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第76話 近づかない選択


夜。


町の灯りが、

一つずつ増える。


人の声は、

減らない。


だが――

質が変わる。


酒。

疲れ。

苛立ち。


(……この時間帯は、

危ない)


歩かない。


今日は、

動かない。


それが、

一番の判断だった。


昼に稼いだ銅貨を、

袋の奥へ。


父から渡された分と、

分けて入れる。


(……混ぜると、

判断が鈍る)


稼いだ分は、

使っていい金。


残りは、

“帰るための金”。


区別する。


空き地の奥。


壁と壁の間。


人の視線が、

通りにくい場所。


だが――

完全には、

隠れない。


(……隠れすぎると、

逆に危ない)


背を預け、

膝を抱く。


“気”を、

浅く。


“魔力”は、

触らない。


町では――

触れた時点で、

“異物”になる。


足音。


一つ。


止まる。


(……来るか?)


息を、

落とす。


視線を、

上げない。


足音は、

通り過ぎた。


二つ目。


少し、

重い。


(……酔ってる)


壁際を、

ふらつく。


近づかない。


だが――

こちらにも、

寄らない。


(……運がいい)


運も、

判断のうちだ。


しばらくして、

町が静まり始める。


完全には、

眠らない。


だが――

尖りが抜ける。


その時。


小さな音。


革の擦れる音。


(……袋)


気づいた時には、

指先が、

動いていた。


払う。


掴む。


「……っ」


短い声。


逃げる影。


追わない。


(……正解)


追えば、

仲間が出る。


確認。


袋は、

無事。


(……一人旅は、

これだ)


戦わない。


捕まえない。


目立たない。


夜明け前。


体を、

少しだけ休める。


眠らない。


浅く、

目を閉じる。


朝。


町が、

また動き出す。


昨日と、

同じようで――

違う。


(……生き延びたな)


それだけで、

十分だった。


ローディス王国領の町、

オーレム。


少年は、

剣も魔法も使わず――

「近づかない」という技術を、

一つ身につけた。


それは、

教わらなければ覚えられない。


だが――

生きていれば、

必ず必要になる技だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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