第73話 簡単な仕事ほど、奪われやすい
昼下がり。
日差しが、
石畳に跳ね返る。
配達を終えた足で、
もう一度、
掲示板の前に立つ。
下段の紙は、
さらに減っていた。
「配達」
「掃除」
「使い走り」
どれも、
短く、
安い。
(……競争が、
増えてる)
同じ仕事を狙う者が、
増えた。
理由は、
簡単だ。
危険が少なく、
今日を越えられるから。
背後で、
小さな声。
「……あの子、
取るの早いな」
振り向かない。
聞こえなかったことにする。
(……奪われるのは、
仕事だけじゃない)
通りを外れる。
商店の裏。
荷の積み下ろし。
同じ配達人が、
二人、三人。
顔を覚え始める。
誰も、
名は聞かない。
だが――
視線は、
覚えている。
(……同じ皿を、
取り合ってる)
町の端。
細い路地。
急に、
声をかけられた。
「……それ、
ギルドの木札か?」
年上の少年。
背は高いが、
動きが軽い。
「……そう」
短く答える。
「一緒に、
回らねえ?」
「配達、
まとめてやれば、
早い」
(……旨い話だ)
だが――
話が軽い。
「……いい」
「一人でやる」
少年は、
一瞬だけ顔を歪め、
すぐ笑った。
「そっか」
それだけ。
去り際に、
言葉が落ちる。
「……気をつけな」
(……脅しでも、
忠告でもない)
どちらにせよ、
距離を取る。
水を、
一口。
食べかけの保存食を、
かじる。
(……夜まで、
動かない)
無理に稼がない。
今日の分は、
もうある。
町を、
観察する。
配達が消える時間。
掃除が残る時間。
人が減る時間。
(……簡単な仕事は、
簡単に奪われる)
力で、
奪われることもある。
だが――
多くは、
“顔”と“数”だ。
一人は、
弱い。
だが――
一人は、
軽い。
(……今は、
それでいい)
夕方。
影が、
また伸びる。
掲示板に、
新しい紙は、
出ない。
今日は、
ここまでだ。
町オーレムの空は、
ゆっくりと色を変える。
十歳の少年は、
知る。
簡単な仕事は、
安全ではない。
だが――
判断を誤らなければ、
生き残れる。
町は、
剣より先に――
選択を試してくる場所だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




