第72話 歩いて稼ぐ
連続投稿です。
70話からお読みください。
朝。
町の音が、
昨日より少しだけ近い。
同じ場所で夜を越えた。
同じ時間に目が覚めた。
それだけで、
町は“知っている場所”に変わる。
(……今日は、歩く)
ギルドへ向かう。
掲示板の下段。
紙は、
少ない。
その中に、
一枚。
「配達/町内/一件 銅貨一」
短い。
危険の匂いはしない。
(……軽いが、確実)
紙を剥がす。
背後で、
誰かが舌打ちした。
振り向かない。
早い者勝ち。
それだけだ。
受付の女が、
依頼書を差し出す。
「荷は軽い」
「道も単純だ」
「……人に渡すだけ」
「署名をもらえ」
頷く。
ギルド裏。
小さな包みを受け取る。
布で巻かれ、
紐で結ばれている。
軽い。
(……中身は、気にするな)
余計なことは、
考えない。
依頼書の地図を見る。
町の東。
表通りから外れた一角。
(……人が少ない)
歩く。
速すぎず、
遅すぎず。
人の流れに、
逆らわない。
途中、
声をかけられる。
「……それ、配達か?」
若い男。
仕事帰りだろう。
「……はい」
短く答える。
「気をつけろよ」
それだけ。
脅しでも、
親切でもない。
町の言葉だ。
目的の家は、
すぐ分かった。
戸を叩く。
少し待って、
中から女が出てくる。
「……?」
包みを差し出す。
依頼書を見せる。
女は、
中身を確認し、
無言で頷いた。
依頼書に、
署名。
それだけ。
礼はない。
不満もない。
(……終わりだ)
ギルドへ戻る。
受付の女が、
署名を確認し、
銅貨を一枚置く。
「……確実だな」
それだけ。
外へ出る。
銅貨一枚。
小さい。
だが――
歩いただけで得た金だ。
(……悪くない)
町を、
もう一度歩く。
配達の道。
人の少ない通り。
危険そうな角。
全部、
頭に残る。
(……町は、歩いて覚える)
昼前。
水を、
一口。
保存食は、
まだ食べない。
(……余裕を、作れ)
日差しが、
強くなる。
影が、
短くなる。
町オーレムは、
今日も回っている。
十歳の少年は、
知る。
剣も、
魔法も使わずに――
歩くだけで、
生き延びる方法があることを。
そして、
それを知っている者ほど、
目立たず、
長く残るのだということを。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




