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第70話 町の底で、仕事をする


町南の溝は、

通りから一本外れた場所にあった。


石畳の切れ目。

水が集まり、

流れきらなかった場所。


(……匂いが、違う)


腐った草。

油。

古い水。


依頼書の印は、

間違っていない。


「……来たか」


溝のそばで、

鍬を持った男が声をかけてきた。


年は高くない。

だが、目が疲れている。


「子ども一人?」


「……はい」


男は一瞬だけ、

周囲を見る。


「逃げるなよ」


「……逃げません」


嘘は、

つかない。


つく必要がない。


仕事は、

単純だった。


溝に溜まった泥を掻き出し、

流れを通す。


重い。

滑る。


靴の裏が、

何度も取られる。


(……力を使うな)


“気”を乗せれば、

楽になる。


だが――

見られている。


ここは、

村じゃない。


掻く。

運ぶ。

捨てる。


それを、

繰り返す。


通りすがりの人間が、

こちらを見る。


好奇。

軽蔑。

無関心。


全部、

同じだ。


(……慣れろ)


昼前。


水が、

はっきり流れ始めた。


男が、

頷く。


「……終わりだ」


依頼書を差し出す。


男は、

泥のついた指で署名した。


「……悪くなかった」


それだけ。


ギルドへ戻る。


受付の女が、

依頼書を受け取り、

確認する。


銅貨二枚。


台に置かれる。


(……減らない)


昨日より、

一枚少ない。


だが――

今日の水は、

まだある。


(……積んだ)


外へ出る。


町の昼は、

相変わらず動いている。


溝は、

誰も覚えていない。


だが――

流れは、

確かに変わった。


町の底で、

仕事をする。


それは――

名前も残らない。


だが、

確実に“次”を作る。


ローディス王国領の町、

オーレム。


十歳の少年は、

知る。


目立たない仕事ほど、

確実に生き残りに繋がることを。


そして――

誰も見ていなくても、

世界は少しだけ、

動くのだということを。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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