第96話 六枚の重さ
連続投稿です。
94話からお読みください。
夕方。
掲示板の前で、
足が止まる。
下段の札。
いつもと同じ色。
同じ紙。
だが一枚だけ、違う。
「配達/町外縁→街道沿い/半日
報酬:銅貨六」
六枚。
袋の中を、
思い出す。
(……今日と、
明日の分が楽になる)
水を気にしなくていい。
食事も、削らなくていい。
雨が降っても、
屋根を選べる。
指が、
札の端にかかる。
ほんの一瞬。
だが――
条件を見る。
距離。
街道沿い。
人目が減る時間帯。
戻りは、
日没ぎりぎり。
(……運ぶものは、
軽い)
だが、
軽いほど――
狙われやすい。
依頼元の印は、
小さい。
個人依頼。
保証は、
薄い。
指を、
離す。
札は、
そのままだ。
(……今じゃない)
銅貨六枚は、
魅力だ。
だが――
一度崩れたら、
取り戻せない位置に、
自分はいる。
代わりに、
隣の札を見る。
「倉庫整理/午後/銅貨四」
地味。
確実。
人目がある。
これでいい。
札を剥がし、
受付へ向かう。
女は、
札を見る。
一瞬、
掲示板の方を見る。
「……あっちは?」
何を指すかは、
分かっている。
「……今回は、
見送りで」
女は、
何も言わない。
だが――
帳面に、
小さく印をつける。
(……見てるな)
仕事は、
滞りなく終わる。
重い箱。
埃。
単調な動き。
だが――
頭は、冴えている。
夕暮れ。
外に出ると、
屋台の灯りが見える。
鍋の湯気。
焼いたパンの匂い。
(……今日は、
温かいものだな)
銅貨を二枚。
スープと、
固いパン。
腹は、
満ちすぎない。
だが――
足は、止まらない。
寝床は、
選ばない。
人通りの少ない裏通り。
風は弱い。
(……削った分、
眠りで払う)
空を見上げる。
六枚の札は、
まだ掲示板に残っているだろう。
誰かが、
取るかもしれない。
それでいい。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
手を伸ばし――
引っ込めた。
それは、
弱さじゃない。
自分の位置を、
正確に量れた証だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




