第89話 回すという判断
連続投稿です。
88話からお読みください。
昼下がり。
ギルドの中は、
朝よりも静かだった。
仕事を終えた者。
仕事を探す者。
壁にもたれて休む者。
それぞれが、
それぞれの時間を使っている。
受付の女は、
帳面を閉じ、
一息ついた。
「……あの子」
隣の受付が、
小さく言う。
「今日の配達、
問題なかった?」
「むしろ丁寧」
「署名も綺麗。
時間も守ってる」
「子どもにしちゃ、
出来すぎだな」
女は、
肩をすくめた。
「だからって、
特別扱いはしない」
「ただ――」
帳面を指で叩く。
「“外に出しても壊れない”」
「その線には、
乗った」
隣が、
少しだけ笑う。
「回すか?」
「銅貨帯だけな」
「顔が出る仕事も、
限定だ」
「人を怒らせない、
場所だけ」
判断は、
速かった。
ギルドは、
学校じゃない。
育てる場所でもない。
だが――
“使える”かどうかは、
見極める。
入口の方。
トアが、
水を飲んでいる。
誰とも話さず、
誰とも揉めず、
邪魔にもならない。
だが――
消えてもいない。
「……本人は?」
「焦ってない」
「金を数えて、
次を考えてる」
女は、
小さく息を吐いた。
「一番厄介なタイプだな」
「分かってる子どもは、
転ばない」
「でも――
転ばせないと、
先に行けない時もある」
隣が、
眉を上げる。
「やるのか?」
「まだ」
女は、
帳面を閉じた。
「次は――
“少しだけ歩く仕事”」
「距離はあるが、
危険は低い」
「人の前にも出る」
「失敗すれば、
ここで止まる」
「成功すれば――」
言葉を、
切る。
「“使う側”の顔になる」
外。
トアは、
通りを見ていた。
人の流れ。
荷車。
呼び声。
(……次は、
どれだ)
掲示板に、
新しい紙が貼られる音。
まだ、
見に行かない。
今は、
待つ。
焦らない。
待てる子どもは、
少ない。
だから――
ギルドは、
それをよく見ていた。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年が知らぬところで、
仕事は選ばれ始めていた。
それは、
保護ではない。
試験でもない。
ただの――
実務上の判断だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




