第81話 静かな分類
連続投稿です。
79話からお読みください。
――ギルド職員視点――
昼下がり。
冒険者ギルドの中は、
朝よりも人が少ない。
掲示板の前に溜まっていた人影も、
もうない。
依頼を剥がす音だけが、
時折、乾いて響く。
受付の女は、
帳簿を閉じた。
銅貨の仕事。
処理済みの印。
その中に、
一つ、同じ名前が続いている。
「……トア」
小さく、
名前を読む。
声に出す必要はない。
隣の机で、
別の職員が書類を仕分けていた。
「また、あの子か」
「倉庫整理、終わったぞ」
「依頼主の印も問題なし」
事実だけの報告。
評価の言葉は、
出てこない。
だが――
否定もない。
「時間は?」
「予定通り」
「余計なことは?」
「してない」
「……なら、いい」
それで終わる。
ギルドにとって、
一番扱いやすい答えだ。
失敗しない。
揉めない。
報告が簡潔。
子どもであることは、
考慮される。
だが――
理由にはならない。
「下段の依頼、
まだ残ってるか?」
「溝掃除と、配達」
「配達は……
あの子でいいか」
一瞬の間。
誰も異を唱えない。
「一人で動ける」
「字が読める」
「逃げない」
それだけ。
特別じゃない。
だが――
“外す理由”がない。
受付の女は、
次の紙を一枚だけ、
別の位置に貼り直した。
高さは、
ほんの少し下。
だが――
目線は変わる。
「……あの子は、
ここからだな」
誰に聞かせるでもなく、
そう呟く。
――トア視点――
夕方。
ギルドの外。
トアは、
木札を指でなぞっていた。
今日の分の銅貨は、
確かに受け取った。
数は少ない。
だが――
減っていない。
それが、
何よりだ。
中で、
何が話されているかは知らない。
知らなくていい。
ただ――
掲示板の紙の位置が、
昨日と少し違うことに、
気づいただけだ。
(……上でも、
下でもない)
真ん中。
子どもにしては、
妙な場所。
だが――
居心地は悪くない。
夕方の光が、
町を斜めに切る。
人の流れが、
また変わり始める時間。
トアは、
木札を袋にしまい、
歩き出した。
知らないところで、
評価は固まり始めている。
だが――
それを“期待”に変えないのが、
この町で生きるコツだ。
今日も、
無事に終わった。
それだけで、
十分な一日だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




