが――

選ばなかった判断が、

静かに、

誰かの目に残り始めていた。


それは、

銀貨よりも遅く、

だが――

確実に価値のある積み重ねだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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