第93話 時間で削られる仕事
連続投稿です。
91話からお読みください。
倉庫は、
思っていたよりも静かだった。
人はいる。
だが――
声が少ない。
箱。
樽。
麻袋。
同じ形のものが、
同じように積まれている。
(……迷わせる配置だな)
依頼書を、
もう一度確認する。
「第一倉庫 → 第二倉庫
内容物:乾物
数量:指定数
期限:日没前」
距離は短い。
だが――
往復が多い。
力任せにやれば、
途中で息が切れる。
段取りを誤れば、
最後に詰まる。
(……最初に数だ)
運ぶ前に、
数を確認する。
途中で足りないことに気づくのが、
一番まずい。
指で数え、
位置を覚える。
重いものから、
先に動かす。
軽いものは、
最後でいい。
(……時間は、
体力より先に減る)
一往復。
二往復。
汗が、
背中を伝う。
腕が、
少し重い。
(……ここで急ぐな)
焦ると、
落とす。
落とせば、
拾う時間が増える。
結果、
遅れる。
途中、
別の倉庫から、
声がした。
「……まだ、そんな残ってるのか」
同年代の子だ。
別の仕事を、
任されているらしい。
声に、
焦りが混じっている。
(……同じだな)
仕事は違っても、
削られる感覚は同じ。
返事をしない。
今は、
口を開く余裕がない。
最後の運搬。
腕が、
わずかに震える。
(……間に合う)
太陽は、
まだ高い。
だが――
影は、
伸び始めている。
第二倉庫の係が、
依頼書を見る。
数量。
破損。
時間。
一つずつ、
確認。
「……よし」
木印が、
押される。
それだけ。
褒め言葉も、
労いもない。
だが――
否定もない。
ギルドへ戻る。
受付の女が、
依頼書を見る。
印。
時間。
一拍置いて、
銅貨を四枚出す。
「……遅れなし」
短い一言。
だが――
それで十分だった。
銅貨を、
袋に入れる。
音が、
確かだ。
背後で、
足音。
同年代の子が、
立っていた。
「……倉庫、どうだった」
「……削られた」
「……だよな」
それだけ。
少し、
間が空く。
「……次も、
やるのか?」
「……回されたら」
嘘はない。
相手は、
小さく笑った。
「……先に行くなよ」
冗談の形だ。
だが――
本音も混じっている。
(……もう、
並びじゃない)
夕方。
掲示板の下段に、
札が一枚だけ残る。
誰も、
すぐには取らない。
受付の女が、
こちらを見る。
視線だけ。
呼ばない。
だが――
見ている。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
理解し始めていた。
この場所で評価されるのは、
強さでも、
速さでもない。
時間の中で、形を崩さないこと。
それが、
次へ進む条件だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




