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第87話 変わらない場所

連続投稿です。

85話からお読みください。


――ミルネ村――


朝。


ミルネ村は、

いつも通りだった。


鶏が鳴き、

畑に人が出る。


鍬の音。

水桶の音。


何も、

変わらない。


……はずだった。


リネアは、

水を汲みながら、

ふと立ち止まる。


(……軽い)


桶の重さは、

昨日と同じ。


だが――

肩が、

少し余っている。


(……変ね)


理由は、

分かっている。


家の中。


空いた場所が、

一つある。


布団。

干し袋。

木剣。


“そこにあったもの”が、

ない。


リネアは、

何も言わない。


言わないまま、

仕事を続ける。


それが、

母のやり方だ。


昼。


ハルトは、

畑で鍬を振る。


いつもより、

深く。


土を、

強く返す。


(……静かだ)


村は、

静かだ。


だが――

耳が、

一つ分、

足りない。


子どもたちの声は、

ある。


だが――

混じらない声が、

一つあるはずだった。


(……もう、

聞こえねえか)


鍬を止める。


空を見る。


(……早いな)


早すぎるとは、

思わない。


ただ――

“来た”とは思う。


夕方。


村の入口。


誰かが、

言った。


「……レグから、

話が来たらしい」


「北で、

仕事してるってよ」


「……生きてるなら、

それでいい」


名前が、

一つ、

話題になる。


だが――

もう一つの名前は、

出ない。


出ないまま、

日が落ちる。


夜。


家の灯り。


リネアは、

布団を一つ、

整える。


使わない。

だが――

片付けない。


「……帰る場所は、

ある」


小さく、

そう言って。


ハルトは、

何も言わない。


ただ、

戸を閉める。


外は、

静かだ。


森も、

騒がない。


村は、

守られている。


だが――

それを守った者は、

ここにはいない。


ローディス王国領の辺境、

ミルネ村。


変わらない日常の中で、

二人は知っている。


――進んだ者は、

もう“戻る前”には

いないということを。


そして。


それでも、

帰ってくると、

信じるしかないということを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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