第78話 渡す前に、見る
連続投稿です。
76話からお読みください。
町外れへの道は、
静かだった。
家が減り、
人の声が遠くなる。
(……配達は、
帰りが本番だ)
前世の感覚が、
そう告げる。
薬師の家は、
小さな石造りだった。
看板も、
派手な印もない。
だが――
薬の匂いが、
風に混じっている。
(……本物だ)
戸を叩く。
少し、
間があってから――
低い声。
「……誰だ」
「……ギルドからの、
配達です」
名前は、
名乗らない。
依頼書に、
書いてあるからだ。
戸が、
少しだけ開く。
中から、
鋭い目。
(……試されてる)
薬師は、
依頼書を受け取り、
一行だけ確認する。
「……字が、
乱れてない」
それだけ言って、
中へ戻る。
しばらくして、
戻ってきた。
署名。
指印。
「……丁寧だな」
褒め言葉ではない。
事実の確認だ。
荷を渡す。
軽い。
だが――
扱いは慎重に。
薬師は、
こちらを見る。
「……一人か」
「……はい」
「……そうか」
それ以上、
聞かれない。
良い終わり方だ。
外に出る。
帰り道。
町外れの角で――
声がした。
「おい」
振り向く。
若い男。
二人。
服は、
町の者。
武器は、
ない。
だが――
距離が近い。
(……ただの絡み、
か?)
立ち止まらない。
歩きながら、
答える。
「……何ですか」
「ギルド帰りか?」
「……はい」
嘘じゃない。
男の一人が、
笑う。
「銅貨、
持ってるだろ」
(……これか)
逃げる距離じゃない。
戦う距離でもない。
(……見ろ)
視線。
足元。
背後。
通りの向こうに、
人影。
完全な袋小路じゃない。
「……持ってません」
声は、
弱く。
だが――
姿勢は崩さない。
男が、
舌打ちする。
「ケチだな」
もう一人が、
肩をすくめる。
「ガキ相手に、
時間使うな」
二人は、
離れた。
(……通ったな)
力は、
使っていない。
嘘も、
最小限だ。
ギルドに戻る。
依頼書を出す。
受付の女は、
署名を確認し――
何も言わず、
銅貨を五枚置いた。
「……問題なし」
それだけ。
だが――
目は、
昨日より長く、
こちらを見ていた。
外に出る。
夕方。
町の影が、
長くなる。
(……“できた”な)
派手なことは、
何もしていない。
だが――
それでいい。
ローディス王国領の町。
少年は、
依頼を終えただけだ。
だが――
ギルドの中で、
一つだけ変わった。
「子ども」ではなく、
「雑用が終わる子」として。
それは、
次の依頼へ進むための、
静かな条件だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




