第88話 顔を出す仕事
朝。
町は、
もう完全に起きていた。
夜を越えた者と、
朝から動く者が、
同じ通りを歩いている。
橋の下を離れ、
水で顔を洗う。
冷たい。
眠気よりも、
意識が先に戻る。
(……今日は、
“見られる側”だ)
ギルドに入る。
昨日よりも、
視線が一つ多い。
気のせいではない。
掲示板。
下段。
だが、
昨日とは違う紙。
「配達/町内/午前中/銅貨三〜四」
「依頼主:商店」
(……幅がある)
紙を剥がし、
受付に出す。
女が、
一瞬だけ目を上げた。
「……それ、取るのか」
「……はい」
木札を確認される。
「顔が出る」
「失敗すれば、
次は回らない」
「分かってるな?」
「……はい」
女は、
それ以上言わず、
依頼書を差し出した。
通りを歩く。
商店は、
匂いで分かる。
布と、
乾物。
「配達の?」
店主は、
こちらを一瞥し、
小さく頷いた。
「坊主か」
包みを受け取る。
軽い。
だが、
角がある。
(……急がず、
丁寧に)
人を避け、
道を選び、
立ち止まらない。
視線を、
感じる。
“背景の子ども”ではない。
今は――
「用事を持つ子ども」だ。
配達先。
名を告げ、
包みを渡す。
中年の女が、
少し驚き――
すぐに受け取った。
「……丁寧ね」
それだけ。
だが――
評価は、
そこにあった。
戻る。
依頼書に、
署名をもらう。
ギルド。
受付の女が、
紙を見て、
小さく頷いた。
木の皿に、
置かれたのは――
銅貨四枚。
「……満額だ」
「雑じゃない」
「時間も守った」
説明は、
それだけ。
(……見られてた)
銅貨を受け取る。
外に出る。
通りの向こうで、
商店の店主が、
こちらを見ていた。
目が合い、
すぐに逸れる。
(……点が、
増えたな)
逃げ場は、
減る。
だが――
足場は、
少しだけ固まった。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
顔を出す仕事で、
銅貨四枚を得た。
それは、
“特別扱い”ではない。
だが――
「次も回していい」
という静かな合図だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




