第90話 少し距離のある配達
連続投稿です。
88話からお読みください。
朝。
掲示板の下段に、
見慣れない札が一枚あった。
「配達/町外縁・半日/銅貨四」
(……外縁、か)
町の中ではない。
だが、街道に出るほどでもない。
町の“守り”が薄くなる場所。
少し考えてから札を取った。
理由は単純だ。
この距離は――
今の自分に必要な距離だった。
受付に札を出す。
「……外だぞ」
女はそう言った。
「半日で戻れるが、油断はするな」
「……はい」
頷く。
それ以上は、何も言われない。
依頼書を受け取り、
木札を首に下げる。
外へ出ると、
同じ札を持った子どもが、少し前を歩いていた。
年は――
同じくらい。
(……十前後)
背丈も、荷の大きさも、ほぼ同じ。
(……同年代の登録者、か)
町の門を抜ける。
人の声が、少しずつ遠くなる。
道は整っているが、
脇道はすぐ土になる。
その子が、ちらりとこちらを見る。
「……同じ依頼?」
「……そう」
短い会話。
歩きながら、互いの様子を測る。
武器は――
相手は短剣。
こちらは木剣。
(……違うな)
構えが違う。
あの子は、
「持たされている」。
俺は――
「使わない前提で持っている」。
配達先は、町外縁の染料工房だった。
煙突が一本。
人は少ない。
依頼主に、順に依頼書を出す。
工房の親方が、
二人の顔を見比べた。
「……子どもか」
驚きはない。
だが、油断もない。
受領の印を押し、
一人ずつに目を向ける。
「帰りは別か?」
「……一緒です」
同年代の子が答えた。
親方は、少しだけ考え――
頷いた。
「なら、道は分かるな」
「日暮れ前には戻れ」
外に出る。
同年代の子が、息を吐いた。
「……なあ」
「……なに」
「怖くないのか?」
少し、率直すぎる質問。
俺は、少し考えてから答えた。
「……怖い」
嘘じゃない。
「でも……
怖い距離は、覚えたい」
相手は、少し黙った。
「……変なやつだな」
「……よく言われる」
それで、会話は終わった。
帰り道。
互いに、前に出すぎない。
離れすぎない。
協力でも、競争でもない距離。
町の門が見えた時、
その子がぽつりと言った。
「……また、会うかもな」
「……たぶん」
それで十分だった。
ギルドに戻り、
依頼書を返す。
印を確認し、
銅貨四枚。
確かに、受け取った。
(……外は、違う)
距離が変わると、
人も、判断も、少しずつ変わる。
そして――
同年代は、鏡だ。
俺は、木札の重みを確かめる。
ローディス王国領、
オーレムの町。
少年は、
一歩だけ町の外に出て――
初めて「同じ場所に立つ他人」を見た。
それは、敵ではない。
仲間でもない。
比較という名の、次の扉だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




