第92話 線が引かれる
連続投稿です。
91話からお読みください。
昼前。
ギルドの中が、
少しざわついていた。
大声ではない。
だが――
空気が、寄っている。
掲示板の前。
同年代の子が、
立ち尽くしていた。
札は、
もう手にない。
受付の女と、
低い声で話している。
「……時間、過ぎてる」
「……でも、途中で」
「理由は書いてある」
女の声は、
淡々としていた。
感情はない。
ただ――
処理している。
(……ミスか)
配達の遅延。
理由は分からない。
だが――
結果だけが残る。
同年代の子は、
唇を噛み、
何も言い返さなかった。
銅貨は、
渡されない。
依頼書は、
返却される。
それで終わりだ。
(……厳しいな)
だが、
理不尽ではない。
「半日」と書かれた仕事は、
半日で終える前提で金が動く。
理由があっても、
結果が覆ることは少ない。
その様子を、
少し離れた場所で見ていた。
ギルドの奥。
受付の女と、
もう一人の職員が、
小さく話している。
「……あの子は?」
「今回は外れ」
「次は下段の内側だけだな」
視線が、
こちらに来る。
一瞬。
すぐ、
帳面に戻る。
(……比べられてる)
直接じゃない。
だが――
確実に。
同年代の子が、
こちらを見る。
悔しさと、
困惑が混じった目。
声は、
かからない。
何も言わない。
今、
声をかけるのは――
優しさじゃない。
午後。
掲示板に、
新しい札が貼られる。
「倉庫間運搬/半日/銅貨四」
距離は短い。
だが――
時間管理が難しい仕事。
受付の女が、
こちらを見る。
「……これ」
札を、
指で叩く。
「運ぶだけだが、
段取りが悪いと詰む」
「やるか?」
質問だ。
だが――
選ばれている。
「……やります」
即答。
女は、
頷いた。
「失敗したら、
外縁はしばらく回さない」
「成功すれば――」
言葉を切る。
「次を考える」
それで十分だった。
木札を受け取り、
依頼書を取る。
背中に、
視線を感じる。
同年代の子だ。
目が合う。
何か言いたそうだ。
だが――
言葉は出ない。
(……ここで、
線が引かれた)
才能じゃない。
力でもない。
失敗を処理できるかどうか。
それだけだ。
ローディス王国領、
オーレムの町。
ギルドは、
誰かを責めない。
だが――
同じ場所に立たせ続けもしない。
少年は、
静かに理解する。
進むとは、
前に出ることじゃない。
戻されないことなのだと。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




