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第94話 名前で呼ばれる前


朝。


ギルドの扉を開けると、

昨日より人が少なかった。


時間が、

少し早い。


(……様子を見る日だな)


掲示板へ向かう。


下段の札は、

半分ほど。


内容は、

どれも地味だ。


掃除。

運搬。

確認。


だが――

一枚だけ、違う。


「依頼補助/半日/銅貨四

※単独不可」


補助。


つまり、

誰かと組む。


(……避けられてるのか)


そう思った瞬間。


受付の女が、

声をかけてきた。


「……トア」


一拍。


(……呼ばれた)


名前で。


「これ、出せ」


札を、

指で弾く。


「単独不可だが、

足りない分を埋める役だ」


「現場は、

ギルドが把握してる」


「逃げる仕事じゃない」


条件を、

一つずつ並べる。


(……試されてる)


「やります」


即答。


女は、

頷いた。


「相手は――」


視線が、

後ろへ向く。


昨日の、

同年代の子だった。


少し、

驚いた顔。


だが――

拒否はしない。


「……よろしく」


「……ああ」


短い。


それでいい。


依頼書を受け取る。


内容は、

倉庫街の在庫確認。


重労働じゃない。


だが――

数を間違えれば、即アウト。


道すがら、

同年代の子が言った。


「……俺、昨日ミスした」


「……知ってる」


「……それでも、

組ませるんだな」


「……ギルドが決めた」


それ以上は、

言わない。


現場。


箱を開け、

数を確認。


記録を取る。


二人分の仕事だ。


だからこそ――

誤魔化しは効かない。


(……速さより、

正確さ)


役割を分ける。


一人が数える。

一人が記録する。


途中で、

相手が言う。


「……こういうの、

向いてるな」


「……慣れてるだけだ」


嘘じゃない。


前世でも、

似たことはしてきた。


終わる。


印をもらう。


戻る。


受付の女が、

二枚の依頼書を見る。


二人分。


だが――

視線は、

一度だけ、

こちらに長く留まる。


「……問題なし」


銅貨が、

二人分出される。


同じ額。


だが――

評価は同じじゃない。


それは、

空気で分かる。


外へ出る。


同年代の子が、

言った。


「……また、

組むことあるかな」


「……どうだろうな」


答えになっていない答え。


だが――

嘘でもない。


夕方。


掲示板に、

新しい札が貼られる。


下段。

だが――

端に、小さく書かれている。


「※経験者優先」


(……ここか)


ローディス王国領、

オーレムの町。


少年は、

まだ前に出ていない。


だが――

名前を呼ばれる位置に、

静かに立たされ始めていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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